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韓信の評判

韓信の評判はよくない。



当時は劉邦も韓信も同じようなものだった。


どちらも無職。


だがまだ、劉邦には帰る家があった。両親も健在で実は結婚して子供も二人いた。


嫁さんの名前は呂雉りょち


後に中国三大悪女の一人(あとの2名は唐の楊貴妃、清の西太后、諸説あり)に数えられる呂雉もまだこの時は劉邦の実家の農業をまじめに手伝っていた。



対して韓信はそもそも家がない。家族もなかった。


働いているわけでもなく、長い剣をぶらさげて本人もぶらぶらしている。


日がな、淮水1)の土手で昼寝をしたり、魚釣りの真似をしたり、と言っても本気で魚を獲ろうとは思っていない。


太公望呂尚の真似事でエサをつけてなかったり、針をつけてなかったりだ。


きっと韓信にとっての周の文王(釣りをしていた太公望をスカウトした王)が韓信をスカウトしに来てくれるに違いないと思っていたのか。


自分を太公望になぞらえる辺りが韓信のふてぶてしいところである。


きっと自分の事を大した人物になるに違いないと思っていたのだろう。


韓信は何故かこの時期まったく働こうとはしなかった。


自分はあくまで将として身を立て栄達する事しか考えていなかった。


だから、百姓であるとか、役人であるとか、日雇いとかで日銭を稼ぐなんて事は一切しなかった。


そのために毎日ひもじい思いをしていても韓信にとってはそれはどうでもよいことだった。



□□□□□□□□



一時期、淮水の亭長(下級役人、警察巡査のような仕事をしていた。江戸時代でいうと十手持ちの岡っ引きのような半町民半お役人みたいな存在)の家に居候していた事があった。


亭長からしてみれば自分の受け持っている地区に、まだ若く体つきは立派で長い剣をたずさえているが何故かホームレスがいる、というのが気になったのであろう。


ひょっとしたら、剣を持っていたから亭長の下働きでもさせようと考えていたのかもしれない。


だが思惑に反して韓信は何もしなかった。


はじめはそれでも良かったのだが、だんだん亭長は嫌になってきた。


何もしないタダ飯喰らいを養う義理もなければ余裕もない。


やがて亭長の妻は朝早く飯の支度をし、朝食は自分たちの寝床で済ますようになった。


韓信が起きてくる頃にはもう食事はない。


韓信は飄々としているように見えるが空気は読める男である。


亭長夫妻に「厄介もの扱いされている」そう感じた韓信は何も言わずに亭長の家を出て行った。



□□□□□□□□



こんな生活をしている割には意外だが、韓信は学がある。


文字を読み書きできるし、計算もできる。


書物を読み、天文を見、兵法を学んでいた。


だが、誰から何を学んだとかは記録がない。


独学ではなくちゃんと師について学んだ、とは考えられている。


韓信は愛用の剣を常に持ち歩いているが剣が得意というわけではない。


そもそも彼は武人ではないのだ。


韓信は自分自身の事を将である、と考えていた。


千や万の部隊を自分の手足のように動かして雌雄を決する。


戦場に身を置く以上は武に秀でた方がいいに決まっている。


だが剣に磨きをかけるより己の知力を磨く方を選んだ。


大将の中には将自身の武力によってリーダーシップを発揮するタイプはもちろんいる。


韓信は自分はそうではないと幼少の頃より思っていた。


図体は恵まれている方だろう。


項羽に比べるとかわいそうだが、それでも当時の平均よりはずいぶんたくましかった。


性格、だろうな。


韓信は自分自身をそう分析する。


自分で剣を奮って誰よりも先に敵陣に特攻するイメージが湧かないのだ。


それよりは帷幄いあく(自陣の本営の事)にあって作戦立案している方が向いてる。


そう、自分は将は将でも勇猛な将を使いこなす将なのだ。




いつもの事だがそこまで考え、ふっと自虐的な笑みを浮かべる。


「…だがここ十年ほど大きな戦はない。始皇帝が統一しちまったからな…。」


15年ほど早く生まれたら韓信も戦場を駆け巡っていただろうか?


日課になっていた淮水の土手に寝転がりながら流れる雲を見てそんな事を考えていた。




1)淮河わいがは、中華人民共和国を流れる川の一つで、長江・黄河に次ぐ第三の大河。古くは「河」が黄河の固有名詞であったので、淮水と呼んだ。


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