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幕間三 沛公劉邦

韓信が会稽に着いたタイミングであの方(笑)の登場です。



韓信が会稽にたどり着いた頃、劉邦の故郷でもある沛でも反乱の影響が出ていた。


樊噲はんかい、それでは沛の県令が俺らを街の守備軍として迎え入れたい、という事だな?」


「はい、つきましては街の門を開けてお待ちしてると。」


「しかし、何故急に?確か県令は俺の事は嫌っていたはずだが?」


「それについては、陳勝呉広の乱の影響で各地で反乱が勃発してまして、県令が自分の身の危険を感じたらしく、それならば先に反乱を起こそうと考えたみたいです。


県令は蕭何しょうかどのに秦に叛旗を翻す考えを相談したところ、秦から遣わされた県令では沛の人間は言う事をきかないであろう、と。


それでしかるべき人物を間に立てた方が良いという話になり、蕭何どのはそのまま兄貴を推薦したみたいです。」


「やはり蕭何の手引きか。だがありがてぇ、これで大手を振って沛へ帰れるな!」


「はい、街のみんなも兄貴の事を首を長くしてお待ちしてました!


すぐ帰りましょう!」


「よしっ!!野郎共!!


今の話を聞いたな!沛へ凱旋だ!!すぐ準備しろー!!」


「「「応ーーーっ!!!!」」」


まるで戦に勝ったような勝どきだ、と樊噲は思った。


だが、やはり樊噲も嬉しい。


これで劉邦党は世間から隠れていなくても済む。


「兄貴、あっしはこれで。蕭何どのに知らせてまいりますんで。」


「おう、よろしく頼むと伝えておいてくれ。」


「へい。沛へはどれくらいで着きますか?」


「三日もあれば十分だろう。」


「ではそのように。いよいよ兄貴を世にお披露目ですね。」


「ばっきゃろう!そこまで考えてねぇよ。


今はただ沛に帰れるのが嬉しい。」


劉邦党は日に日に数が増え今では数百人の規模まで膨れ上がった。


正規軍に代わり街を守備するにはそこそこ足る人数である。


久しぶりに故郷へ帰れるとあって皆の顔は明るい。


劉邦は久しぶりに会える家族や仲間の事を思い浮かべていた。








□□□□□□□□







沛では蕭何を中心に劉邦を街へ迎え入れる準備に追われていた。


役人では蕭何と同僚の曹参そうさん、平民では蘆綰ろわん、樊噲、夏侯嬰、周勃しゅうぼつなどが沛での劉邦の仲間だ。


そして今日にも劉邦が到着するという事でみんな門で待ち構えているところだ。


ちなみに県令はこの場にはいない。


県令の劉邦嫌いは相変わらずらしい。


(それでも自分の命が大事なので劉邦を沛に入れる事になったのだが)


沛でも市民は話を聞いていた為、段々と人が増えてきた。


劉邦党を一目見ようと集まってきたのだろう。


しばらくすると視界の向こう側に小さく行列が見え始めてきた。


「おっ来たぞ!劉邦党だ!」


誰かが叫ぶ。


街の人々がめいめいに劉邦党へ歓声を上げる。


蘆綰と夏侯嬰にいたっては涙を流している。


五百人を超えているという話だったがこうして見ると想像以上に多く見える。


やがて劉邦党が唄を歌っているのか合唱する声も聞こえ始めた。


楚の唄だ。


街の人々も合わせて歌いだす。


門の前は一種の舞台の上の様な雰囲気を醸し出す。


みんな思い思いの高揚感が胸にこみ上げてくる。


城壁の上の方にも人があふれてきて劉邦党を見物しているようだ。


蕭何はちらりと城壁の人ごみの中に県令がいたのを認めた。


「蕭何どの。」


曹参が呼びかける。


見ると我慢できなくなったのか樊噲達が飛び出して劉邦を取り囲んでいる。


「劉邦どの。お待ちしておりました。」


「おーーー!!蕭何!!いろいろありがとうな!!


お陰で堂々と帰ってこれたぜ!!」


「はい、まずは県令に会って頂きます。


とりあえず劉邦どのだけ街に入りましょう。


他のみなさんは城門の外で待機で。


全員がいっぺんに入りますと混乱しますので。」


「おっしゃ!聞いたか!!俺達は帰ってきたぞーー!!」


劉邦が街に向かって、こぶしを突き上げる。


「「劉邦党、万歳ーー!!」」


「「万歳ーー!!」」


とてつもない熱気が劉邦を中心に爆発している。


相変わらずの求心力だな、蕭何は感心する。


ぎぎぎーーっ…


ふいに何か金属を擦るような大きな音が辺りに響き渡る。


「ああっ!!城門が閉まって行く!!」


蘆綰が叫んでいる。


振り返って見ると確かに門が閉じていく。


(どういう事だ??)


この場にいる誰もが同じ疑問を持つが誰もそれには答えられない。


困惑と動揺が拡がる。


「蕭何、これは…?」


劉邦が蕭何に問う。


「わかりません、が城門の上に先ほど県令がいましたので聞いてみましょう。」


劉邦と蕭何が閉じた門の前まで進み出る。


そして門の上の城壁に登っているであろう県令に向かって蕭何が叫ぶ。


「県令閣下、これはどういう事ですか!!


なぜ、門を閉めるのですか!?」


みんなの視線が一斉に城門の上に注がれる。


しばらくして身なりの小さな、だが身につけている物が高級そうな官服を着た男が出てきた。


「だまれ!蕭何!!


その方、余を騙したな!!


沛を守護させると偽り、劉邦党を街の中に入れ余を亡き者にする企み気づかないでか!!」


何やら盛大に勘違いをしているようだ。


「閣下ーー!!門をお開け下さい。


この蕭何、そのような事を企む筈はありません。


誤解でございます。どうか話をさせて下さい!!」


「黙れ黙れーー!!聞く耳持たんわ!!


よいか!何人なんぴともこの門を通すでないぞ!!」


そう言い捨てて県令は姿を消した。


県庁へ帰るのだろう。


そして門の外に取り残された人々は困惑している。


閉じられて困っているのは劉邦党だけではない。


出迎えるために門を出た市民達も街に帰れなくなっている。


「話が違うではないか!」


と、どこからか非難する声が聞こえる。


すると火が着いたかの様にみな勝手なことを言い始めて収集が着かなくなる。


「黙れっ!!」


まるで地響きの様な一喝が辺りに響き渡る。劉邦だ。


しーーーんと一瞬で喧騒が嘘みたいに静まった。


「蕭何。」


さきほどの怒声とは打って変わって静かな声で劉邦は話しかける。


とても静かな声のはずだが、とてもはっきりと周りには聴こえた。


「県令に何があったのだ?」


と誰もが疑問に思った事を劉邦が訊ねる。


「はい、おそらく実際に劉邦党を目で見て恐怖を感じたのかと。


守備軍として五百人を超える兵が街に入るわけですからな。


県令を殺そうと思えば簡単でしょう。」


「そうか、ではどうするか…?


また山賊生活に戻るか?」


言いながら苦笑いをしている劉邦。


そうなったらそれはそれで構わない、と言いたげな表情だ。


「あ、いやしばらく。


私に考えがあります。矢文を街の中に打ちましょう。


文は劉邦どのに書いてもらいます。


宛ては、そうですね長老達がよろしいかと。


そして内容ですが、長老達に県令を取るか、劉邦党を取るかを決めさせる事をしたためましょう。」


「それで上手く行くか?」


「ほぼ、間違いなく。


後は結果を待つだけです。」


「そうか。誰か布と筆を持って来い!!」


蕭何の言う通りに文を書いた劉邦は矢に布を結わえ樊噲に手渡す。


樊噲が矢をつがえ、ひゅうと城門の上を目がけて矢を放つ。


矢は放物線を描いて城壁を越えていった。


劉邦が続けて叫んだ。


「今、放った矢を沛の長老様へ届けてくれい!!


沛の命運はみなに掛かっている!!


返事があるまで劉邦党は城外に待機する!!


しかと頼んだぞ!!」


しばらくしてから


「承知しましたーー!!」


と市民の一人が返事してくる。


「さて。


後は寝て待つか!」


下手をすると今日は野宿かもしれない。


劉邦党と門の外に取り残された市民と協力して天幕テント張りと食事の準備を始めるのであった。







□□□□□□□□







夜も更け、数時間が過ぎてから(ひょっとしたら今日はもう動きがないか?)と思い始めた頃


「親分!!」


見張りに立っていた男が手に矢を持って劉邦の天幕へ入ってくる。


「返事が来たか!!」


みんな急いで劉邦の周りに集まる。


「どれどれ…」


矢に結わえられた布を解いてみる。


『沛の街は劉邦党へ守護をお願いします。


つきましては県令の首を捧げますのでの刻に城門前に待機下さい。』


「よし、沛の街は俺達を選んだぞ!!」


「おおっ!!」


と歓声が沸き立つ。


みんな一安心といった顔をしている。


「よし、みんな天幕をたため!


沛に入る準備をしろ!!」


応と明るく返事が返ってくる。


思わぬトラブルがあったがどうやら帰れるようだ。







□□□□□□□□






約束の時間に門の前に待機してると


城門の上から声が掛かる


「劉邦様、お受け取り下さい!!」


するとぽーーんと何か飛んできてどすっと地面を転がった。


ん??と転がったものを手に取った樊噲が「げぇっ!!」と唸りをあげた。


「兄貴、こりゃ県令の首だ!!」


樊噲が顔をしかめながら髪を掴んで劉邦に見せて来る。


「うわっ!!分かったから、んなもん近づけるなっ!!


蕭何、県令で間違いないな?」


「はい、間違いありません県令です。」


劉邦が蕭何の確認を聞いてから門の上に向かって叫んだ。


「確かに県令の首、受け取った!!


今より劉邦党は沛へ入る。


開門しろーーー!!」


劉邦の声にあわせて門がぎぎぎーっ、ときしみをあげて開き始めた。


「よし、野郎共!!


凱旋だーー!!」


真夜中にも関わらず沛の街はみんな起きているような騒ぎである。


こうして劉邦は沛の街を押さえたのであった。


これより劉邦は『沛公』と呼ばれるようになる。


意味としては沛の太守ほどの意味であろうか。


歴史の表舞台に劉邦が登場した瞬間であった。

誤字脱字ありましたら一報をお願いします。


感想評価もよろしくお願いします。

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