劉邦の場合
うきんのとう(卯金刂)登場!!
ちなみに「刂」は、りつとう、とうなど読み元々は「刀」からの変形になります。
劉邦はチンピラだった。実家は農家。
本人は家業の手伝いもせず、あっちふらふら、こっちふらふら。
徒党を組み、酒を飲んで、女を追いかける。
この時はもう四十を超えている。
はっきりいってダメ人間で負け組である。
だがこの劉邦という男は不思議な魅力があったらしく、周りには何故か人が集まる男だった。
今も王婆さんの店で昼間から酒盛り、宴会の真っ最中だ。
劉邦はいつもお金を持たずに飲んでいるのだが、劉邦が飲み始めるといつもお店は満杯になるので王婆さんは今ではタダで劉邦に酒を飲ませていた。
「兄貴ーーー!劉兄ーーー!」
「どしたー!樊噲!」
「今から皇帝の行列が町を通るってよー!」
「マジ?見に行こうぜ!俺初めてなんだ!」
「こらー!あんたら!店出るときは一回清算しなー!」
「おっ、婆さんも皇帝の行列見に行こうぜ!」
「わしゃ別にええよ…」
「何言ってんだ、長生きできっかもしんねーだろ?縁起もんだ縁起もん。」
「こら、ひっぱるな!わかったから!」
ちょうど王婆さんの店の前を通るようだ。段々と野次馬が増えてきた。
「おっ!来たみたいだぞ!」
「スゲー長げーな。どこまで続いてんだ?」
「町の端から端までは楽勝であるらしい。」
「マジかよ…そんなにお供を引き連れてんのか?」
「そりゃ皇帝だからなぁ。
知ってるか?この国の全ての人や物や金は全部皇帝のものらしいぜ?」
「んじゃ俺もか?」
「みたいだぞ?」
「よくわからん、俺のものは俺のものだ。
ついでに慮綰と樊噲のものも俺のものだな!」
「おい!」
「うっししし」
「しっかし立派なもんだ。男として産まれたからにはこうならないとな!」
「兄貴にゃ無理だ。」
「何だとー!!」
「無理だべ。」
「無理だ。」
「うん無理、無理。」
「むっ…。」
ムスッとする劉邦。
やがて行列も通り過ぎて野次馬も帰って行く。
気がつくと道の向こうから品の良さげな老人がこちらを見ている。
「じいさん、どうした?何か用か?」
「お前さん、ここら辺のお方かな??」
「あぁ俺は劉邦ってんだ。」
「劉……。お前さんの顔はまれに見る貴相じゃ……。」
「がはは!じいさん嬉しいじゃねーか!
俺は面構えは昔から誉められるんだよなぁ。
この歳まで何もねえけど」
「兄貴は別にイケメンじゃねぇからな!」
「うっせ!だーってろい!」
「そうか、じゃがワシは今まで何人もの顔の相を見てきた。
お前さんはいずれ位人臣を極めるじゃろうな。」
「ほう!皇帝みたくなれるか。」
老人は黙ってうなずいた。
「聞いたか!みんな!俺は皇帝になる!」
「えー?」
「盗賊の親分の間違いじゃねえか?」
「わはは!じいさん気に入った!一緒に飲もう!俺の奢りだ!」
「こら!勝手にタダにすんじゃないよ!」
「婆さん、ケチケチすんな!早死にすんぞ!」
「何だと慮綰、だったらツケてる分今すぐ払いな!」
「えっ、それは……勘弁してください……」
「わはは!!」
一同笑い転げる。
こうして馬鹿騒ぎして一日が終わるのだった。
王婆さんは思う。
(劉よ、大丈夫かね?もう四十過ぎとるじゃろう。
女房に子供は二人いるのに働きもせずに毎日毎日遊び歩いて、飲んだくれて…。口を開けばホラだけは立派なんじゃが…。」
頭を振って台所に戻る。
さっき見た皇帝の行列を少し思い出し、調理にとりかかるのであった。