表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう片方の靴下は (短編集)  作者: 三澤いづみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

【流出】勇者✕魔王もの(日本語吹替版)【制作中止】



 これは百年ほど前に起こった魔王討伐の記録、とされるものである。


 危険を顧みず単身魔界に乗り込んだ勇者は、一年かけてついに魔王城の最深部へとたどり着いた。そこで待ち構えていた魔王と三日三晩の死闘を繰り広げた。

 昼夜を問わず続けられた激しい命のぶつかり合いの結果、魔王は勇者によってついに討伐された。


 しかし人間にすぎない勇者もまた、魔界から生きては帰れなかった。


 勇者と魔王は相打ちになったのだ、とまことしやかに語られていた。それを示す証拠はなかった。魔界の果てに存在したはずの魔王城は跡形もなく消え去り、わずかに巨大な建造物のあった痕跡が残るのみだった。


 魔界を旅した勇者の姿も、魔王城に向かったその日を境に消えた。巨大で堅牢だった魔族たちの本拠地たる城が消し飛ぶほどの死闘であったのだろう、と調査のため危険な魔界に向かい、数年後に人間界に帰還した探索チームは結論づけた。


 学者たちも、王国の賢者たちも、勇者に置き去りにされた仲間たちも、みなが勇者の生存を祈った。しかし、勇者は帰ってこなかった。そして魔王の影響も、勇者の足跡とともに消え失せた。


 勇者に救われた王国は、彼の行く末にまつわるものを探し求めた。そうして百年が過ぎた今になって、その映像記録が発見されたのだ。



 なお、この映像は、魔王が使っていたとされる汎用記録目玉型魔獣、俗に言うビデオレコーダービーストの魔晶核に複製されていたものである。




 魔王城の最深部。

 その部屋の様子をぐるりと一周し、それから対峙する二人が映り込んだ。


 キングサイズの寝台に二人並んで腰掛けて、今にも武器を抜きそうな勇者に、何の守りもつけていない無防備な魔王が密着し、その耳元に囁いている。



「それで、勇者くん? 今日はなんであたしのところに来ちゃったの?」

「その……魔王さんが許せなくって、こらしめるために」

「ふーん? どうしてあたしが許せないのかなあ? あたし、べつに悪いことなんかしてないよ。それに、こらしめるって……ここで?」


 魔王が勇者の弱いところに手を伸ばした。

 勇者は毅然とそれを振り払う。


「あっ、まだちょっと緊張してる? あ、もしかして初体験?」

「は、はい……その、こういうの初めてで」


「うんうん。分かるよー? でも、せっかくだから楽しんじゃったほうがいいよね? 誰にでも初めてはあるし、勇者くんは今日だってだけ。ね? ほら、笑って笑って」

「でも」


「ほらほら、そんなに固くなっちゃったらあたしと戦えないゾ? あ、違うところが硬くなっちゃった?」

「……あ」


「恥ずかしがらなくてもいいよー。人間ってみんなそうだから。むしろ、勇者くんがつよつよだって証拠。よし、他にも聞いちゃおうか。彼女はいる?」

「いません。いたら、こんなところに来ないし」


「えっ。でも仲間とかいたんだよね?」

「いましたけど……いいじゃないですか、そんなの」


「大事なことだよー? それで? みんな女の子だったの?」

「……そうです」


「ふふふ。そっかそっか。それなのに未経験だったんだ。かわいそーに」


 魔王は口元だけで、悠然と笑ってみせた。

 勇者はわずかにうつむいている。


「ああ、もう待ちきれないんだね。そんなにつらそうにして」

「魔王さんの……あんたのせいだ!」


 耳まで真っ赤になった勇者が、耐えきれなくなったように叫んだ。

 息は荒く、今にも襲いかかりそうになるのを、必死にこらえているのが分かる。

 一方の魔王は余裕綽々でそんな勇者から叩きつけられた視線を、むしろ喜ばしいかのように自分の言葉で絡め取る。

 ちろちろとピンク色の舌を見せつけて、まるで挑発するような仕草だ。


「あははっ。こわーい。最初からそんなに張り切っちゃうと、あとで困っちゃうゾ。ねっ、あたしを倒すために鍛えてきたんでしょ? じゃあ、勇者くんの体、そろそろ見せてもらおっかな」


 勇者は魔王に自分の力を見せつけるように、その肉体を見せつけた。

 ふむふむ、と魔王は勇者の全身をくまなく見た。じっくり見た。

 舐め回すように。上から下まで。首筋から、大事な部分まで。


「ひうっ」

「あはっ。勇者くんさあ、これからあたしたちって、対等の決闘するんだよね? だったらその邪魔な布も取っちゃおうね。ほらほら、それとも自分で外す? あたしに外してほしい?」


「な、なめないでよ!」


「焦っちゃって、かーわいい。ね。あたしとヤるって決めたとき、ちゃんとシミューレーションしたきたんだよね。そういうとこ真面目だもんね、勇者くんって」


 そして勇者の、自らの分身にして生来の相棒である武器があらわになった。

 それは鋭く天を指し示し、また太く、硬く、恐るべき威容を示した。


 それまで嬲るように勇者をからかっていた魔王は、恐れおののいた。

 影が自分の顔にかかるほどの巨大さ、偉大さを持ったそれを、まさかこのか弱そうな勇者が隠し持っていたとは思わなかったのである。

 見事な武器の形状とその危険性を見て取った魔王は絶句した。


「魔王さん……ボクはもう遠慮しないからな!」


 それまでの気弱そうな態度から一変し、勇者は奮起した。

 魔王は抵抗せず、そのまま押し倒された。


 それから、魔獣はどういうわけか目線をそらしたらしく、天井が映っている。実際の戦闘の風景がどういったものだったかは映像に残っていない。

 ただ、音声だけが残っていた。


 その戦いの激しさは、興奮を抑えきれない魔王の漏らした声に。

 あるいは勇者の苦しげな声に、すべてが記録されていた。


「うっ」

「すごい……すごいよ勇者くん、あたし、こんなの初めて!」


 両者が全身をダイナミックに使った激闘のせいか、ベッドどころか床や扉まで軋む音がしたり、あるいは獣のような唸り声が聞こえてきたりもした。


「お゛ッ」

「もっと、もっとだ!」


 ときには互いが主導権を奪おうとする静かな時間があった。

 勇者がマウントポジションを取ることもあれば、魔王のときもあった。

 一瞬のうちに攻守が入れ替わることもあれば、一方が攻め続けることも、焦らされることもあった。


「……っ」

「ふふ……こんなことっ、されるの、はじめて、でしょっ?」


 その後、勇者と魔王は三日三晩、死闘を繰り広げた。水や食事はいつの間にか部屋の片隅に用意されていて、二人は万全の状態で満足行くまで戦い続けた。


 やがて勇者は、魔王の秘密に気がついた。


「まさか、魔王さん……あなたは……いや、あなたも」

「ねえ、勇者くん。その先は、言っちゃダメなんだよ?」

「で、でも……」


 そして、その言葉こそが、二人の物語を結末に導く禁忌であった。

 青ざめた勇者はしかし、自分の気付きを無視することはできなかった。


「魔王さん」

「……なに?」


「あなたは、あなたは本当は……!」



 ――――ぷつんっ。



 映像は唐突に終わった。

 そのあと、真っ暗な画面に、こんなテロップが流れた。




 この作品は発見された映像記録をもとに王国宮廷魔導部隊(歴史編纂室)が人間が理解しやすいかたちにするため、編集、演出を加えたものです。

 可能な限りオリジナル版を尊重するかたちで再構成しているため、当時の言語がそのまま使われています。これにより、現代の人間には直感的に理解したがたい表現も含まれていますが、あらかじめご了解ください。

 また、この物語の登場人物はすべて十八歳以上です。





 そして最後に、こんなタイトルが浮かび上がった。



【独占】【最新作】「勇者なボクの最強の剣が、新人No,1 魔王ちゃんのやわらかいおなかを貫くまで」 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ