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現実主義者の適当推理

2人が動かないので、仕方なく近づく。

「アイオン先輩、着替え終わりましたけど」

私が、そう言うと先輩が身じろぎする。

ヴォイドがその様子を見て、額に手をやりそのまま顔を上に反らした。

「想像、以上だ」

アイオン先輩がぽつりと言う。

「お前、男だよな?」

そう呟いて、まじまじ見られてしまった。

ものすごく、確認されています。

確認するなよ、女なんだよ。

でも今は、男でなきゃ駄目なんだよ。

まだ入団して一日もたってないんだよ。

だからバレるのは困るんだよ。

って事で、これから先輩に女である事を全否定せねばならない。

ならないのだが、なんというか非常に空しい。

女なのに、女である事を否定せねばならないとは。

まぁ、先輩の依頼を受けたのは、私ではあるのだが…

さて、どうやって否定しようか?

「…はい」

「今の間って…まさか、本当は女?」

何で、そんなに嬉しそうなの?

「いえ。性別って確認されなきゃいけない事かと思って、言葉が出ませんでした」

ここ最近よく思うことだ。

これから自己紹介する時には性別も入れておくべきか。

"はじめまして、多田琉衣です。女です"

これもなんだかなぁ。

「そ、そうだよな。男だよな」

どことなく、がっくりしている先輩。

あなたの認識は間違ってないけど、今後のために間違った認識のままいてください。

「今日始めてレイに会ってたら、完全に女だって勘違いしてたな。危ない危ない」

「危ない危ないって、女だったらどうするんですか?」

「どうするってお前、そりゃ…」

先輩が改めて、じっとこっちを見る。

穴が開くほど見る。

「これはもう、いただくしかないだろう。あいつに紹介とか絶対ないな。うん、ない」

先輩が一歩こちらに踏み出す。

あれ?

なんか、先輩の様子が変?

なんか変なスイッチ押したのだろうか?

ともかく変なので、思わずそこにあった朝食用の果物ナイフをそっと手に取る。

なおも近づくので、一応軽く忠告する事にした。

「先輩、お忘れかもしれませんが、自分は男です。なので、自棄になるのはよしてください」

この格好をしている時に、"私"と言うと本当に女みたいなので、あえて"自分"という表現に変えてみた。

いい慣れないから、すぐに元に戻りそうだが。

忠告すると、先輩がなにやらぶつぶつ言い始めた。

「目の前の女は幻。目の前の女は存在しない。初恋は男じゃない。断じて違う。ありえない。だから存在しない。幻。よし大丈夫。よしいける。俺はやれば出来る子」

なんだか念仏を唱え始めた。

少し不気味だ。

思わず果物ナイフを強く握る。

でも、初恋が男と言うのは、ちょっとなんだか色々大変だったんだな。

先程、男を抱く趣味はないと強く否定していたから、そこら辺が関係しているのかもしれない。

誰しもある種のトラウマを抱えているんだなぁ。

「と、とりあえず。せっかく先輩がもって来てくれたんだし、朝食を食べませんか?」

そう言って、ヴォイドを見ると必死で笑いをこらえている姿が見えた。

私が促すと2人が席につく。

着替えている間にセッティングされたテーブルには、3人分の食事がきれいに並べられていた。

先程握った果物ナイフをそっと戻す。

改めて朝食を見ると、いつも王宮で食べるメニューとは全然違い、量が多く栄養価も高そうなものが並んでいた。

体力勝負な職場ならではのメニューだ。

朝からこのカロリーを消費するのはきついなぁ。

これからは、ウェイトコントロールだけは、きちっとしておかなきゃ。

そして食べ始めた。

ある程度食べ終わった所で、気になっていた事を先輩に聞く。

「では先輩、そろそろ計画を話してもらえませんかね?」

「計画も何も、先程言った通りなんだが。金を借りた隊のやつに会ってもらって、ちょっと付き合って振ってもらえれば、それでいいから」

「ふーん?」

気軽に言ってくれる。

先輩の計画の上辺だけを取れば、借金返済を迫られない程度にその相手と付き合い、かつ男だとバレない内にうまく振れという事なんだろう。

だけど実はこの話、裏がある様な気がしてならない。

そう思った箇所をまず整理した。

1.先輩が返済の肩代わりを新人に頼もうとした事。

ここでまず引っ掛かった。

お金のなさそうな新人に借りるよりも、誠実に頼めば貸してくれそうな同僚が探せばいるだろうと思ったのだ。

まぁ、借金の常習でなければの話だが。

2.私の女装依頼の話の持って行き方が強引だった事。

別に私でなくてもいいし、それこそ女の子紹介しろって執拗に頼めばいい。

第一借金をチャラにしたいなら、男の女装より生身の女の方がはるかにリスクが少ない。

相手が相当女癖が悪くて有名で、紹介された子が可哀想と言うのなら話は別だ。

3.シナリオくさかった事。

これは、何となく。

4.ヴォイドが一つも発言しなかった事。

ヴォイドなら、何か言っても不思議でないのに一言も発言しなかった。

朝から不機嫌だったせいかもしれないけれど。

5.アイオン先輩の上官が、団長もしくは副団長の部下かもしれない事。

アリーオ騎士団補佐官に荷物を届けるように言ってきた騎士が、恐らくアイオン先輩の上官だと推測する。

夜会の時に共にいたし、行動も共にしている風だった。

そして、そのアイオン先輩の上官は、補佐官の事をアリオイエと言っていた。

補佐官と言えば、文官だ。

主に騎士団の事務方をしている。

副団長や団長の補佐もする。

つまり、アリオイエと呼べるだけの間柄になる程よく顔を合わせるという事は、常に団長ないし副団長の側によく行くという事にならないだろうか?

まぁ、親友だとか飲み友達の線もあるけど。

6.ヴォイドが演技下手な事

実はこれが決定打かもしれない。

ジョギング時のだんまりもそうだけど、先輩が念仏唱えていた時必死に笑いをこらえていた。

変だとは思ったけど、そこまで笑えない。

常々観察していて、時たま表情筋がおかしいのではと思う事のある程に笑わない男が、肩震わせているって。

普段から相手を知らないと、あそこまで笑えないと思う。

そう言えば、昨日寄宿舎を後にしてから部屋に戻って来るのにヴォイドは40分かかっている。

もしかしたら、副団長との面談で後で1人で来いとか言われて、行った時に今回のシナリオを副団長から貰ったのかもしれないな。

てことは、シナリオを描いたのは副団長、かな?

襲撃犯がらみ?

国王が昨日、団長に丸投げしたとか言っていたし。

取り敢えず揺さぶりをかけるか。

ヴォイドに。

「ヴォイド、副団長から筋書き渡されたでしょ」

ヴォイドの眉が若干動くのを見逃さなかった。

「それって、先輩のこの件と関係あるでしょ」

ヴォイドが固まった。

図星か。

「さて、先輩。副団長にどんな命令されましたか?」

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