現実主義者のご利用は計画的に
国王との飲み会が終わってすぐ、私は寝てしまった。
やはりと言うかなんと言うか、どんなに飲んでも起きるのは6時ちょうどだ。
少し飲みすぎたように思ったけど、どうやら引きずらずにすんだようだ。
朝の日課のランニングも、気分よく進めている。
ヴォイドといつものコースを走り始めて5分ほどすると、アイオン先輩が後ろから声をかけてきた。
どうやら、私たちを追いかけてきたみたいだ
少しだけペースを下げる。
「よう。新入り」
「おはようございます。アイオン先輩」
ちらっと先輩の方を見て、挨拶をした。
何の用だろう。
「一昨日の試合よー…始まる前に忠告しただろー?」
ん?何の話だ?
「あったような?なかったような?」
「おいおいおい、先輩の言うこと…忘れ…るなよ。おかげ…で、お前のせいで、給料使い切った…じゃねぇか。どうして…くれんだよ」
あ、あの試験の話か。
確か、団長と私の試合、賭けの対象だったような?
げ、試合後先輩から恨みがましい視線バッチリ受けてたような。
すっかり忘れてた。
そういや、ヴォイドも賭けてたみたいだけど、そのお金どうしたんだろう?
ちらっとヴォイドを見ると、不機嫌そうな顔をしていた。
不機嫌なヴォイドって、口数が少なくなるんだよね。
「なんだ先輩、ただの強請りですか?」
「分かっ…分かってないなー。はぁはぁ。ここ…でこの俺に貸しを作っておきゃあ…後々何…何かと役に立つ、だろう?」
かなり頑張って追いかけてきたのか、先輩の息が上がっている。
えーと、それって自分で言う事?
かなり愉快だなこの人。
「だから、金を貸せと?」
どこに貸せるだけの金があるんだ、私に。
家なし、金なし、未来なし。
の三拍子揃ってるってのに。
「分かってる…じゃ、はぁはぁ、ないか。た、たのむ、速度、緩めろ」
仕方がないので、速度を緩める。
「ないですよ、お金なんて」
本当にない。
私がほしいくらいだ。
「10…10ティオでいいから」
ナリアッテの市井講座によれば、1ティオあれば昼食一回分なのだそうだ。
城下町の貴族街の前あたりに、美味しい食事処があるんだそうな。
そこのランチが1ティオで、すごくおいしくて有名なんだと。
一応、他の人にも1ティオと聞いて思いつくもの聞いてみた。
そしたら、いい宿が1泊出来ると洗濯専門の侍女さんが教えてくれた。
うん、ナリアッテって貴族だったよね?
彼女の金銭感覚は、あてにならん。
1ティオは\10,000前後とみなした。
つまりこの男は、家も金も何もない私に\100,000もの金を請求しているわけだ。
しかも、10ティオでいいからですと?
ティオの価値が判らなくなってきた。
「いや、だからないんですってば」
「またまたー」
寝言は寝てから言って下さい。
「本当ですよ。だから、住み込みで稼げる職業探してたんですよ。私家ないし」
「嘘だろ!?」
悪かったな。
ホント無一文なんだよ。
だから必死なんだっての。
「本当ですってば。だから、お金払いたくても払えないんで」
「くそっ」
「もしかして、当てにしてました?」
ジトッとした目で見られた。
図星?
うわー。
「…わるいかよ」
「悪くない悪くない、あはは」
思わず笑ってしまった。
捨てられた子犬みたいな顔するんで、面白くて。
「笑うことないだろ!?」
「騎士団って、衣食住にかかる費用はないんですよね?じゃあ、次の給料日まで、街に繰り出さずに、大人しくしていればいいじゃないですか」
「それができれば」
もごもごと言いよどむ。
なんだぁ?
何か隠してる?
「あ、いいこと思いついた。お金ないならさぁ、女の子紹介しろよ」
「…はぁ!?」
突然変な事を言い出す先輩。
それのどこがいい事なんだ。
今までの話と、女の子って全然つながらんだろう。
ムカついてきたので、気付かれないように走るピッチをあげる。
「なんで、知って間もない先輩の為に女の子紹介しなくちゃいけないんです?」
「そりゃ、お前が、侍女や女官と、よく話してるの、みかけてたから。知り合い…多いなら…2人位、けちけちせずに、はぁはぁ、提供しろと…」
ちょっと早すぎた?
息がまた上がってきている。
あ、先輩の意図が何となくわかった。
「金借りた相手って、隊の人ですか?」
先輩が頷く。
「それで、その借りた相手に女の子紹介して、うまくいけばチャラにしてもらおうとか考えてます?」
しかも、ちゃっかり自分もおこぼれもらおうってか。
なんていうかこの先輩、どうしようもないな。
「馬鹿ですか?」
思わず、口に出てしまった。
「うるせぇ」
悪態をつくが、声が小さいし迫力がない。
力が出ないらしい。
そりゃ、判らないようにペース上げてたからね、私。
「切羽、詰まってんだよ」
「ふーん」
まぁ、新人に金を借りようとするくらいだからなぁ。
相当困ってるんだろうけど。
可愛そうなので、止まってあげた。
「ふーんって。こっちは真剣に悩んでんのによ」
ガシガシと先輩が髪をかいている。
「自業自得って通じないか、身から、あーもう、全部自分が原因じゃないですか」
「お前が勝たなければ、大損しなかった」
知るか!
先輩がふとこちらを見て、ニヤッと笑った。
何だ?
「原因を作ったお前にも責任があるよなぁ」
こちらをじっと見つめながらこちらに近づくので、何故か判らないが一歩後ずさった。
「責任、あるよなぁ」
又近づくので、後ずさる。
「これならいける。よしっ」
又ニヤっと笑って近づくので、顔が引きつった。
「ちょーっと、お前に協力してもらおうか」
にやにやして又近づく。
「はぁ!?協力?なんでそうなるんです」
なんだか嫌な予感。
トラブルの匂い。
「お前、女になれ」
あれ?
また翻訳がおかしくなったのかな?
あはははー




