現実主義者の夜会準備
団長のおかげで、何とかあの場を抜け出し、琉生に戻るべくあのファンタジー部屋に向かった。
向かっている間中、私はヴォイドに説教をくらっていた。
曰く、他国の客に剣を抜くな。
曰く、死にたいのか。
曰く、もっと自分を大切にしろ。
BlahBlahBlah
そういえば、かなり以前こんな題名の曲を携帯の着信に設定していた子がいた事を思い出す。
歌詞を知って、すぐに変えていたのが微笑ましかった。
恥ずかしがり屋め。
ヴォイドの説教があまりに長いので、意識が別の方向に行ってしまったが、彼の言う事も尤もな事だったので、黙って頷いて謝っておいた。
ヴォイドよ、その顔は納得していないな?
そうこうする内に、部屋に到着した。
部屋の扉を開けると、ナリアッテが出迎えてくれる。
ああ、癒しの笑顔。
でも心なしか、いつもの1.2倍な感じがする。
完璧な笑顔だ。
この2割増し笑顔は、怒っているか企んでいる時に頻出する。
すぐに回れ右をしたくなった。
この時点で、私にとってすでに癒しではなくなっている。
「お帰りなさいませ。軽めの昼食をご用意していますわ」
ナリアッテが笑顔と共に言う。
「あ、ありがとう、ナリアッテ」
引きつりながらも、にっこりと笑顔を返す。
「では、こちらへどうぞ」
完璧な笑顔を保ちながら、案内するナリアッテ。
う、この後おこる出来事が、だんだん恐ろしくなってきた。
「そうだ、ナリアッテはきちんと朝食と昼食を食べたの?」
そうなのだ。
結構ナリアッテは仕事の鬼だ。
たまに食べずに済ましているのを知っているので、時々聞いておかないといけない。
食べていない時には、無理やり食わす。
返事を聞くと、どうやら今日は食べたらしい。
ホッとする。
でもこの仕事の鬼は、この後の仕事も容赦せず完璧に遂行するだろう。
完遂された暁には、きっと魂の抜けた自分がいるに違いない。
ちょっと遠い目になった事は許して欲しい。
そんなこんなで昼食を済ませて、一息ついてると、先程出迎えた時のさらに1.2倍の笑顔を振りまきながらナリアッテは私と向かい合った。
「では、ルイ様始めましょうか?」
それを合図に、待ってましたとばかりに集まって来る侍女さんズ。
この間のように逃げたりはしないけれど、少しばかり気圧されて一歩後ずさった私に罪はないはず。
その気迫、団長並。
それから私は、侍女さんズにいじくり倒された。
風呂に入って磨かれまくって、オイル塗られて90分。
着付けに80分と髪を纏めるのに45分。
メイクは私が10分で行い、トータル時間はおおよそ3時間45分。
昼を食べ終わったのが15時20分位だったので、今は19時5分。
夜会が20時位から開始なので、今の時間は結構ぎりぎりという事になる。
よかった、メイクを自分でしておいて。
やはり、正装ともなると、準備に時間がかかるなぁ。
しかも今日は国王主催ともあってか、色々しきたりに則ったドレスだ。
着付けに時間がかかった事かかった事。
一息をついてから、気合を入れ直してパウダールームを出る。
出たら、ナリアッテと目があった。
「やはり、ルイにはそのドレスの色がよくお似合いです。お勧めして良かったですわ」
どうも、こういう手の褒め言葉は苦手だ。
どう返していいか、判らなくなる。
取り敢えず笑っとくか。
「ああ、又笑って誤魔化して」
それから、ナリアッテに説教された。
今日はよく説教される日だ。
半分聞き流しながら、どうやって止めようか考えていたら、ノックがなった。
説教がやんだ。
ほっ。
ナリアッテの説教スイッチが入ると長いんだよ。
取り敢えず、訪問者が誰か尋ねないとね。
「どちら様でしょう?」




