現実主義者の朝の習慣
夢というのは、起きてすぐの時は思い出すのに、暫く経つと思いだせなくなる。
不思議だ。
なんだか、希望もへったくれもない嫌な夢を見た事だけは、一応覚えている。
でもまぁ、忘れるという事は、大した事がないのだろう。
と納得した。
それにしても習慣とはいえ、6時に目が覚めたのはいいがその後何をしていいのか分からない。
取り敢えず、洗面台で顔を洗い着替えようと思った。
ここの洗面台や風呂は、ボタンを押すと水が出る。
アナログだと思いきやなかなかやるなぁと、ちょっと感心した。
私はてっきり、人力でお湯を運んで来るのかな?と勝手に思っていたから、捻るわけでも、引っ張るわけでもなく、押して水が出た時は感動した。
いやー、いまだに移動手段が馬車だったものだから、侮っていましたよ。
この国は意外と技術水準が高い国だと、認識を上方修正しました。
国民の皆さんごめんなさい。
顔を洗い終わったので、着替えようと思ったら、私のスーツや昨日ナリアッテが持ってきた服がない事に気がついた。
あらゆる場所をを探したが、見当たらず部屋ををうろうろ。
どうしようか?
取り敢えず、落ち着く為に腕時計を付けようとして、失くした事を思い出した。
もしかしてまだ車の中にあるのかな?
昨日牢屋の中で目が覚めた時には、すでに無かったし。
私は、鞄の中に入っている別の時計を、仕方なく付ける事にした。
知り合いに借りた、というか必要にかられて奪ったごっつい時計。
男物。
腕時計してないと落ち着かない私には、この際デザインや好みは二の次三の次です。
さて、日課のジョギングも今の恰好じゃできないし、後できる事といえば、ベッドをきちんと直す事だけだ。
ああ、5分もかからない…
ただいま6:15。
結局する事といえば、仕事の続き…
ワーカーホリックと呼ばないで~。
しばらく仕事をしていたら、ノックがなった。
ナリアッテだった。
彼女が入ってきたので、朝の挨拶をした。
朝が早いのに、ナリアッテはさわやかだ。
彼女に着替えを受け取って、着替えてから朝食をとる。
やはり、パンがおいしい。
スープも最高だけど。
朝食も食べ終わった事だし、今日からの事をナリアッテに話そうと思った。
改めてナリアッテに話しかける。
「ナリアッテ、昨日お話したように、私にはここでの知識がないんです。」
で、と言葉を続けようとしたら、ナリアッテがにっこり笑って大丈夫です。
と続けた。
曰く、文字やその他は、毎日夕食後にナリアッテが教えてくれるとの事。
いずれ調べ物もするかもしれないので、図書室の出入りの許可はすでに取ってあるとの事。
禁止区域以外なら、護衛と一緒の時だけ、王宮内外自由に行動できるとの事。
その他色々。
何だろう?
このそつのない答えは。
私がききたい事をこう、的確に応えてくれる才女っぷり。
お持ち帰りしていいですか?
何か他に質問や要望はないかと聞いてきたので、日課のジョギングがしたいと言ったら、驚かれた。
女性が走ったりとかは、この国ではあまりしないとの事。
あー、私の常識、非常識っと。
でもなぁ、体鈍るのがなんかヤダ。
この部屋広いから、ここで何かやれって言われたらできそうではあるんだけど、せっかく空気がいい所にいるのに外で運動しないのは勿体無いような気がするしなぁ。
うーん、キース辺りに相談してみようか。
と、呟いてみると、ナリアッテが護衛の1人を呼び寄せた。
「ご紹介しますわ、本日からルイ様の護衛担当になった、アンヴォイド=クォイア=ジェウェレイ=ジャミニです」
「アンヴォイド=クォイア=ジェウェレイ=ジャミニです。以降お見知りおきを」
といって、茶髪の青年が完璧な礼をした。
うん、貴族だ。
セレブだ。
あれか、軍人はもしかして貴族しかなれない職業なのか?
王宮勤めという特殊性ゆえに貴族が選抜されている?
いや、違うな。
実力がなければVIPの警護は難しい。
貴族の坊っちゃんが、家格を保つ為だけに軍人になりましたでは、組織が成り立たない。
張りぼての軍隊なんて、穀つぶしもいいとこだ。
てことは、貴族で実力があるエリート?
しかも、又もや顔良し物件。
ここに来たのが、肉食系女子である我が友人だったら、ハイエナのごとく食いついたに違いない。
いや~!!私には選べない~!!といって、毎日嘆いたかもしれない。
どちらにしても、鬱陶しいことだ。
ま、せっかく挨拶してくれたんだから、こちらもしないとねって事で「ルイ=タダです。よろしくお願いします」と言って、頭を下げたら、ナリアッテは慣れたのかもう反応はしてくれない。
少し寂しい。
が、アンヴォイドさんはちょっとびっくりしていた。
うん、いい反応。
「先程の、ルイ様がおっしゃっていらした件なのですけれども、私が思いつくのは訓練場しか思い当たらないのです。貴方はご存じ?」
と、ナリアッテがアンヴォイドさんに尋ねる。
「どのくらいの距離かにもよりますが…」
「ナリアッテ、昨日私がお風呂に入ってた時間ぐらいだよ」
と私が1時間ぐらいだと言うと、ナリアッテが
「ああ、1ウェジェぐらいですわね」
といった。
1時間は1ウェジェっと。
「1ウェジェも走るのですか?あ、失礼いたしました。」
アンヴォイドさんが恐縮しだした。
「えーと、昨日も他の人には話したんだけど、私と話す時は敬語いらないから。立場もあるだろうから難しいだろうけど、せめて周りに誰もいない時ぐらいは普通にしてほしい。まぁ、無理強いはしないけど」
少し戸惑っていたが「はぁ、善処します」と言ってくれたので、よしとする。
「で、1ウェジェも走るのですか?」
と、ナリアッテが聞いてきたので、そうだよと答えた。
「もう、20年近くは続けてるよ。もうほとんど習慣だし、走るの」
というと2人にびっくりされた。
「「…20年…」」
そしてステレオ音声で言われてしまった。
そんなに驚かなくても…
ちょっとへこんだ。
ジョギングが出来そうな場所をアンヴォイドさんに教えてもらい、そこに今は向かっている。
馬車が通らない道だそうで、訓練にも使用されるとか。
訓練用でもあるので、軍人がうろついているとか申し訳なさそうに言われたので、気にしていないよと言っておいた。
王宮からさほど遠くもないところにその道はあった。
程良く木陰ができる、まさにジョギングぴったりの道。
しかもいい具合に起伏がある。
ちょっとテンションが上がった。
で、軽く体を伸ばして私は走り始めた。
するとアンヴォイドさんも付いてくる。
あれ?
「アンヴォイドさん、付いてこなくていいですよ?」
と、言うと
「それでは護衛の意味がありませんから」
と、返された。
「ですよね~」
あははと笑いながら、走る走る。
初めてのコースなので、景色を楽しみながらゆっくりめで走る。
どうやら、このコースは王宮を中心に一周するみたいだ。
だいたい15Km程と目算した。
1時間程度で1周できる距離なので、時間的にも距離的にもちょうどいい。
40分くらい走った所で、池があった。
そのきれいな風景に、思わず足をゆるめる。
「きれいな場所ですね」
と、アンヴォイドさんに尋ねると、
「そ…うです…ね。ここ…はと…ても人気…のあ…る場所で」
とのことだ。
何かへばってる?
話かけたの悪かったかな?
きれいな所だったので、もっとスピードを落として周りの風景を楽しみながら走る事にした。
ほどなくすると、元の場所に戻ってきた。
ちょうど一周もした事だし帰ろうと思ったら、死にかけ寸前の護衛がいた。
ので、もう少し景色を見てから帰る事にした。
「20年はだてじゃないんですね」
息が整ったアンヴォイドさんがそう言った。
まさか自分が、私に後れを取るなんて思ってもみなかったのだろう。
プライドを傷つけてしまったかもしれない。
悪いことしたなぁと思いつつ、返事はせず苦笑するだけにとどめる。
ごめんねと、心の中で謝りながら、いったん私たちは王宮に戻った。
これから暫らく訓練コースを、一般兵とエリート兵が並走する姿がしばしば目撃されることとなる。
それを見た兵士達がどちらが早く1周するのか、賭けをし始めるのはそう遠くない話。




