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第9話:裏切り者が判明!? そして元婚約者との“剣を交える再会”へ

──カルナス砦・密談室。


「……確定した。砦の位置、戦術、補給路──それらを漏らしていたのは、参謀副官【クラウス=ジーク】」


 レオニスが手にした証拠書簡を、アメリアは一読した。


 そこには──

 《“報酬は、爵位と保護。アメリアの失脚後、貴公は帝都に迎える”》

 という帝国宰相直筆の署名が残されていた。


「……やっぱり、ね」


 アメリアの声に、怒りも悲しみもなかった。ただ、冷たい沈黙だけが漂った。


 即時、クラウスは拘束された。


 詰所で暴かれるその正体に、騎士団は騒然となった。


「副団長の命を狙うなんて……!」


「俺たちの信頼を、全部裏切ってたのかよ……!」


 詰問の中、クラウスは唇を歪めて言った。


「お前たちこそ、滑稽だよ……! “理想”だの“自由”だの、口だけで戦争ごっこしてるだけじゃないか!」


「黙りなさい」


 静かに、アメリアが前に立つ。


「あなたの言うとおり、わたしたちの理想はまだ“未完成”よ。でも、あなたが売ったのは命じゃない。“希望”よ」


 その言葉に、クラウスは言葉を失った。


──その夜。


 新たな報が届いた。


《帝国第七騎兵隊が西から進軍中。指揮官は、リカルド=アルセイン准将》


 その名を聞いた瞬間、アメリアの中に古い痛みがよみがえった。


「……やっぱり、来たのね」


 彼はかつての婚約者。

 そして、帝国に忠義を誓い、アメリアを“切り捨てた”男だった。


──翌朝・前線。


 霧の立ちこめる谷あい。

 アメリア率いる自由騎士団と、リカルドの帝国部隊が対峙する。


 互いに旗を掲げたまま、両軍の前にふたりの人影が出る。


 片や、黒の外套をなびかせたアメリア。

 片や、白銀の鎧を身にまとったリカルド。


「久しぶりだな、アメリア」


「“元”婚約者にしてはずいぶんと威圧的な登場ね」


「命令だ。“反逆者”の首を取れ、と。……お前がそうなるなんて、皮肉だな」


「ええ、本当に皮肉。でもね、リカルド。わたし、今は“自分の意思”でここに立ってる」


「じゃあ俺は、何だった? お前に剣を教え、戦いを共にしたあの時間は──全部嘘だったのか」


「違う。全部、本物よ」


 アメリアの瞳は揺れていなかった。


「でも、“わたしが何者であるか”を、帝国も──あなたも、選ばせてはくれなかった」


「……!」


「だから今度は、わたしが“自分の意志”で答えを出す」


 アメリアは剣を抜いた。


「わたしの“全て”を否定した帝国と──

 あのとき、わたしから“目を背けたあなた”に、剣で答える」


 刹那、交錯する二つの剣。


 雷鳴のような打撃音と共に、二人は舞うように斬り結ぶ。


「変わったな、アメリア……!」


「ええ。あなたが手を離したその日から、わたしは──全部、変わったの」


 リカルドの突きを、アメリアが外套で受け流し、肘で腹部に一撃。

 すかさず振るわれた刃を、リカルドが下がって防ぐ。


 二人は、まるで心を剥き出しにするかのように、剣を重ね続けた。


 やがて、リカルドの刃がわずかに揺らぎ、アメリアの剣が彼の喉元に届く。


 止めを刺すべき瞬間だった。


 だが──


「……殺さないのか」


「あなたは、わたしに“決別”させてくれた人よ。

 今さらだけど、ありがとう。未練も、迷いも、もう消えた」


 そう言って剣を引いたアメリアに、リカルドは言葉を失った。


「次に会う時、また敵でもいい。

 でもその時は、“自分の意志”で、剣を抜いてきて」


──戦後。


 リカルドの部隊は撤退。

 アメリアは砦に戻り、静かに空を見上げた。


「ようやく、“あの日”を終わらせられた気がする」


 隣に立ったレオニスが、微笑む。


「貴女は過去に勝った。でもこれからが本番ですよ。

 貴女の“未来”は、今から始まる」


「ええ。帝国との全面戦争。“本気の自由”を貫くには、それしかないもの」

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


本作『元令嬢、国家反逆者として生きることにした』は、

没落令嬢でありながら“自分の意志で剣を抜いたひとりの少女”の物語として構想し、

気がつけば第9話まで駆け抜けるように綴ってきました。


アメリアという人物は、誰かの命令に従うことをやめ、

“自分の選んだ道を、自分の責任で歩む”ことを決意した女性です。

そんな彼女の姿に、どこか現代の私たち自身を重ねてくださった方もいたかもしれません。


戦いや葛藤、そして数々の選択のなかで、彼女は確かに何かを手に入れ、何かを失いました。

それが“正解”だったかどうかは、読み終えた皆さんひとりひとりの中にあるものだと思っています。


今作はここで一度の完結とさせていただきます。

彼女の物語は、まだどこかで続いているのかもしれませんし、

あるいはもう、静かな日々を手に入れたのかもしれません。


それを描くかどうかは、読んでくださった皆さまの反響と、

そして、アメリア自身が再び“剣を抜く覚悟”を決めたときでしょう。


物語に触れてくださったことに、心からの感謝を。

そして、どこかでまた、お会いできますように。


――作者

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