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第26話 接触

「貴方はシオン・ターコイズの秘密を知っているか?」


 と、ノアは質問を投げかけながら、仮面の下では神眼を発動させていた。質問に対するエステルの反応を解析するのだ。

 嘘をついているかどうか、見極めるために……。


「………………?」


 エステルから困惑したような反応が返ってきた。


(戸惑っている。質問が曖昧だからか?)


 もっと会話を続けて反応を探る必要があるので――、


「肯定なら首をわずかに縦に、否定なら首をわずかに横に振ってくれ」


 と、ノアは言葉を付け加える。


「……」


 エステルはわずかに首を横に動かした。

 すなわち、シオン・ターコイズの秘密は知らない。

 ただ、質問が曖昧すぎて秘密が何なのかわかっていない可能性もある。


「シオン・ターコイズには貴方以外に婚約者がいたはずだ。知っているな?」


 ノアは続けて質問を口にした。


「……」


 首を縦に振るエステル。

 知っている、ということだ。


「モニカ・ヴァーミリオンという名前の少女であり、貴方の姉だった人物だ。間違いはないな?」

「……」


 頷くエステル。


「モニカ・ヴァーミリオンが今どこにいるのか、貴方は知っているか?」

「………………」


 エステルは今までよりも間を開けてから、恐る恐るかぶりを振った。すなわち、モニカがどこにいるのかエステルは知らないというわけで……。


(……こちらの様子を窺っている。モニカのことが気になるのか。予期せぬ質問に動揺しているだけで、嘘はついていない)


 ノアはエステルの反応を逐一分析する。そして――、


「シオン・ターコイズと、エステル・ヴァーミリオンのことで俺に何を隠している?」


 ノアは揺さぶりをかけるような質問を意図的に投げかける。この質問に対する反応でエステルとダアトの関係を見極めるのだ。


「っ……」


 少し強めにかぶりを振るエステル。

 何も隠していない。そう言わんばかりの反応だった。

 実際、ノアもそういう風に判断して――、


「そうか」


 と、安堵するように相槌を打つ。


(確定だ。エステルは自分の婚約者であるシオン・ターコイズが偽物であることに気づいていない。モニカの失踪についても何も知らない。つまりはダアトとも関係していない。裏を返せばエステルがダアトから狙われる理由がないということでもある。それは良いことだ。けど……)


 このままではエステルが偽物を偽物だと知らないまま、偽物のシオン・ターコイズと結婚することになってしまう。

 それはいいのか? エステルに真実を教えるべきではないのか? だが、教えたところでどうなるというのか?

 真実を教えてしまえばエステルまでノアとダアトとのしがらみに巻き込んでしまうことになる。エステルまでダアトに狙われてしまうかもしれない。


(いいのか、それで?)


 潜入する前からずっと考え続けていた。だが、ノアはこの期に及んで答えを出すことができなかった。どちらが正しいのか、迷ってしまっている。だから――、


「……貴方は、シオン・ターコイズと結婚するのか?」


 新たな質問を投げかける。


「……」


 エステルは首を縦に振る。


「貴方はシオン・ターコイズと結婚したいのか?」

「……」


 エステルの返答は変わらない。

 しっかりと首を縦に振った。

 すると、どうしてだろうか?


「っ……。では、貴方はシオン・ターコイズを愛しているのか?」


 ノアは苛立ちを覚えたのか、そんな質問を苦々しい声で投げかける。


「……」


 エステルは迷わず頷いた。

 それから――、


「貴方はシオン・ターコイズに対して不満を抱いていないか?」

「シオン・ターコイズはひどい男じゃないのか?」

「本当はシオン・ターコイズと結婚したくないんじゃないのか?」


 などと、ノアは立て続けにシオンを貶めるような質問を投げかけていく。そのすべてにエステルは首を横に振って否定の意を示した。

 愛する婚約者を貶めるようなことばかり訊いたからだろう。敵愾心が籠もった眼差しをノアに向けていた。


「…………そうか」


 ノアは仮面の下で、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 同時に、不快感を抱く理由がわかった。

 かつて自分がいた場所で、本物の自分ではなく、偽物のシオン・ターコイズが本物として受け容れられているのだと突きつけられたからだ。


(俺は自分という存在を奪われたんだ。いや、奪われていたんだ。俺が自覚するよりもずっと前……。そう、あの研究所にいた頃から)


 自分が違法な研究施設で家畜のような扱いを受けていた三年間、エステルはシオンの偽物が本物と入れ替わったことに気づかなかった。

 気づいてくれなかった。それどころか、エステルは偽物の自分を愛しているという。その上で結婚するのだという。

 わかっている。わかってはいるのだ。外見がまったく同じなのだから、偽物と入れ替わったことに気づかなくとも仕方がない、と。

 けど、エステルなら気づいてくれている。

 そう期待していたのかもしれない。

 だから、苛立った。その怒りが手前勝手な失望によるものだと理解していても、不快感が押し寄せてくるのを抑えることはできなかった。


(いま俺がこの場にいるのは、未練があったからだ。憧れがあったからだ。そこは俺の居場所だと、訴えたかった。それでエステルが俺のことに気づいてくれて、けど俺は城に戻るわけにはいかなくて……、都合の良いことを考えていた)


 少なくともダアトとの因縁が片付くまで、モニカを見つけるまでは、もとより城に帰るつもりはなかった。けど、帰る場所はあると思っていた。いつか再会したモニカと一緒に幼馴染のみんながいる場所へ帰ることができる。それを確認したかった。

 だが、帰る場所なんてなかったのだ。偽物のシオン・ターコイズが現れ、エステルと話をしたことで、ノアは現実を理解した。


(俺が甘かった。そう、モニカが失踪したあの日から、引き返す道なんてどこにもなかったんだ。だから、かつての俺は城の外に出ることを願っていた。そして、今の俺は城に出ることができた。なら、俺がするべきことは……)


 いつか戻るべき場所に憧れることではない。

 戻るために、前へと進むのだ。

 すべてを得るか、すべてを失うか。今のノアはそういう瀬戸際に立たされている。ならぬるい判断をしている場合ではない。


(今の俺は誰だ? シオン・ターコイズか?)


 と、ノアは自問自答して――、


「いいや」


 自らの決意をあえて言葉に出して、否定した。


「…………?」


 エステルが怪訝な顔になる。


(……この場所に来た目的はもう達した)


 エステルがダアトと無関係だとわかった。

 今はそれで十分だ。だから――、


「……ごめん」


 ノアはぼそりと謝罪した。

 それはエステルには真実を伝えない決断への謝罪だ。


「……?」


 エステルは訳がわからないという顔をしている。


「これで最後。これは命令ではなく、お願いだ。返事もしないでいい。君がシオン・ターコイズのことを信じているのなら、今日、ここであったことは誰にも言うな」


 ノアは一方的にそう囁きかける。そして――、


「用件は済んだ。約束通り、危害は加えない。俺はもう行く。貴方が追ってこようとしない限りは、大人しく退散する。次に貴方の前に姿を現すこともないだろう。今日あったことは他言無用だ」


 勢いよくベッドを飛び降りてから、エステルにそう告げた。

 腰に忍ばせた剣に手を伸ばし、無防備なままのエステルを威嚇しながら、リビングへ通じる扉へと下がっていく。


「ま、待ちなさい! 貴方は、いったい……。なぜシオンさんと姉さんのことを?」


 エステルは慌てて上半身を起こし、立ち去ろうとするノアを呼び止めた。だが――、


「…………」


 ノアは何も答えず、扉から出て行こうとする。

 すると、その時のことだった。


警報アラート


 エステルがいるベッドの布団から、魔法陣が膨れ上がる。エステル以外の少女の声が響いて、呪文が詠唱された。


「っ……」


 瞬間、大音量でサイレンのような音が一帯に鳴り響く。ノアがハッとしてベッドに視線を向けると、布団から顔を出したイリナがいて――、


(イリナ!? 布団の中にいたのか!? 話を聞かれた!? いや、聞かれてまずい情報は喋っていない)


 動揺するノア。王族と閨を共にする者など親しい兄弟姉妹を除いて普通はいない。あるいは夫婦くらいだ。その先入観が徒となった。起きて警護をしている人間ばかりを警戒して、寝室内の鑑定スキルの使用を怠ってしまった。


(ええい)


 ノアは脱兎のごとく駆けだして寝室を飛び出す。そのままバルコニーへと突っ走り、魔力を放出して窓の解錠を行う。

 すると、途中で寝室の扉も開いて――、


「何事ですか!?」


 護衛の女性騎士二人が突入してきた。


================

【名前】

【種族】人間ヒューマン

【年齢】25歳

【性別】女

【レベル】23

【ランク】2

【基礎パラメーター】

・膂力:D(23/100)

・敏捷:D(10/100)

・耐久:D(8/100)

・魔力:E(98/100)

【特殊パラメーター】

 なし

【スキル】

================


================

【名前】

【種族】人間ヒューマン

【年齢】23歳

【性別】女

【レベル】21

【ランク】2

【基礎パラメーター】

・膂力:D(11/100)

・敏捷:D(20/100)

・耐久:E(99/100)

・魔力:E(95/100)

【特殊パラメーター】

 なし

【スキル】

================


 ノアは神眼を発動させていて、相手の戦力を分析するため咄嗟に鑑定を行った。


(二人ともランク2。まともに相手をすると面倒だが……)


 と、ノアが考えるのと同時に、騎士二人が突っ込んでくる。

 鍵は開いたが、窓は閉まったままだ。ここでベランダに出ても敏捷値の差で追いつかれる恐れがある。

 ノアが剣を抜いていないからか、二人とも無手で捕縛を試みてきた。ノアのレベルは19で、ランクは1。レベルこそ近いが、ランクが一つ変わると原則として各基礎パラメーターの数値が一気に30も上昇する。

 成長を補正する特殊なスキルがない限り、レベルアップ時に上昇する基礎パラメーターの数値が最大3であるから、ランクが1上がることでレベルが一気に10アップするのと同等の成長を果たすのだ。

 腕力に限って見れば基礎パラメーター値が30開くことで大人と子供くらいほどに腕力の差が出てしまうから、レベルが近くともランクが違う相手には相当に不利な戦いを強いられることになってしまう。

 ゆえに、ランク差を覆すほどに基礎パラメーターを向上させるなど、一部の魔法が使えるか、強力なスキルでもない限り、ランクが上の相手と戦うのは負け戦に他ならない。同時に二人も相手にするとなれば自殺行為だ。だが――、


(魔法で基礎パラメーターの差はある程度埋まっているはず。神眼で相手の動きを先読みすれば……)


 ランクが上の者を二人同時にでも相手にできる。ノアはそう考えて、女性騎士二人へと突進した。

 直後、二人が同時に加速してノアに突っ込んできた。左右から同時に回り込み、二対一の利を生かしてノアを囲もうとする。が――、


「なっ!?」


 ノアが二人の移動ルートを先読みして左の一人の前に割り込み、一時的に一対一の状況に持ち込んで相手の意表を突く。

 そして、その一瞬で女性騎士に足払いを仕掛けて体勢を崩し、後ろ側に回り込んで拘束してしまうと――、


睡眠スリープ


 女性騎士の頭に手を触れて魔法陣を展開し、あえて呪文を詠唱した。対象を強制的に眠らせる二級の魔法である。他者の意識に干渉する魔法なので、対象との距離が近いほどかけやすい反面、相手に気づかれて抵抗されるとレジストされる恐れが強い魔法だ。

 実戦では少し使いにくい魔法なのだが、今のノアは魔法系のスキルの恩恵によって魔力の基礎パラメーターに限ればランク5相当である。接触状態での魔法発動に、ランク2の騎士二人があらがうことはできなかったようだ。


「っ……」


 女性騎士は糸が切れた人形のように、その場に倒れてしまう。

 すると、今のやりとりでもう一人の騎士の警戒が強まった。不用意に飛びかかってくるような真似はせず、二メートルほどの間合いを置いてノアと相対する。

 その一方で、エステルとイリナが寝室からリビングへと移動していて――、


「……戦闘訓練を受けたランク2の騎士を制圧して、二級の魔法まで使えるの?」


 イリナが今の一部始終を目にして、驚愕して目を見開いていていた。

 強さの測りとしてレベルを下敷きとしたランクが0から10まで存在するように、魔法にも0級から十級までの階級が存在する。

 ランクと魔法の階級に対する一般的な評価は、ランクが1であれ、一級魔法であれ、数字が一に到達するだけでもなかなか難しいことだとされている。

 中には高位のランクに到達する者もいるが、人類の大半がランク一にすら到達することなく生涯を終えるのだ。

 そして、戦士として長けていて、魔道士としても長けている者などそうはいない。両方の分野でノアの実力が最低でもランク2以上だと判明した以上、未知の実力者を相手に警戒が強まるの必至。

 残ったもう一方の女性騎士は、ノアの捕縛よりエステルとイリナの警護を優先するようだ。寝間着姿のエステル達を守るようにノアとの間に割り込むと、室内であることを踏まえて腰の鞘に差した剣ではなく短剣を抜いた。


「手荒な真似をするのはこちらとしても本意ではない。追ってこないというのなら、攻撃はしない」


 ノアはそう警告すると、寝室の女性騎士とエステル達を見つめながらベランダへと下がっていく。鍵の開いた窓を開け放つと、そのまま外に出る。

 その時のことだった。部屋の入り口から、クロースアーマーを着用した男性が超高速で入り込んできて――、


「っ…………」


 バルコニーから飛び立とうとしていたノアとの間合いが、一瞬で埋まった。ノアを取り押さえるべく胸ぐらを掴もうとしている。


(は、速いっ! なんだ、こいつはっ!?)


 ノアは驚愕しつつも神眼で動きを先読みし、かろうじて相手の手をいなした。そして至近距離で相手の顔を確認し、さらに驚愕する。

 取り押さえに失敗するとは思っていなかったのか、相手の表情にもわずかに驚愕の色が浮かんでいる。

 果たして、今ノアの目の前にいる相手は――、


(っ、クリフォード!)


 クリフォード・ヴァーミリオン。モニカやエステルの兄であり、かつてノアが一度も剣で勝利することができなかった青年だった。


================

【名前】クリフォード・ヴァーミリオン

【種族】ヒューマン

【年齢】18歳

【性別】男

【レベル】38

【ランク】3(基礎パラメーター値に補正)

【基礎パラメーター】

・膂力:C(51/100)

・敏捷:C(51/100)

・耐久:C(6/100)

・魔力:C(6/100)

【特殊パラメーター】

・剣術:A

・闘気:A

【スキル】

・天賦の剣才

 特殊パラメーターに『剣術A』の項目を追加。ランクアップ時の膂力と敏捷のパラメーターボーナスを1.5倍(30→45)。

・成長大補正

 レベルアップの速度に補正。

・魔力変換(闘気)

 特殊パラメーターに『闘気』の項目を追加。魔力を闘気に変換することで『膂力』『敏捷』『耐久』を一時的に向上させることができる。

================


================

【名前】ノア・ターコイズ

【種族】ヒューマン

【年齢】16歳

【性別】男

【レベル】19

【ランク】1

【基礎パラメーター】

・膂力:E(87/100)

・敏捷:E(87/100)

・耐久:E(87/100)

・魔力:B(44/100)

【特殊パラメーター】

・神眼:EX

・魔法:S

・魔法分解:SS

・魔力吸収:S

・魔法陣書換:SSS

【スキル】

・神眼・熾天使ガブリエルの眼

 特殊パラメーターに『神眼EX』の項目を追加。神眼発動時に管理者権限の一部(万能鑑定(情報閲覧・解析理解))を行使可能になる。

・魔の加護と寵愛

 特殊パラメーターに『魔法S』の項目を追加。基礎パラメーター『魔力』の等級を二つ上昇させる。レベルの上昇に伴う基礎パラメーター『魔力』の上昇値に特大補正。神眼の発動の有無にかかわらず、魔法陣構築速度の特大上昇、魔力消費量の特大軽減、六級魔法までの詠唱破棄などの恩恵を受ける。スキル『神眼・熾天使ガブリエルの眼』の

スキル『魔の隷属』を獲得する。

・魔の隷属

 神眼を発動させている間、解析したあらゆる魔法を習得できるようになる。また、特殊パラメーターに『魔法分解S』『魔力吸収S』『魔法陣書換S』の項目を追加。神眼を発動させている間は魔法や魔法陣に対する干渉・支配が可能になる。具体的には、解析した魔の事象化を解除して無害な魔力へと分解・吸収できるようになり、解析した魔法陣の書き換えができるようになる。ただし、魔力変換によって発生した闘気などのエネルギーを無害な魔力に分解することはできない。

・熾天使の因子

 成長限界突破。

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2020年1月24日(金)に第1巻が発売
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精霊幻想記も連載中(公式PV)
+注意+

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