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リトライ・ヒーローズ!  作者: ブロッコリー
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19/19

フォー・ルームス/2号と故郷①

朝、駅前爆発事件被災者キャンプ


「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!『本物』の魔法をお見せするよ!」


ウィルは景気良く声を張ると、瓦礫の中から拾った継目の無い鎖を取り出した。


「はいっ、ここにおわすは何の変哲も無い鎖!当然、溶接されて簡単には外れないよ」


ウィルは観客に向けて鎖を「ガチャガチャ」と鳴らして見せると、「これを…こうして…」と、掌の中に丸め込んでいった。


「はいっ!」


ウィルは掛け声とともに手を開く。開いた手からはバラバラになった鎖がボロボロと落ちる。


まばらな観客が「うわぁ」と歓声をあげた。


「まだまだ、ここからが見どころさ!」


ウィルはそう言うと、鎖の残骸が散らばる地面に指をさし、呪文を唱える。


「フローリ」


すると、鉄でできた鎖の切れ端から次々と発芽し、花が咲き乱れた。


歓声と拍手が沸き起こる。ウィルは大仰な動作でお辞儀をし、ショーの終わりを知らせた。


「金髪のにいちゃん!良かったぞ!」「またきてね!」「ありがとう!」


観客たちは口々に賛辞を送る。彼らの笑顔に、ウィルは人間の強さを実感した。


数日前、ここでは悲劇が起こった。当時野宿生活を送っていたウィルからすれば、察知出来なくても仕方の無いことだが、彼はその場に自分が居なかったという事実に、酷く後悔を覚えていた。


ショーを終え、ウィルは1人帰路につく。大概はいつもの橋の下で眠るのだが、ここ最近は冷えてきたので辛いものだ。


「はぁ…何とかして、もっとお金を稼がなきゃなあ。キャンプでの手品ショーはチャリティだし、普段の路上パフォーマンスもそんなに稼げない…」


このままじゃ…冬を越せないぞ…


ウィルの頭に恐ろしい想像がよぎる。彼はそれを振り払うように頭を振った。タイミングを合わせたように、彼の腹の虫が「ぐぅ」と鳴き出した。


「大丈夫!いざとなれば魔法で通貨を造って…いやいやいやだめだろ!だめだめだめ!それだけは!!」


やばい…やばいぞこれは。


ウィルはいよいよ危機感を感じ、思考を巡らせた。


だめだ…まずは先立つ物、お金稼ぐことが先決だ…。仕事を探さないと…!


ウィルの脳裏には、先日の路上パフォーマンスで手品(実際には魔法なのだが)を披露した折、偶然通りかかった少年の一言があった。


『手品師だ!手品なんで地味だぜー!帰ってSwitchやろーぜ!』


そう。彼の魔法は、発達した技術の前では魔法として見られない。ましてや機械鎧(マシンガイ)等が当たり前の世界。大衆の驚きを誘うものなど、もはや無いと言っても過言ではない。


最近では『呪いの人形』だとか言う都市伝説も流行り出したが、これは恐怖を伴う一過性のブームだろうと、ウィルは睨んでいた。


「この世界なら、僕の魔法は大きな武器だと思ったんだけどなぁ…何か、何か無いだろうか…」


ウィルは頭をひねる。そうしていくうちに日も暮れてきたので、彼は考えることを諦め、人に頼ることにした。


「うん、よし!この世界の事は、この世界の住人に聞くのが一番だ!」


ウィルは顔を上げ、田中ココロの住むアパートへと足を進めた。


————————


「そう言う事なら、うちの会社で扱っているバイトを紹介するよ」


ココロは、風呂上がりのビールを片手に上機嫌な様子で喋る。


「いいのかいココロ?僕は戸籍も何も無いんだぜ」


「大丈夫、ウィルくんは私の恩人なんだし、なんとかするわ。こう見えて私、役職持ちなのよ」


ココロは胸を張り、ビールを煽った。


「本当か!?ありがとうココロ!いや、本当に、こっちにも頼れる友人ができて嬉しいよ」


ウィルが花の咲いた様な笑顔を見せると、ココロはその眩しさに目線を逸らし、照れ臭そうに笑みを浮かべた。


「あっいや…頼れるだなんてそんな…もっと、もっと言って」


ココロが照れ隠しの冗談交じりに返すと、ウィルは「恩にきるよ、ココロ」と、頭を下げる。その瞬間、ウィルの腹の虫が再度悲鳴をあげた。


気まずい沈黙が流れる。


「…今からおつまみ作るけど、一緒に食べる?」


ココロが口を開いた。ウィルの赤面が、彼女の庇護欲を刺激していた。


「や…でも…うん。いただこうかな」


ウィルもまた、その好意に甘えた。


「成長期だから…いっぱい食べるのかしら…?あれ?今夜は泊まっていく流れ…!?え!?ダメよ、ウィルくんは未成年…ああでも若さと勢いで求められたら私、断れない…」


ココロは台所に立ちつつ、早口で呟いた。


アルコールの所為か、頭が変な方向に回転し、妄想が暴走する。


「ココロ、キモいぽわ」


ポケットに隠れていたポワポワが、そんな彼女の様子を見てため息をついた。


————————


翌日、午後


ウィルはココロに紹介してもらった職場の内、自分に一番似合うと思うものを選んだ。


『ヒーローショースタッフ、未経験歓迎、日当8000円〜』


自身の身体能力の高さ、未経験歓迎というところ、何より、『子供達に笑顔を与える仕事』という文言に、強く惹かれた。


ココロから貰った地図を頼りにウロウロしていると、どうやら、道に迷ったらしいことがわかった。


「むむむ…さっぱりわからないぞ…この階段が3番で…いや、こっちか…」


『チカテツ』というものは本当に訳がわからない。何故こんな迷路のような作りになってしまったのだろうか、魔法が発達しなかった文明は、こうすることでしか移動を効率化できなかったのだろうか。


ウィルがそう考えながら、人混みの中を心細げにウロウロしていると、「失礼」と、背後から声をかけられた。


振り向くと、背の高い、地味めな青年が、心配そうな顔でこちらを見下ろしていた。


ウィルが警戒した目で見上げていると、彼は気まずそうに目を背けた。


「あっいや、困っているみたいだったんで…俺も初めての頃ここで迷ってたから…余計なお世話だったら謝るよ」


ウィルはそこで、彼が善意で近づいてきた事に気がつき、即座に謝罪した。


「ごめんよ、気を悪くさせるつもりは無かった。そう、迷っているんだよ僕は、ここら辺に詳しいなら、案内してくれるとありがたい」


青年はウィルの表情が和らいだ事を悟り、「うん、そのつもりだよ」と、ウィルに歩み寄る。


「ああ、大丈夫、そこまで手を煩わせるつもりはないよ。38番の出口を探しているんだ」


「なんだ、38なら上の階に上がってすぐだよ」


青年はスマホで地図を示しながら軽く説明すると、「じゃあ、この辺で」と去っていった。


「ありがとう。またどこかで会えたら、お礼をさせてくれ」


「あはは。いいよ、そんなの。まあ、この都会で、再開の機会なんてまずないけどね」


名前も言わずに去っていった青年は、ウィル心に爽やかな風を残した。この世界でも、誰もが誰もに無関心なわけでは無いと、温かい気持ちになった。


さて、再開の瞬間は、思ったよりも早く訪れた。


「初めまして、俺は志葉トオリです。よろしく」


面接会場のオフィスに辿り着くと、先程の青年が既に立っていた。どうやら、同じ面接を受ける予定だったらしい。


彼の身体つきは引き締まっていて、立ち居振る舞いから『動ける』雰囲気を感じ取れた。


「僕はウィル…えーと…『田中』ウィル。今日はライバルになるかも知れないけど、よろしく」


2人は握手を交わし、先頭に立つウィルが扉をノックする。「どうぞ」と気だるげな声が聞こえたのを合図に、意気揚々と入室した。


「失礼します!」


「はい、席にどうぞ。はじめまして、代表取締役の海城です」


どうにもやる気のなさそうな男が目の前にいた。


くたびれた雰囲気とは裏腹に、顔立ちの整い方や、髪の感じからして、ウィルは、自身の元いた世界の舞台役者を連想した。


しかし、恐らくは『元』であろう。この男には、現役特有の覇気を感じない。


「志波くんに、田中…ウィル…くん?ハーフかな?」


「はい!僕はハーフエル…いや、『いぎりす』のハーフです!日本には五年前から住んでいます!身体能力にも自信があります!」


ウィルは、事前にココロに教わった事をそのまま喋った。


「身体能力…ねえ。うちの職場、そういう子いっぱいいるんだけど、何か君に、他の子には無い何かがあるのかな?」


海城はボールペンの頭でこめかみをつつきながら、ウィルと目も合わせようとしない。


圧迫面接、か。僕は今、試されているというわけだ。しかし、古竜の名において、いかなる試練も甘んじて乗り越えるのが、勇者の心意気だ。


ウィルが腰を浮かせようとした時、海城がそれを手で制した。


「あー、待って、順番に…志葉くんから」


志葉トオリは一瞬面食らった顔をしたが、すぐに気を引き締め、「はい!」と歯切れよく返事した。


「志葉くんは、シンケンスタントスクールの子だね?お手並み拝見といこうか」


海城の目に、品定めする様な鋭い光が宿った。


志葉トオリは「すう」と息を吸い込むと、武術の型を演じた。


真っ直ぐに伸びた手足は美しく、ウィルでさえ感心するほどのものだった。


彼は演武を一通り終えると、その場で何回か宙返りをし、華麗に着地した。


「以上です。ありがとうございました」


海城とウィルは揃って拍手をし、トオリを褒め称えた。


すごい…これがこちらの世界の武術か…!舞踊に近いが、歴史を感じる重々しさも兼ね備えている…!


「うん、素晴らしかった。スタイルも良いし、主演にはぴったりだな。さて、次、田中くん」


「はい!」


ウィルは勢いよく立ち上がると、持ってきた鞄の中を漁る。


「ん?何をしているのかね?」と、海城が首を捻った。


あれだけの動きを魅せてくれたのだ…こちらも本気で行かねば失礼というもの…!とは言え僕には武術の心得は無い…ならば…


ウィルが鞄から取り出したのは、彼の愛刀、『聖剣ドラゴ・サンクトゥス』であった。


聖剣の放つ青白い輝きに、その場の全員が息を呑んだ。と言うより、突然刃渡り80㎝はあろうかという大剣を目にしたことで、一瞬思考が停止していた。


「いやいやいやウィルくん!?急に何持ち出してるの!?」


トオリが慌ててウィルを制止する。


「これかい?これは聖剣ドラゴ・サンクトゥスと言って…」


「そういうことじゃなくて!」


「あわわ…気狂いか…」


ウィルは2人の動揺ぶりを見て、不思議そうな顔をした。


「オイオイ、これは本物だぜ?ほら、この通り切れ味も」


そう言うとウィルは、懐から鉄の鎖を取り出して斬り裂いた。


「うわあああ本物だ!」


「落ち着くんだウィルくん!なぜこんな事を!」


トオリはウィルを抑えようと立ち上がる。海城に至っては腰を抜かして部屋の隅に逃げ込んでいた。


「なぜって…そりゃあ、あれだけのものを見せられたら、僕はこうするぐらいしか…」


「どんな対抗心!?」


「ああ対抗心だとも!この燃える想いを…」


「あああ危ないっ!振り回すなぁ!」


「ひゅんっ」とウィルが剣を振るうのと、他の2人が息をのむ音が重なる。


恐怖の所為、では無い。その剣筋の余りの美しさに、その場の時の流れまで断ち切られた様な静寂が流れた。


部屋中の視線はウィルへと集まり、スポットライトで照らされているかの様な存在感が匂い立つ。


な…なんて動きだ…足先から剣を握る五指に至るまで、一部の無駄もない!殺陣の訓練も学校で受けてきたが、師範代ですらここまでの動きをできるかどうか…少なくとも、俺なんかとは比べ物にならない!!


トオリはウィルの動きに感動し、同時に羨望と嫉妬を抱いた。


一方、すっかり落ち着きを取り戻した海城は、静かに立ち上がると、「ありがとう、もう充分だ」と掌を見せた。


「2人ともだ。2人ともありがとう。さっきまでの非礼を許してくれ。感動したよ」


彼はそう言って頭を下げる。


2人は黙って海城の方を見つめる。トオリは不審げな目つきだが、ウィルは自信に満ちた目で見つめていた。


「長くアクションに携わってきたから理解(わか)る。ウィルくん、君の動きは実戦を通して得たものだね」


トオリはその言葉を受け、ウィルの方を振り向く。


何だって!?こんな、高校生くらいの少年が!?


「あはは、プロに褒めてもらえるなんて、光栄だよ」


ウィルは事も無さげに笑う。トオリはそれを見て、自分とは遠くかけ離れた場所にいる存在だと言う事を察してしまった。


「田中ウィル!志葉トオリ!主演のアクターで採用だ。交代制で頑張ってくれ!」


————————


翌朝、ベーカリーカグラ、タロウの部屋


「そう言うわけなんだ。タロウ、君も見に来てくれよ。チケットはあるぞ」


ウィルは眼前のタロウに言う。先日の闘いの怪我により、全身を包帯でぐるぐる巻きにされたタロウは、ミイラ男の様な口元で「もがっ」と返事をした。


「もががっ(どう言うわけで?話にさっぱりついていけないぞ)」

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