エピローグあるいはインタルード
神殿前の石段で、余五郎とシノが並んで座っている。
「あの五人の襲撃は、ヨゴロウさんへの報復だったようです」
「はあ」
ナハティガラ神官による回収、治療ののち、シノが事情を聞きだしたことには、そう言うことらしい。
先日警邏隊に引き渡した借金取り三人。その三人が所属している「組」の連中が、一方的にやられたままだと自分たちの面子が立たぬ、と襲撃に至ったらしい。
金貸しという生業は、暴力が尽きない。
取立てを請け負っている「組」の連中が、逆に暴力で追い返されたという評判がたてば商売あがったりである。
ただ、半分公の機関扱いになっているナハティガラ神殿への直接攻撃はまずい。世間の評判的にも、自分たちも等しく治療を受けている事情的にも。
そもそも、そんなことをしようものなら王都の治安維持に喧嘩を売るに等しい。なので、絶対に、間違っても出来ない。
そんな訳で、何処の馬の骨とも分からぬ男の方に白羽の矢が立ったのだった。
「――また、別のが来るかね」
「楽観視はできませんが、難しいでしょうね。王都で武器を使用した事件を立て続けに起こしたわけですから、罰金刑と強制労働で組織を維持できなくなるでしょう」
余五郎には王都の掟はよく分からないが、一応は解決を見たようだ。
実際のところ、彼等五人は組きっての腕利きで、それを神殿送りにしている。
と言うか、今も入院している。
それでも、気にする素振りもなく顔を見に来て話しをしていく余五郎は、五人の目線で言えば明らかに狂っていた。
どうやっても、これ以上の暴力は採算が取れそうにない。
そういう判断が、「組」にはあった。
「――やはり、非常時は無力化してから話を聞くほうが得策ですか」
「そら、戦場で話している暇はねぇから――」
二人して、昼。街の方を見ている。
あいかわらず余五郎の風体は変わらない。ありあわせの服に、真っ黒い蓬髪、日焼けで真黒い肌と、こけた頬に厳つい顔。
シノの姿も変わらない。真っ白い神官服に、後ろで編んだ長い稲穂髪、透き通るように真っ白い肌と、表情の薄い顔。
ただ、以前と少し違う点が一つ。
二人でぽつりぽつりと話すようになっていた。
飯の探し方。
水の飲み方。
魔法の使い方。
いろいろだ。
似たような顔をして、二人は今日もそこに居た。
同じほうを向いて、座って、話しながらそこに居た。
地獄でも極楽でもないそこは、雨季の合間、青い空が広がっていた。
これにて、おしまいです。第2話も執筆中なので完結済にはしませんが、完成はいつになるか分かりません。期待せずにお待ちください。