第16癒 ぶち込むド派手に
「なんのことだかわからんが、早く帰してくれんかの?え?」
老婆はおちょくるようにそう吐くと、全身の力を抜いてだらける。
「わしも暇ではないのでな、2度はないぞ?」
3人に囲まれている状況で帰れると思っているのか、それとも何かの布石か、俺には見当がつかない。
とりあえずここで言うことは一つ
「この状況で帰れるわけ無いだろ?ボケているのか?」
「3人ごとき、ハンデにもならんわ、若造が」
カチリ、と金属がぶつかる音がする。
嫌な考えが頭をよぎるが、流石にないだろうと思い隣を見る。
視界に映った要陀はキレた顔をしていた。
そういえば前に、老人は嫌いとか言っていた気がする。
だからあの時も殺そうとして……いや嫌いなだけで殺さないよな……たぶん。
少なくとも今はヤバい事はわかる。
考えても仕方がない。俺は改めて尋問を続ける。
「こっちには情報があるんだ。ボケていないならしゃべったほうがいいと思うけど」
「その情報が正しいと誰が保証する?仮に本当だとして、こんな事に時間を使っていいのか?」
そう問う老婆は、なぜか説得力がある。たしかに、情報が正しいという確証もない。
そもそも何も起きないかもしれない。
仮に起きたとして、俺には何も関係がない。
なぜ俺は、こんな事をしているんだ?
そもそも俺はなぜこんなところに……
バチンッ
頬に痛みと冷たさが走る。
「ヒーロ!しっかりして!この予言者に取り込まれてるよ!」
そう言ってさらに3発打ち込まれる。
「ちょっと、痛い、マジで」
更に2発。
「正気、正気に戻ったから」
「あっそう?」
そう行って殴るのをやめるアサ。
正気に戻ったのはありがたいが、多分私怨も混じってると思う。
「たぶん予言者は何かの魔法を使ってる。喋るとかけられる。気をつけてね」
小声でそう喋るアサ。
「よくわかったな。若造にしてはなかなかやるようじゃな。わしのスキルを見破るとは、思いもしなかったわ。褒美にわしのスキルを教えてやろうかの?え?」
「『誘導思考』これがわしの能力じゃ。わしのスキルは誘導。ワシと喋っていると思考が別の方向に向いていく。」
カノエ、か。強いがそこらの魔法と変わらない気がする。それより
「スキルってなんだ?魔法のことか?」
「っはっはっは、そこまで教える筋合いはない。仲間からにでも聞くがいいわ」
そう言って立ち上がると、何かを唱える。
「ヤバい!逃げられるぞ!止めろ要陀!」
「もうやってるっ」
『邂逅編縛』
「手応えあり!捉えました!」
その言葉とは裏腹に、老婆は軽々と紐を破り、浮かび上がる。
「そんな魔法が使えるとは、驚きじゃな。だがその程度じゃ捉えられんかのう、え?いや…ふむ。良いじゃろう、予言は本物じゃ」
「は?」
『逾槭?迸ャ遘サ』
なにか聞き取れない言葉を言った瞬間、老婆は消えていた。
「マジか…よ」
「なあ、あれは夢だったのか?」
「いえ、現実です。いい加減現実を見て下さい。何回目ですかその質問」
あれから数時間がたった今、まだ実感が湧いてこない。
「いい加減教えてくれよ。スキルってなんだよ要陀?」
「いや?わたしは知りません。スキルってなんでしょうね?」
声色も表情も嘘はついていない。けどあの老婆の言うことを信じるのであれば、スキルを知っているのは要陀だ。
「いや、知ってるだろ」
「うるさいですよ?ヒーロ君?」
釘を差された。
俺は一体どうしたら良いんだろう。
これ以上考えても仕方がないと思い立ち上がる。
静寂を破る音響かせ、声を出す。
「まあ良いや。要陀が教えてくれるときにで聞かせてもらう。それより、いつ、何が起きるのか。そして、どうやって対策するかを考えなきゃな」
「私いい案あるよ〜。こんなときのために近くに家をもらったんじゃん。クエルのとこに行こ」
そうして俺たちは家を出てギルドへ向かう。
外は薄暗く、老婆を連れてきたときとは違う表情を見せる。
ギルドの中に入ると、人は異様なほど少なかった。
俺たちはカウンターに進み、いつもの受付嬢に聞く。
「クエルはいるか?用があるんだが」
「クエルですね。すぐにご案内します。いつもご贔屓にありがとうございます。」
そう言いながらウィンクをして後ろへ下がっていく。
そこから十数分が立つと、クエルに呼ばれ、
ギルドマスター室に入っていく。
「これはみんな揃って、なんだ?お前らが来るなんてことあったか?」
「今日は相談があってきた。とりあえず聞いてくれ」
それから俺は話した。老婆のこと、そして予言のことを。
「そんな事があったのか。悪いが俺は寝てたな。それで?お前たちは何をしてほしいんだ?」
「まず一つ、老婆の捜索。二つ、冒険者の招集だ」
「ああ、そういうことか。その返答は受け入れられない」
「何でだ!この街を守る!目的は一致してるだろ!」
俺はこの街を守らなきゃならないんだ。まだ、きっと何処かで生きている妹たちのために。
「だから駄目って言ってんだ。そんな不確定な情報に守りの人数を減らすことは出来ない。そういうことだ。帰りな」
「でも!」
「ヒーロ」
アサが俺の方を掴んで首を振る。
もうやめろってことか。
アサの言う通りだ。
悔しいがクエルの言うことも正しい。
もう3人でやるしか無いのか。
そう思い俺は立ち上がり2人に声をかける。俺がドアに手をかけると不意に後ろから声が聞こえた。
「そりゃあ…」
俺は聞こえた方向に振り返る。
椅子にふんぞり返っていたクエルが、口元を吊り上げる。
「不確定な情報で冒険者全員は動かせねぇ」
「ギルドマスターとしては、な」
クエルは立ち上がり、壁に立てかけてあった大剣を肩へ担いだ。
「けど、一人だけ暇してる冒険者を知ってる」
「……誰だ?」
クエルがニヤリと笑う。
「この俺だ」




