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志願制ヒーローたち  作者: 海月里ほとり


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 俺は引き金をひかなかった。

 聞こえた声に聞き覚えがあったからだ。その声は活劇画の画面越しに何度も何度も繰り返し聞いたことのある声だった。直接聞いたことだって、何度かある声だった。

 こんな状況なのに、なぜだか心が落ち着いて、安心するような不思議な声だった。

 ぼとり、と鈍い音がした。顔を上げる。ギルマニア星人の刃腕が床に落ちていた。鋭利な刃物で切断されたような滑らかな断面が目に入る。

「ちゅら?」

 ギルマニア星人の声が聞こえた。言葉の意味はわからないが、困惑している感情だけが伝わってきた。自分の身に何が起きているのか、まるで分っていないのだろう。そして、これから何が起こるのかも。

 ギルマニア星人の声が消える前に、一陣の風が吹いた。質量のある風だった。重く、速く、不可視の風だった。

 次の瞬間には、不可解そうに見開かれた大天眼が床に転がっていた。それも二つも。少し間を置いて、攻城型の巨体が崩れ落ちた。

「じ、しゅらああ」

 空気の抜けるような音が攻城型の巨体から漏れた。切断された気道から空気の漏れる音だった。あまりにも素早く切断されたせいで、まだ身体は呼吸を続けようとむなしい努力を続けていたのだ。

 俺はゆっくりと身体を起こした。今は二つになって地面に落ちているギルマニア星人たちと同様に俺は何が起きているのかわからなかった。

 再び風が吹いた。ラピッドラビットの身体にまとわりついていて侵入型の群れがはじけ飛んび、ラピッドラビットが姿を表した。

「大丈夫かい」

 風はようやく足を止め、地面に横たわるラピッドラビットに手を差し伸べた。

 それで俺は何が起きていたのか、やっとわかった。

「Mr.ウーンズ、なぜここに?」

 俺の腫れあがった口はひどくたどたどしく言葉を吐き出した。

「連盟からの要請があって、ここに来ていたんだが、ちょっと嫌な予感がしてね。一人で先に入ってみたんだ」

 そこに立っていたのは、Mr.ウーンズだった。

 朗々たる体躯、穏やかな笑顔。腕にはシミ一つないピカピカの戦闘用義肢が輝いていた。

 Mr.ウーンズが復帰したなんていう情報は聞いたこともなかった。でも、今の戦闘の腕前を見たら、偽物かもしれないなんて疑問も浮かびはしなかった。

 なにより、その声と笑顔はMr.ウーンズに間違いなかった。

 Mr.ウーンズは部屋を見渡した。その目が装甲の張り付いた排気口を見た。

「ヘイジ君はあそこに」

「ええ、そうです」

 俺は頷いた。

「そうか。悪くない判断だ」

 Mr.ウーンズは笑った。そこで俺は奇妙なことに気が付いた。

「でも、どうしてヘイジのことを?」

「コオタ君から聞いたのさ」

「え?」

「ほら、もう大丈夫だよ。出ておいで」

 Mr.ウーンズは振り返り、扉の方に呼びかけた。

「は、はい」

 扉の影から一人の男の子が姿を表した。男の子は部屋の惨状を恐る恐る見渡した。

「途中で保護してね。友達もいるって聞いていたから」

「そうですか」

 男の子は片方の足が裸足だった。そしてもう片方の脚にはクリスタルナイトをモチーフにした靴を履いていた。見覚えのある靴だった。安堵の感情が俺を満たした。

「よかった」

 心の底から声が漏れた。

 その時、遠くからドォンと低い爆発音が響いた。

「本隊が中枢に浸透できたみたいだな。君たちが攪乱したおかげでスムーズに入れたよ。

 Mr.ウーンズが音の方角を見ながら言った。それから、俺たちを見てにっこりと笑った。

「諸君、よくやった」

 Mr.ウーンズの力強い腕が俺とラピッドラビットを引き寄せて、立ち上がらせた。

 ひとしきり満足げな顔で、俺たちを抱き寄せて、唐突にMr.ウーンズは言った。

「それは、それとして君たちは命令なく持ち場を離れたな?」

 今までとは違う、ひどく恐ろしい声だった。背筋が凍る。

「は、はい」

「まあ、そうですね」

 俺とラピッドラビットが揃って吐いた言葉は、自分でも面白いくらいに震えていた。

「懲罰はしっかり受けてもらうことになるから、覚悟をしておくんだよ」

 にっこりと笑ったMr.ウーンズの笑顔は、ギルマニア星人の刃腕よりもはるかに恐ろしかった。


【つづく】

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