特S級の指名依頼2
「やぁやぁ、ストレラ君、僕に頼み事と聞いて来てやったよ。」
「はぁ、俺はなるべく関わりたくなかったよ。」
薔薇を背後に背負い室内に入ってくるシュウ、そんな彼を視線に写した瞬間薔薇の香りまで伝わってきそうな相手に溜息をこぼすストレラ。
「連れないな、若き日は共に依頼をこなした仲じゃないか。」
「何年前の話だ、永遠にE級であり続けるから数ヶ月で解散になっただろう。」
この2人は初心者の頃、採取クエストを良く共に行うパーティーを組んでいた。
シュウの職業はテイマー、彼のテイムしていたフォレストウルフの探知能力で、サクサク依頼をこなす新人2人組はルーキーとしてかなりの知名度ではあった。
大体はシュウの老け顔が、インパクトが強すぎる事で印象に残りやすかったのだが。
「それにしても、老けたね君も、身なりを良くすればそれなりだろうに、既婚者だからと安心していると奥さんに愛想をつかれるよ。」
「余計なお世話だ。多忙なんだよ。お前は昔と変わらずだな、色々デカくなっているが、特に顔が…」
「失礼だね、男前になったと言ってくれよ。」
既に、剃り残しの髭を伸ばした中年顔に戻っているストレラ、彼が若い頃、他の女性冒険者の中にも好意を寄せる者が多かった事を知るシュウ。
シュウからすれば今の彼は勿体ないの一言である。
「それはさておき、殆ど活動していない僕に指名依頼とは、思い切ったじゃないか、今回は月桂樹の雫亭を予約しておいたよ。」
「ぬっ、また、かなり高級店を…」
「約束は約束だからね、貸切は辞めておいてあげたんだ、優しい方だろう。」
彼等の話を理解するには少し説明が必要になってくる。
E級冒険者、テイマーのシュウと言えば古参の中だと、かなり有名な人物である。
永遠のE級、不殺のシュウ等、微妙な2つ名持ちであったが、それなりに冒険者間では頼りにされていた。
何より彼のテイマーとしての能力は、あるスキルにより破格の恩恵を与えられている。
そのスキルの名は無限魔力、魔法使いなら喉から手が出る程欲するスキルであり、S級冒険者ドーテが持っているものと同じものなのである。
テイマーが無限魔力を持っていた所で何の役に立つのか疑問だろう。
テイマーにとって、魔力は契約の際に使用する以外に、自身の契約モンスターの総数にも関わってくる。
強力であれば強力な程魔力を必要とするテイマー、そんなテイマーが無限の魔力を持つと言うことは、際限なく契約モンスターを増やせるということ。
本来ならば契約を解除し、次のモンスターと契約をし直したりもするのだが、シュウはテイマーとして活動してからテイムしたモンスターと、今も契約を持続させる唯一のテイマーである。
そこまで強力な力を持つ彼が、何故、未だE級かというと、不殺のシュウの2つ名の由来が原因である。
テイマーというのはモンスターとの友好を気づける為か、討伐に積極的に参加する者が少ない傾向にある、人間が同族を殺すのに嫌悪感を感じるように、モンスターも同族殺しには嫌悪感を感じるそうだ。
その為、テイムモンスターと同じ種族の討伐は敬遠する者も多い、そして、シュウは生き物という生き物の命を奪うという行為自体が出来ない。
自分の手を汚す事だけでなく、モンスターに戦う命令さえも出さないのだ。
度を越した平和主義者と言うべきか、一切の殺戮をしない。
殺生は駄目だと流布する教会等とは違い、自分と、テイムしたモンスターだけの事なので、彼のポリシーの様なものである。
他からは度胸なし等と言われていた事もあるが、本人は別に気にせずポリシーを貫き通している。
そこだけはストレラが、唯一彼を尊敬している所でもあったりする。
そして、討伐が出来ないという事は、冒険者としては致命的であり、討伐必要数がある程度なければ上がれないD級には上がれず、E級のままである。
ならば後衛職は全員D級に上がれないのではという点が出てくるが、パーティーを組めば討伐数にカウントされる為、大体貢献度が貯まればD級までは上がれるシステムとなっている。
殺傷に関わりたくない為、彼がパーティーを組んだのは後にも先にもストレラだけたったりするのだが、それを知るのはシュウのみだったりする。
さて、次は2人の会話についてだが、シュウはここ数年冒険者としての依頼を受けていなかった。
テイムモンスターの素材をそのまま下ろすことで生計は成り立ち、ギルドを通す意味が無かったのである。
その為、ギルドに依頼せずともシュウへ直接依頼を出す商人が続出、一時大問題となったりもしたのだが、それを解決したのが当時A級冒険者だったストレラだった。
前支部長が問題に対処する為に、本部からの通達に頭を悩ませていた所を、ストレラが偶然目にしたのがきっかけだった。
本部からはシュウの冒険者資格剥奪、テイマーモンスターの即時契約破棄が通達されたのだが、新人から見てきたシュウを切り捨てる選択も安易に出来なかった。
シュウもギルドから再三進言されてギルドを通す様にとの要請を断っていた。
シュウが頑なだったのには理由があった。
彼が直接依頼を受けていた者達は、採算度外視で地方や辺境へ物資を売りに行く、現地出身の行商人達だったのだ。
希少な素材は地方では入りにくく、シュウを通せば格安で良質な素材が手に入る、危険が多い辺境に住む村にとって、それは大いに役立つものとなる。
商人も赤字を出さず、彼らにも手が出せる程の安く良いものを届けられる、博愛主義者でもあるシュウが断り続けたのにはそれなりの理由があった。
当時の東支部長も、真相を知っていたからこそ、問題にあげられるまでスルーしていたのだが、本部から通達が来ては事勿れ主義を通す事も出来なくなったというわけである。
そこでストレラがその事を知り1つの案を出した。
ギルド本部が問題視したのは直接依頼に対しての盟約違反にイエローカードが出たからであり、直接取引を無くせば良いだけだった。
そこで彼は、特別なランクを設けることを提案したのだ。
特Sランク、シュウの特異性を利用し、ギルドへ貢献する事を理由に、特例の特権を与え、目をつぶると言うもの。
盟約違反についても、個人の物を物々交換していただけであり、盟約に抵触したとは言いがたく、他の冒険者への影響と不満が出た為だった事から、この提案は受け入れられた。
シュウの方には、彼が良く開いていた、奥様達との食事会、指名依頼が出た場合、その代金を出すと言う事で説得した。
勿論、本部からその経費が落ちる訳もなく、提案した本人であるストレラが個人的に出すことになったのだが、その頃のストレラならば些細な金額であった為に昔のよしみで協力したのが事の顛末だった。
その契約は、彼が支部長になった今も継続してはいるが、荒稼ぎできていない今となっては、それなりの支出となっている。