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ナーネルの墓参り2

 黒装束に身を包む彼女、長い翠の髪をボニーテールにまとめ、何時もは、ベレー帽の下に隠してある尖った耳が露した姿、忍者のような装いの彼女の戦闘服。


 今、彼女はトロイヤギルド本部前の噴水広場へと赴いている。


 元城であった白亜のギルド本部、一国の中心地であった昔の名残か、見応え充分な、手入れの行き届く庭園に囲まれている。


 噴水広場から続く本部への一本道の両脇に、七大偉人の象が両サイドに並べられ、それを見ながら、数多の冒険者達が本部へと集って行く。


 「あっ、ナーネルおはよう。」


 噴水広場でギルド本部を見上げていたナーネルに声がかけられる。


 人混みの中、小さな体をぴょんぴょん跳ねさせ、両手を大きく振り自分の存在をアピールするメルディー。


 それに気づきナーネルが彼女へ歩み寄る。


 「メル、お待たせしてしまいすみません、少し手違いがあったようで。」


 「良いよ、遅れるくらい、トロイのダンジョンの規制、知らなかったんだろうし。」


 集まった2人はそのまま、ギルド本部へ向け1本道へと足を向ける。


 「やっぱりその格好だと誰もナーネルだって気づかないよね。」


 「ほぼ顔も隠れてますからね。何より受付嬢がこんな場所に冒険者として来ているとは誰も思いませんよ。」


 「それもそっか。私はその姿も好きだな、そのとんがり耳見れるのこんな時しかないんだもん、寝る時まで隠すんだから。」


 「そうでもしなければ、こういう時にバレてしまいますからね。」


 「えぇー、最近は森林族(エルフ)も多く見るようになったのに。」


 たわいない話をしながらふたりは、ギルド本部内へ入る。


 ギルド内は天井が高く、貴重な丁度品をあちらこちらに備えられ、奥には受付カウンターで慌ただしく駆け回る職員の姿が見える。


 月に1度開放されるトロイのダンジョン、別名『試練のダンジョン』。


 階層ごとに強力になるモンスター、特殊なアクセサリーを所持していれば死んでも本部へ戻されるだけで済む。


 ノーリスクで自分の限界を調べられる為、冒険者からは試練のダンジョンと呼ばれるようになったのだ。


 ここ数年で最下層まで辿り着いた者は7人のみ、その難易度の凶悪さが伺える。


 ダンジョン入口へは設置された昇降機に乗り、地下へと降りればすぐに着く。


 巨大な封印を施された扉が数日だけ開放される、今回は状況が思わしくない為、1日だけとなったようだが。


 「皆は先に中で待ってるらしいよ。」


 「今年はどんな成長が見られるか楽しみですね。」


 「まぁた、お母さんみたいな事言って、私達だってもう子供じゃないんだからね。」


 落ち着いたナーネルの横で騒ぐメルディー、傍から見れば彼女達の身長差も相まって親子にしか見えない。


 「おっ、来たか、メルディー、相変わらずちっせぇなおめぇは。」


 扉を潜り抜けた彼女達の元に集まる数人、その中で一際存在感を放つ獣人が、小さなメルディーの頭をくしゃくしゃ柔らかい肉球が着いた手で撫でる。


 肉球があるからと可愛いものではない、大きな手には鋭い爪が伸び、筋肉の塊で出来た腕に力を込められればメルディー等ぺしゃんこになりそうだ。


 彼の名はラオテール、獣王の名を持つS級冒険者である。


 立派なたてがみと筋肉だけで出来たような鋼の肉体、2メートルを超える巨躯を持つ獣人だ。


 「ラオ!あんたがデカすぎるんだぁ。お前からしたら殆どが小さいじゃないかぁ。」


 「確かに、ラオテールと比べりゃ私達全員ちびっ子さね、ただ、メルディーは私から見ても幼子だけれどねぇ。」


 喚くメルディーに、宙に浮きパイプを咥え眺める陰、深い藍色の髪に青と黄色のオッドアイ、出る所は出、引き締まる所は引き締まる魅力的な体を惜しげなく見せる女性が茶化す。


 「私が幼子なのはドーテがおば…お姉さんだからじゃない。」


 睨まれれば言い直すメルディーが更に小さくなりながら呟く。


 「毎年同じ事繰り返してんね君達、もう少しボキャブラリーを増やしなよ。」


 「変わらぬと言うのも必要で御座るよ。」


 白衣に身を包み、眼鏡を磨くインテリ男のラドルチェ、古風な侍風のあごひげを生やすローゼンが壁際で彼等を眺めて微笑を浮かべている。


 「お前達、久しぶりだからと浮かれすぎだ。ボクらはこれから死にに行くんだぞ。」


 黒の道着に身を包み、胸元からは収まりきらない膨らみが溢れ、皮膚の所々に鱗が残り、頭には枝分かれる角が2つ生えた少女が、仁王立ちの姿で彼等へ声を張り上げる。


 「おいおい。堅いなお前は。」


 「ドレッセン殿、些か潔過ぎではないか、死ぬ前提とは、死地に赴くその心いき感服で御座るな。」


 少し離れた場所で叱責している龍人のドレッセン、そんな彼女に歩み寄りデカい顔を近づけながら小言を吐くラオテール。


 ローゼンは何やら感銘を受けているが、彼に同調する者はこの中には居ないだろう。


 「貴方達、何時までやっているつもりですか?」


 じゃれ合う彼等を黙って見ていたナーネル、終わる気配のないお巫山戯に痺れを切らし全員を眺めて告げる。


 「元はと言えばラオがぁ。」


 「俺様は事実しか言ってねぇよ。」


 「お前達は覚悟が足らんのだ、覚悟が、ボクは何時でも全力全開で死ぬ事が出来るぞ。」


 「死ぬ為に全力を尽くすとは流石で御座る。」


 「君達、もう少し為になる話をしないか。」


 全くまとまらない彼等の背後から凄まじい殺気が辺りへ広がる。


 5人が背筋へと寒気を感じ静まり返る。


 「ふふ、いつも通りで何よりさね。」


 「貴方もいい加減にして下さい、わざと焚き付けておいて。」


 「仕方ないさね、魔女はお巫山戯が大好物なんさ。」


 他とは人生経験の長さの違うドーテだけが平然とし、呆れるナーネルの横でのんびり煙を吐く。


 「そろそろ行きましょう、他の冒険者は先に進んでいるのですよ。」


 「うんうん、早く行かなきゃ間に合わなくなっちゃうしね。」


 「おぉ、そうだな、姉さんをこれ以上待たしちゃわりぃ。」


 ナーネルの覇気に身の危険を感じる彼等、先へ進む為に歩み始める、冒険者達が向かった奥ではなく、苔の生い茂る壁へ向かう。

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