爆裂【焔】の依頼報告書
今日3度目ですね。
調子が良い時は結構書けちゃいますよね。
朝までは奮闘したかいがあり順調に計画は進んでいた。
イレギュラーで現れたドラゴン、その報告を受けた俺はすぐ様行動に出た。
幼体のレッドドラゴンなら本来B級指定の依頼指定の所を、A級指定に引き上げ、素材の状態を保持。
素材屋に情報を軽く噂程度に流し、売値を抑えた素材の売買契約で安く仕入れる交渉も済んでいた。
これだけでは完全な職権乱用、なので正規の依頼発注で、自腹を切って転晶石のおまけまでつけた。
それでもドラゴンの素材を手に入れるチャンスは少ない、市場に出回るよりも冒険者自身が装備にする方が利点があるからだ。
ドラゴンの装備にはもれなく耐性効果や付属効果が着いてくる。
強度は言わずもがな、何より男の子にとってのドラゴン装備はロマンであるから。
そんな俺も、そのロマンを持っている、東では特にダンジョンでドラゴンを見かけるのは稀。
下層にでも行かなければお目にかかる事も出来ず、下層に行くにも1年単位の長い時を有する。
大体、高ランクモンスターを東のダンジョンで狩るのは燃費が悪い、だから誰も行かない、何せ依頼に無いのだから、リスクを犯す必要も無いのだ。
ギルド依頼としてのドラゴン討伐、素材はギルド保有となり、運営費の為に素材屋に下ろされる事が決まっている。
猫ばば等したら冒険者資格剥奪、誰もそんな事はしない、その上で買い取る権利を主張出来るように別途素材依頼を捩じ込んだと言うのに。
「どうしました、今日はやけに顔色が悪くなるのがお早いですね。」
俺の表情の変化に報告書と共に先に用意した水と胃薬を出すナーネルちゃん。
『何故。よりにもよって爆裂【焔】…』
「それは彼等が1番初めに依頼書を勝ち取ったからでしょうね。」
「素材依頼は確か彼等受領禁止じゃなかったかな?」
そう、彼等は素材依頼の達成率の悪さに、ギルドから受付禁止措置を施されている。
「討伐依頼が主でしたので、それにきな臭い現象でしたし。トラブルに強い彼等ならどうにかするかと、期待通りでしたね。」
彼女の見解に異論を唱えるつもりはない、俺よりも数百倍人を見る目を培っているのは確か、彼女が受領手続きをしたのであれば失敗する事はまず無い。
「はぁ。仕方ない、一縷の希望に掛けよう。幸い幼体、彼等が切り札を出さずとも倒せるだろうし。」
パラパラと報告書の内容を読み始める。
読み進めていくうちに気持ちはどんどん落ちていく。
成体への突如としての変化の場面とかもう地獄に突き落とされた気持ちだった。
体は反射的に胃薬を胃の中へ流し込んでいた。
『これ、本部に報告案件、しかも素材はほぼ跡形もなく消し飛んでるし。』
『ご愁傷様です、色々と手を回してたみたいですが、逆鱗だけは手に入ったんですから良かったじゃ無いですか。』
龍の逆鱗は確かに貴重部位ではある。
ただ、殆どの素材が消滅している今、素材屋が価格を下げてくれるかと言えば、否である。
「何はともあれ、無事だった事を喜ばないとな。」
嘆いている場合では無いのだ、支部長としては死亡案件が出なかっただけでも喜ばなければ、内心号泣しながらも俺は自分を納得させる。
「それから、本部から出頭命令が来ております。」
「へっ?もう状況知ってるの?」
「いえ、支部長の黒に近いグレーな行為に対して、お話を聞きたいとの事です。」
抱えるファイルの中から、招集に関する書類を俺に渡す。
その中に素材独占案件についてと書かれている。
「独占なんてしてないんだけど?」
「結果論と判断されたのでは?貴重な部位を買い取る契約になっていたようなので。」
(いやいや、ナーネルちゃん、何でそんなこと知ってるんだよ)
口に出てツッコミそうになるのを我慢、心の中では突っ込んでおく。
「休暇返上ですね、上は頑固ですから、納得させるまでは査問漬けでしょうか。」
何処かナーネルちゃんの言葉が、何時もより冷徹な気がする。
そう、体の芯が冷えるような、そんな感覚が俺を身震いさせる。
「何か怒ってらっしゃる?」
「別に、私に仕事を回してからお出かけされたようなので、ちょっと間違って、書類提出時に売買契約の書類迄本部に送ってしまっただけです。」
「物凄く怒ってらっしゃる、んっ、ナーネルちゃんが間違うわけ無いじゃん、明らかにわざと。」
俺は彼女の逆鱗に触れていたらしい、鍛冶屋の事になると人が変わる彼女。
仕事を何より優先する彼女、そんな相手を欺いた事へのしっぺ返しが、こんな形で返ってくるとは…
案の定、休息日は本部への出頭でほぼ一日を潰す事になる。
その帰り道、俺は素材屋へと立ち寄る。
「よぉ、例のもの入ったよな。」
「んっ?ストレラの旦那か、入ったには入ったぞ。」
(何その言い方、物凄く不安になるんだが、まさか…ね)
「売れちまったよ。ストレラの旦那が全く来ないからな。」
「嘘だろ、そんな、契約違反だろ、だって俺におろす確約が。」
素材屋から告げられる事実、苦労した1週間が水の泡と消えていく中、彼にしがみついて訂正を求める。
「買ってったのはナーネルさんだったし、旦那の使いじゃ、なかったのかい?」
「図られた!確かにそれなら契約違反じゃないか、思い込ませてとは…契約の穴をついてきたのか。」
ブツブツと推論する俺、そんな俺に素材屋が肩を叩く。
「いやね、代金は後程、本人が払いに来るって言ってたもんだからよ。」
徐に出される領収書、流石にドラゴンのレア素材、それなりの値段だ。
「何で俺が払わないと行けないんだよ!」
「提示された金額を払う、旦那が言ったんだろ?」
確かに、俺はそういう契約を結んだ。
しかも、値段もちゃんと相場よりは安い、彼なりにちゃんと考えてくれたのだろう。
しかし、俺は逆鱗を手に入れてないのだ、契約上この状態だと、俺には払う義務が生じる。
「クッソォォォ、夢であってくれ頼むからぁぉ。」
肌寒くなる夕暮れ時の商業通りに、悲しき男の叫び声がこだまする。
少しパンチが鈍かった気が、もう少し派手にやらかしても良かったかと反省です。