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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第0.5章『名もなき魔導師の約束』
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03 ニアの森へ

 騎士学校に着いた。

 今日は実習だから、門の前に集まるよう教官が言っていたのだ。人だかりに近づいて、こちらを嘲笑する声が耳に届いた。


「お、来たぜ。放剣の騎士様が」


「おい、今日の訓練でも、うっかり剣投げんなよ」


「投げるっつうか、すぽーんって抜ける感じだけどな」


「「ぎゃははははは」」


(馬鹿が二人……)


 放剣の騎士。不名誉なあだ名だ。

 その名の通り、剣を握ってもすぐに手から離れてしまうから、そう呼ばれている。


 比較的軽い木剣や、木槍なら大丈夫だが、真剣となれば厳しい。

 それを面白がって、あのバカどもたちは笑っているわけだ。


「相変わらず、うるさい連中だな」


「エドル」


 ふっと地面に影が落ちて横を向くと、茶髪の少年が立っていた。

 すっきりとした短髪に騎士のような服装。

 夏に成人を迎えたと話していたから、いま十五のはずだ。ゼノよりも頭ひとつ分ほど高い身長。自然とこちらが見上げる形になる。


「気にするな。お前は魔法が使える。やつらはそれをやっかんでいるだけに過ぎない」


「やっかまれてもな。魔法っていったって、少し風を起こせるくらいだし。それもアウルにもらった腕輪のおかげだから、オレ自身の力じゃないよ」


「無論。それは皆もわかっている」


 だが、とエドルは続けた。


「そもそも純粋な魔法など、特別な家系に連なる者しか使えない。一般の者は魔導品を利用することでのみ、魔法の恩恵を得られる。そして魔導品は希少なもの。王に認められた騎士か、金を積んで手に入れるか、自ら遺跡を発掘するか……いずれにせよ、持っているだけで羨望が集まる品なのだ」


「羨望ねぇ」


 そう言われても、迷惑な話だ。


「なにより、アウル殿は元国王直属の騎士だ。その養子であるお前は嫌でも注目される。それを嘆いたところで、どうしようもないことだろう」


 だから気にするなとエドルは言った。


「……わかってるよ。だけどさ、オレはアウルが騎士だった頃のことなんか知らないし、変に注目されても困るんだよね」


「ふっ。アウル殿は俺の憧れだ。風の魔法を使いこなし、かつては一線で活躍した魔法騎士だった」


 うんうんと頷きながらエドルが語り出す。


「あの方の勇姿をはじめて見た時のことは今でも覚えている。本当にすごかった。俺もいつかはアウル殿のように、多くの民を守り、主君とともに戦場を駆け抜けたいと思っている」


「いや……、戦場っていつの時代の話だよ」


 大きな戦争ならば、随分も前に終わっている。いまは平和な時代だ。


「なにをいう。戦いは常に近くで起こっているものだぞ」


「……あ、そう」


 エドルと話している内に、今日の指導教官が歩いてきた。


(はやく終わらせて、はやく帰ろう──)



 ◇◇◇



「やばい、迷った」


 現在、訓練の最中。ゼノは森の中をさまよっていた。けっこう広い森で、同じような木々ばかりだ。

 正直どこを歩いているのかよくわからない。


(つーか、他のふたり、どこいった?)


 さきほど自分をからかってきた、あの馬鹿ふたり。

 今日の訓練はそいつらと組まされているのだ。


(別に一緒に行動したくないし、構わないけど。地図、あいつらが持ってるんだよな)


 今回の目的である祭壇は森の奥にある。

 そこへは地図を頼りにいくはずだったのに、ふたりがどこかへ行ってしまったせいでゼノはひとり迷っていた。


(はぁ……あとで教官に怒られそう……)


 ──誰かと組んで任務をこなすのも、騎士の重要な仕事だ。


 騎士学校の教官たちは口を揃えてそう話す。だから、日頃から協調が取れていないと、いつも怒られる。


(オレが悪いんじゃなくて、やつらが勝手な行動するのに)


 森についてすぐの教官の言葉を思い出す。


 ──今日は実地訓練を行う。三人一組になって森の奥へと進み、祭壇に置いてある木札を取ってくるように。なお、当然だが森の中には獣がいる。最近増えだした森狼もりおおかみだ。こちらは王宮より駆除の指示が出ているので、なるべく多く狩ってきてほしい。いいか、戦いではまわりとの連携が重要だ。今回の試験ではそれも見るので肝に銘じておくように。


 最後の言葉は確実にこちらを見て言っていた気がする。


「でもたしかに。なんか、ガサガサきこえる」


 耳を澄ますと獣の()き声だろうか。

 なにかの声が聞こえてくる。おそらく他のチームが森狼を倒したのだろう。


「あーどうしよ……」


 考える。

 行動その一、引き返して、ふたりを探す。

 行動その二、このまま先に進んで木札を取る。そして教官に怒られる。


「うーん……どっちも面倒だな」


 悩む。目線を下に向ける。

 赤い実が視界に入る。


「お、ベリー!」


 草の脇に木苺を見つけた。


(採っていくか。シオンの母親の好物だし)


 あんな話を聞いたあとだ。少しでも口に入るものを届けてあげたい。

 木苺をいくつか摘み、布袋に入れていると、うしろの茂みがガサガサと揺れた。


(……っ! 森狼か⁉)


 支給された真剣を両手で構え、茂みから距離を取る。

 さらに葉を揺らす音が大きくなり──

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