黒闇天に愛された男【Bパート】
「みんな、悪い。」
暴投した松浦が目を擦りながら詫びた。
「フィールド内は砂を撒かれてまともに走れるけどよ、ファウルゾーンはぐちゃぐちゃだ。
みんな、気をつけてくれ。」
藤本が注意を促した。
「いいぞ、隆義!」
ベンチにもう一人鈴木姓の選手がいる事と、レギュラー全員の弟分という事から鈴木は下の名前で呼ばれていた。
「ヨリさん、頼みます!」
鈴木が高橋にホームに返してくださいとばかりに拝んだ。
この辺り、彩央大附属とは違い、寄せ集め集団とは思えない程のアットホーム感だ。
宮町中バッテリー、及び内野陣はスクイズを警戒していた。
高橋に対しての初球、外に大きく外す。
バットを引っ込める高橋。
続く第二球目、鈴木が走った。
が、スクイズはバッテリーも読んでいた。
再び外へ大きく外す。
コッ!
しかし、高橋はジャンプして執念でバットに当てる。
打球は前進してきた一塁手の金森の前に転がる。
「任せとけっての!」
金森がファーストミットを出したその時だった。
プチッ。
突然スパイクの紐が切れ、金森は前につんのめって転倒してしまう。
打球は松浦が捕球するも、鈴木は生還、高橋もセーフという最悪の結果となってしまう。
「悪い悪い。
まさか紐が切れるとは思ってなくってな。
こんな事もアンデス山脈、ちょっと交換してくらぁ。」
金森はタイムを掛けるとベンチへ向かって行った。
その後、続いていた不運はパッタリ止まり、松浦は三番の三善はライトフライ、四番の中村はサードライナー、五番の遠藤はショートフライに仕留めた。
一回裏、宮町中の攻撃。
先頭打者の松浦が打席に入る。
春日部輝松のエース、安西は今大会屈指のサウスポーで、MAX.百四十八キロのストレートは松浦や八幡中の藤原をも凌ぐ。
また、球種も豊富でスライダー、カーブ、シュート、チェンジアップに加え、縦割れのスライダーも持っていた。
(いくぜ、松浦!)
初球から百四十六キロのストレートを投げる安西。
「ボール、ハイ!」
しかし、コントロールは今一つだった。
捕手の中山田は返球の際、両肩を上下に動かし、リラックスしろと伝えた。
安西がいきり立つのも無理はなかった。
リトルリーグ時代、全く歯が立たなかった相手がそこにいるのだから。
(あの頃の俺とは違うって事を思い知らせてやる!)
安西はこれまで挫折の人生だった。
小五の夏、安西をエースとする春日部ポーラベアーズは北関東大会一回戦で松浦、太刀川を擁する熊谷ジュニアライオンズに惨敗を喫した。
今でこそ百八十近くある身長だが、リトルシニアの入団テストでは身長が足りない事を理由に失格。
挙句の果てには今日のトイレで、
● ● ●
「よう、お前とまた戦える日が来るとはな。
今日は勝たせてもらうぜ!」
松浦に対し、意気揚々と親指で自分を指す安西。
「春日部輝松の選手ですか。
はじめまして、宮町中の松浦です。
今日はよろしくお願いします!」
「ちょ、ちょっと待て!
俺を覚えてねぇのか!?」
「え? どこかでお会いしましたっけ?」
「‥‥‥‥‥‥。」
● ● ●
(いつまでも格下じゃねぇんだぞ!
こっちは二年連続で全国大会行ってるんだ!)
安西は、えぐいスライダーを決め、1-1に持ち込む。
続く三球目は緩めのカーブが外れてボール、四球目は縦割れのスライダーが決まり2-2。
(これで決める!)
安西は渾身のストレートを真ん中高めに投げた。
フォン!
白球は松浦のバットの上を行った。
「ストライーク! バッターアウト!」
左腕で小さくガッツポーズを取る安西。
思わず目頭に熱いものが込み上げてくる。
安西は続く岡田をセカンドゴロ、金森を浅いライトフライに打ち取り、上々の立ち上がりを見せた。
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