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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十七章 真っ向勝負
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真っ向勝負【Cパート】

「あんた、『天才』って呼ばれてるんだってね。」


 直実(なをみ)がマウンド上から酒巻(さかまき)に確認する。


「周りの人が何て言おうが知ったこっちゃないよ。」


 酒巻はクールに答えた。


「私はよく『バカ』って言われる。」


「ん? ――だから何?」


 酒巻は直実を天才だと思っていた。

 それを本人が無自覚、或いは周囲が彼女を低評価しているかもしれない事が妙に腹立たしく感じた。


 『バカと天才は紙一重』という(ことわざ)がある。

 要はどちらも『普通ではない』という事だ。


 それではバカと天才の差は何か?

 酒巻は監督である氷村から、結果を出すのが天才だと教わった。

 これは実にわかりやすい。

 では、この三振の山を築き上げた結果を出した少女もまた天才ではないのか?


「だから、難しい事を考えるのはやめた。

 ――あんたに真っ向勝負を申し込む!」


「真っ向勝負?」


「私がこれから投げる球は全部、ど真ん中のストレートだ!

 打てるもんなら打ってみろ!」


 直実はそう言うとストレートの握りを見せつける。


「!?」


 この『普通でない』人間の発想力は酒巻も含め、誰もが驚きを隠せなかった。

 だが、酒巻はすぐに頭を切り替えて冷静になる。

 驚きとは別に共感出来る何かを感じ取っていたからだ。


「キミってつくづく面白いな。

 ついでに球速まで教えてくれるといいんだけど。」


「えーと、それは‥‥ボールのみぞ知る、だ!」


 コントロールではよく聞くフレーズだが、球速で言われたのは初めての酒巻。


「じゃあ、もし、ど真ん中以外が来た時はどうする?」


「丸刈りにでもなってあげるよ。」


 そこまでは望んでいない。


「君たち、私語は――」


 主審がそこまで言い掛けた時、直実はワインドアップの投球モーションに入る。


「うおおおおおっ!」


(リリースを見てからじゃ遅い。

 そう、このタイミングで振り始める!)


「てりゃあああっ!」


 バス――――ン!

 フォン!


「ストライーク!」


 鉄腕ラリアットからど真ん中に放たれたストレート、その球速は百六十五キロ。

 完全な振り遅れだった。


「へえ、まだそんなスピードが出るんだ。」


「だーかーらー、スピードの事はボールに聞いてって言ったでしょ!

 ほら、次、行くよ!」


(百六十五キロか。

 こんなスピードが続く訳がない。

 次は百六十三キロに振るタイミングを補正するかな。)


 酒巻は口端(くちは)を上げる。

 そんな事はお構いなしに直実はダイナミックな投球フォームから腕を振り出す。


(今だ!)


 酒巻は見切り発車でスウィングを唸らせる。


 ツッ!

 ガシャッ!


 球速はまた百六十五キロ。

 わずかに振り遅れ、軟球はバットにかすった瞬間、バックネット側へ飛んで行き、金網に突き刺さった。


「次がラストだ!」


 バカが吠える。


「それはこっちの台詞(せりふ)なんだけどな。」


 天才がクールに返す。


「うおおおおおおおっ!」


(次こそ百六十三キロだ!)


 どんな投手も長いイニングを投げた場合、突発的に速い球を投げる事は出来ても連続で投げる事は不可能だ。

 だから世の中には多彩な球種があり、緩急が有効的な手段となる。

 最初から最後まで全力投球というのは不可能だと歴史が語っている。


 しかし、直実の投球術は桁違いの常識外れだった。

 酒巻は天才であるが、常識の枠に囚われていないバカの領域には踏み込めなかった。


「てりゃああああっ!」


 バス――――ン!

 フォン!


 球速は自己最速タイの百六十七キロ。

 酒巻は超絶に降り遅れた。


「ストライーク! バッターアウト!」


 主審のコールが響く。


「この期に及んでMAX.スピードかよ‥‥。」


 酒巻は木製バットを見つめながらつぶやいた。


「バカにはバカなりの戦い方があるんだ!

 真っ向勝負に持ち込んだ時点で、もう勝負はついてたんだよ!」


 酒巻に対し、プロレスラーのマイクアピールのように言葉を浴びせる直実。


「キミの理屈は理解出来ないけど、今回は俺の負けでいいよ。

 次は俺が勝つから!」


 酒巻の闘志に火が点いた。


「あんた、ホントに天才なん?

 この打席で決着付けるんじゃなかったっけ?」


 自分が言った台詞(せりふ)にツッコミを入れられた酒巻は赤面した。


 ● ● ●


 酒巻の最終打席以降、直実は一人も走者を出す事なく、最後の打者、廣瀬(ひろせ)も2ストライクまで追い込んでいた。


「うおおおおおっ!」


 バス――――ン!

 フォン!


「ストライーク! バッターアウト!

 ゲームセット!」


 主審のコールにがっくり膝を着く廣瀬。


「やりぃっ!

 あと一つ勝てば優勝だね!」


 直実はマウンドに駆け寄ってきたタッグパートナーに喜びの声を掛けた。


「うん! 決勝の相手はどっちだろうが必ずぶっ倒そう!」


 そう言うと、二人はハイタッチを交わした。


 ● ● ●


 埼南地区を一位通過した栄村(さかえむら)学院を敗った宮町中の顧問、三浦は地元新聞の記者からインタビューを受けていた。


「ズバリ、勝因は何だと思いますか?」


「選手一人一人の個性だと思います。

 自分にしか出来ない技を磨き、本番で出す。

 言葉で言うのは簡単ですが、なかなか出来る事ではありません。」


「四番の太刀川くんの全打席敬遠と、一打席目以降の羽野くんの全打席敬遠についてはどう思われますか?」


「相手のチームの作戦なので、私から言える事は何もありません。」


「最後に、百六十キロ台を投げる鷹ノ目投手についてですが、どのように育てられたのですか?」


「彼女には最低限の理論を与えたに過ぎません。

 ただ、まだまだ未熟なので教える事は山ほどありますが、鷹ノ目なら乗り越えてくれると信じています。」


 三浦はインタビュアーに一礼すると、ベンチを後にした。


 ● ● ●


 一方、第一球場で行われていたもう一つの準決勝、彩央大(さいおうだい)附属(ふぞく)中等部と春日部(かすかべ)輝松(きしょう)中学高等学校の試合は――


「ゲームセット!」


 彩央大附属中の最後の打者(バッター)緋雨(ひさめ)が浅いセンターフライに倒れ、5-2で春日部輝松が勝利を手にした。



 こうして翌日の県大会決勝は宮町中と春日部輝松のカードに決まった。

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