県大会前日の出来事【Bパート】
(さて、誰を誘ったらいいんだろう?)
直実は連絡網を見ながら考える。
そして腕を組んで真剣に悩む。
(あんまり喋った事のない人はちょっとね‥‥。)
この時点で藤本と加藤、伊藤、長田、新井、多々良らが消えた。
(デートじゃないけど、彼女持ちはさすがにねぇ。)
この時点で和田が脱落した。
(論外なのはパス、と。)
この時点で太刀川と星野が消えた。
(先輩方は気楽に誘えそうもないかなぁ‥‥。)
松浦、岡田、金森、土肥、竹之内が消えた。
(希望ちゃんは予定があるって言ってたし。)
希望が消えると、残ったのは羽野だけだった。
(羽野くんならいつもタッグを組んでるし、同じ二年だし、真面目だし、野球に詳しいし!
それに余り物には福があるって言うし!)
最後の一つは余計だ。
(ええーと、電話番号はっと‥‥。)
直実は電話番号をプッシュした。
トゥルルルル‥‥トゥルルルル‥‥
羽野家の電話が鳴る。
自室の子機で電話を取る羽野。
「はい、羽野です。」
「もしもし、宮中の鷹ノ目と言いますけど、敦盛くんいらっしゃいますか?」
「えっ、鷹ノ目さん!?
どうしたの、何かのトラブルに巻き込まれたとか!?」
「ちょっと! まるで私がトラブルメーカーみたいじゃない。
違うってば。」
「ならよかった。
――で、用事は何かな?」
「うん、付き合ってほしいんだけど。」
「ええっ!?」
羽野は心臓が口から飛び出るくらい驚いた。
「どうしたの、そんなに驚いちゃって。
実は先生からプロ野球のチケットをもらっちゃってさぁ、誰か野球に詳しい人と観ろって感じに言われて。
ああ、今日、なんか用事とかあったんなら、他の人、誘うけど。」
「ああ、そういう事かぁ。
俺はてっきり‥‥。」
「てっきり?」
「ううん、何でもない。
俺の方は大丈夫だよ、特に予定とかないから。」
そう言うと、羽野は額にかいた汗を腕で拭い去った。
「ありがとう!
‥‥ところでさぁ、東京ドームって、何駅にあるか知ってる?」
「たしか、水道橋だったと思うけど。」
「すいどうばし?」
「上野で山手線か京浜東北線に乗り換えて秋葉原まで行って、そこから中央――」
「ずいぶん遠いんだね。」
電車に乗り慣れていない直実は、乗り換え回数の多さが『遠さ』の基準だった。
伊達恭子の墓参りは時間は掛かるが、乗り換え回数は一回なのであまり遠さというものは感じていなかった。
「まあ、ドームには行った事があるから案内出来ると思うよ。」
「本当!? 頼りにしてるよ!」
「ははは、じゃあ、三時に駅の改札に集合って事で。」
「了解!」
直実はそう言うと電話の受話器を戻した。
● ● ●
午後二時四十分、JR熊谷駅。
「あれ、あそこにいるんは羽野じゃねぇん?」
竹之内が隣りにいる金森の肩を叩いて指をさした。
「ああ、羽野だな。待ち合わせか?」
「デートだったりしてよ。」
藤本が冗談っぽく言う。
「ははは、まさかぁ。
だって、羽野だぞ?」
金森は笑いながら二人に言う。
「気になるから少し監視してみんべ。」
「先輩の役割ってヤツだな。
よし、乗った。」
竹之内の提案に金森が大義名分を付け足すと、三人は羽野を監視し始めた。
午後三時ジャスト、私服姿の直実が南口から走って現れた。
「親分、あれ、鷹ノ目じゃねぇん!?」
またしても竹之内が発見する。
「鷹ノ目だな、間違いなく。」
そして三人は直実と羽野が切符を買うところを目撃する。
「デートだ‥‥。」
三人は声を揃えて驚愕する。
「あいつら、いつの間に付き合ってたんだんべ?」
「羽野も隅におけねぇなぁ。」
「あーっ、神様は不公平だぁっ!」
藤本が頭を抱えて叫ぶ。
「よし、二人を尾行するぞ、ついてこい。」
金森は竹之内と藤本を連れ、二人に気付かれないように後をつけた。
「ごめん、ギリギリになっちゃって。
結構待ったんじゃない?」
「ううん、そんなには。
――じゃあ、行こうか。」
上りのホームへ降りていく直実と羽野。
その後を追う三人組。
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