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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十二章 県大会前日の出来事
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県大会前日の出来事【Aパート】

この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。

 六月二十四日、県大会前日。

 この日はコンディションを整える為、部活は休みとなっていた。

 直実(なをみ)は弟の直冬(なをふゆ)からファミコンと『ファミリースタジアム’87』を借りて、自室の十五インチのテレビに繋げ、対戦プレイをしていた。


「あーっ、また負けたーっ!

 フユ、もう(ひと)勝負しよ!」


「えーっ、ヤダよ、姉ちゃん()えーんだもん。」


「だって、初心者なんだからしょうがないじゃん。

 その初心者相手に手加減なしってどうなん?」


「ハンディでナムコスターズ使ってやってんだろ?」


「何がハンディよ、一番の『ぴの』ってヤツ、転がせば絶対ヒットじゃない!

 生意気な後輩みたいでムカつく!」


「そもそも姉ちゃんは野球の勉強の為に借りたんだろ。

 ウォッチモードでコンピューター同士の対戦でも見てたら?」


 そう言うと直冬は立ち上がり部屋から出て行った。



 しばらくは言われた通りウォッチモードを見ていた直実であったが次第に()きてきた。

 そして筋トレをやりながらの流し観戦になった後、ほとんど画面を見なくなっていった。

 と、その時だった。


 コンコン。


「直実、三浦先生から電話ー。」


 ドア越しに母の葉子の声が聞こえた。


「えっ、先生から? 何だろ?」


 直実は小首を傾げながらドアを開ける。


 ● ● ●


「鷹ノ目、急な用件で済まないが、今日、時間は空いているか?」


「え? あ、はい、空いてますけど‥‥。」


「今夜のナイトゲームのチケットが二枚ある。

 一度、生でプロの試合を()てきてほしい。

 誰か一緒に行ける家の人はいるか?」


「うち、床屋やってるんで、日曜は誰も行けないんですよね。

 ――先生は行けないんですか?」


「あいにく俺も予定が入っていてな。

 誰か野球に詳しいヤツでも誘って行ってくれ。

 チケット‥‥まあ、自由席だが、それはあとで届けに行く。」


 そう告げると電話は切れた。



(うーん‥‥誰を誘おっかなぁ?)


 直実は真っ先に明美に電話を掛けた。


「ゴメン、ナココ。

 今日はこれっから出掛けるところがあるんだよね。

 ――それに私、野球、全然わかんないし。」


「ううん、急な誘いで悪かったんね。

 じゃあ、また学校で。」


 直実は静かに受話器を置いた。

 次に思いついたのは野球部の希望(のぞみ)だった。


粟田(あわた)、粟田‥‥どの電話番号だろう?

 住所っから考えると、ここかなぁ‥‥。)


 直実はえいやっと電話番号をプッシュする。


「はい、粟田です。」


 希望の声だ。


「あ、鷹ノ目ですけど、希望ちゃん?」


「ああ、先輩! おはようございます!

 何かご用事ですか?」


「三浦先生から野球のチケットをもらう事になったんだけど、希望ちゃん、今晩空いてる?」


「すみません、今日はこれから親戚(しんせき)のお見舞いに行かなきゃいけないんですよ。

 たぶん、ナイターに出掛ける時間までに熊谷に戻ってこれないと思います。」


「そうなんだ。

 忙しいところゴメンね。」


「いえいえ。

 こっちこそせっかくのお誘い、すいません。

 ――では、失礼します。」


 希望の電話は切れた。


「はあっ。」


 思わずため息が漏れた。

 そもそも野球に詳しそうな女子という点で敷居が高かった。


(こうなったらフユでも誘って行くかな‥‥。)


 そんな事を思っている矢先、


「失礼します。」


 三浦が店先に現れる。

 一度、家庭訪問に訪れた色黒で百九十センチの大きな体躯(たいく)は忘れられないインパクトを直斗(なをと )に残した。


「三浦先生じゃないですか。

 すいません、今日は混んでて五人待ちなんですよ。」


「ああ、いえ、今日は直実さんにプロ野球のチケットを持ってきただけですので。

 ――こちらを渡して頂けますか。」


 三浦はジャケットの内ポケットからチケットの入った封筒を取り出した。


「あ、先生!」


 直実が店の奥から姿を現した。


「こら直実、まずはお客さんたちに挨拶、だろ?」


「いっけない!

 皆さん、いらっしゃい!」


「鷹ノ目、これがチケットだ。

 中には野球部員の連絡網も入れてある。

 急な話だったから、行く相手が見つからないのではないかと思ってな。」


「ありがとうございます!

 助かります!」


「では、私はこれで。」


 三浦は直斗に一礼すると、店を後にした。


「直実、デートはまだ早いぞ。」


 直斗は目くじらを立てながら直実を見た。


「デートじゃないってば、ただ野球を見に行くだけだって。」


「それを世間ではデートと言うんだよ。

 デートは魔物だ、男と女をおかしなことにする。」


「おかしな事って?」


「そ、それはだな‥‥とにかくおかしな事なんだよ。」


 愛娘が心配でたまらない直斗。

 だが、直実は首を傾げるばかり。

 言いたい事が伝わらないもどかしさを感じた直斗は妥協案を出す。


「どうしても誰かと行くんなら、真面目な子にしなさい。」


「野球に対しては真面目だよ、みんな。」


 直実はそう言うと、店の奥へと戻って行った。

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