刺客【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「ただいまー。
――ああ、いらっしゃい。」
帰宅した直実は父の直斗がカットしていたお客に挨拶した。
「お帰り。試合、勝ったんか?」
「うん、勝ったよ!
でも、あと四つ勝たないと優勝しないんだよねぇ、地区大会。」
「地区大会かぁ。
お父さんの頃は県大会予選っていう、お硬い名前だったなぁ。」
手を休ませる事なく直斗は昔を懐かしんだ。
「ああ、私、シャワー浴びてくるね!」
そう言うと直実は店の奥へと進んでいった。
「――あ‥‥姉ちゃん、お帰り。」
バッタリ廊下で出くわした直冬が挨拶を交わす。
「あははははは!
なになに、どうしちゃったの、その坊主アタマ!?」
直実は直冬を指さして笑った。
「坊主じゃねぇよ、スポーツ刈りだし!」
「失恋で心機一転って事ぉ~?」
「違げぇよっ!
‥‥俺もさ、野球、始めようかなって‥‥。」
直冬は顔を真っ赤にして打ち明けた。
「ふうーん、そうなんだ。」
「反応薄っ!?」
「なーんてね。
いいんじゃない、野球、面白いしさぁ。」
直実はニマッと笑った。
と、次の瞬間、直実のサイドヘッドロックが直冬に極まる。
「うわっ、何すんだよ!?」
「こうするんだよーっ!」
直実は直冬の短髪を左手で撫でまくり、そのシャリシャリ感触を味わった。
「やめろよ、姉ちゃん!
――うわっ、汗くせぇ!」
「汗くさいのはお互い様でしょうが!
フユも宿題しないで遊びまくったニオイがするよ?」
「う、うっせぇ。」
「ほらほら、ガス代だってタダじゃないんだから、とっととシャワーを浴びなさい。」
廊下でふざけ合う姉弟を見て母の葉子が直実を急かす。
「はぁーい。」
直実はサイドヘッドロックを解くと浴室へと向かう。
途中、立ち止まり、振り返ると、
「一緒に浴びる?」
「あ、浴びねーしっ!」
真っ赤になる直冬の顔を見てウシシと笑う直実。
● ● ●
「前より筋肉がついたかな。」
浴室の鏡に移った上腕を見ながら直実が鼻歌混じりにつぶやいた。
(ああ、でも胸は全然だなぁ。
一体、何を食べたら五島さんみたいな身体になれるんだろ?)
脳内で巴のあられもないダイナマイトボディを再現すると、自分の小さな胸を下から持ち上げてみる。
しかし、そもそも体脂肪がないので肉が集まらない。
(はあ~っ、筋肉もほしいけど、胸もほしい!
――そうだ!)
直実に一つの閃きが走った。
● ● ●
「何、焼肉だと?」
翌日の一時間目休み、直実は体育教官室を訪れていた。
「二回戦を突破したご褒美というか三回戦への決起集会というか、焼肉をみんなにご馳走してください!」
拳を硬く握った直実が三浦に嘆願する。
「‥‥なぜ焼肉なんだ?」
「えっと‥‥それは‥‥身体を成長させる為です!」
嘘は言っていない。
「確かに成長期の身体には動物性たんぱく質は不可欠だ。
そうだな‥‥お前たちが決勝に進んだら考えてみよう。」
三浦は車のローン支払い日である六月十日が過ぎるまで引き延ばそうとした。
「しょうがないですね。それで手を打ちましょう!」
「何でお前が上から物を言うんだ?」
すかさず三浦がツッコミを入れた。
● ● ●
「焼肉――っ!?」
放課後の部活で直実が部員たちに三浦とのやり取りを話したところ、全員が驚嘆の声を上げた。
「マジっスか、それ!?」
星野が目を輝かして問う。
「まあ、『お前たちが決勝に進んだら考えてみよう』っていう条件付きだけどね。」
直実は精一杯のモノマネ付きで補足説明をした。
「熊谷で焼肉っつったらタフネス太郎だんべ。」
普段は寡黙な竹之内も、ここぞとばかりに発言する。
「しかし、代まではちょっと遠いですよ。
部員全員行くとなればマイクロバスが必要になるかと。」
和田がタフネス太郎説を否定した。
「だったらよ、全員チャリ漕いで行きゃいいんじゃねぇの?」
金森が提案する。
「みんな、浮かれる気持ちはわかるが、まずは明日の三回戦に勝つ事を考えよう。」
松浦が部員たちを引き締めた。
「はいっ!」
● ● ●
その日の部活帰りも電柱と言う電柱にラリアットをぶちかましながら歩く直実。
そんな直実に、
「アンタだろ、鷹ノ目ってヤツは?」
待ち伏せしていた影が話し掛けた。
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