諌見ちゃんが戻った!
未来のために兄の墓を案内した諌見は不思議な感覚に囚われていた。今日始めて会ったはずの未来に、妙な親近感を感じていたのだ。そして、墓の前で手を合わせている未来と墓を見比べながら、おかしな感情を覚えてしまう。
自分は本当にここに居るべき人間なのだろうか。何かが間違っている。もっと大切な何かがあったはずだ……。
そんな諌見の複雑な感情を知ってか知らずか、手を合わせ終わった未来は彼女と向き合った。妙に悲しげな表情が、諌見の心を惑わしていく。
「ねえ諌見ちゃん。ここに来ても何も感じない?」
「……実を言うと、ちょっとだけ変な感じがします」
「ホント!?」
諌見の言葉に、未来は声を一オクターブ上げて嬉しさを表現する。
諌見はもう一度墓を眺める。確かに、自分の兄の墓であることは確実だ。しかし、何故かその墓が自分の墓のような錯覚に陥っていく。
「私……一体……どうして……」
一つ一つは言葉の意味を持たないが、諌見の脳内を整理するには必要な文字列だった。
その時、諌見の中で謎の情景が浮かび上がってきた。未来の他に覚えていない人物たちと楽しそうに話している自分の姿が映ったのだ。
「あの、未来さん。私、前にあなたと会ったことありましたっけ?」
「諌見ちゃん?」
「なんか、不思議なんですけど未来さんと会話した記憶があって。私、忘れてたんですか?」
「……うん。大切な記憶を忘れてるんだよ」
「大切な……記憶……」
また、諌見の脳内に別の記憶が浮かび上がる。諌見の記憶なのに、記憶の視点は第三者だった。つまり、第三者がベッドに横たわっている自分を見ていた。声が響く。反響が大きすぎて、誰の声か諌見は判断できない。しかし、その声は諌見を心配しているようだった。
第三者はベッドに塞ぎこんで涙を流す。そして、必死に諌見を呼びかけている。
……これは、私の記憶? だけど、私はここにいて、生きている。まるで死んでるみたいじゃない。今の記憶は。
「――っ!?」
その瞬間、諌見の記憶が全てを取り戻した。脳内の霧が一瞬にして晴れていく。今までが曇りだとしたら、現在は雲一つない快晴だった。自分が兄であること。未来たちのこと。和島のことを……。
ハッとした諌見はすぐに未来に顔を向けた。その表情は先ほどまでの小学生相応のあどけないものから大人びたものへと変化している。
その変化で、未来は記憶が戻ったことを確信した。
「……ずっと忘れててごめんなさい。だけど、ありがとう未来先輩」
「諌見ちゃん……記憶が戻ったんだね……!!」
「うん。一応ね」
「ううう……良かったよ~!」
未来は涙を流して諌見に抱きつく。小学生である諌見は背が低い。未来は自然としゃがんで諌見を抱きしめた。諌見は嬉しいような迷惑のような複雑な表情をしながら、未来の頭をそっと撫でであげた。
「そんな、泣くほどのことじゃないよ未来先輩」
「だっでぇ……今日まで一人っきりだったんだよ! やっと味方が出来て、泣けないわけがないよ!」
「そっか……」
未来の言葉から、自分以外の人間も催眠に掛かってしまっていることを理解する。
未来の辛い出来事を空想し、諌見は同情の気持ちが芽生る。
能力もないのにみんなを助けるために一生懸命になってたんだ。本当にごめんね先輩。
未来が泣き止んでやっと話すことが出来るようになった。諌見はさっそく和島の動向を尋ねることにした。
「私に催眠術を掛けた和島は今はどうしているの?」
「……私のクラスメートって偽って暮らしているわ。多分、私のクラスメートも催眠術に掛かっているに違いないわ! 本当にムカつくやつ!」
「目的はなんだろう……。監視、かな?」
諌見の考えに、未来も同調して頷く。それくらいしか、和島が未来のクラスメートと偽っている理由はない。
待って。監視ってことは……まさか!
「じゃあこの近くに和島がいるの……!?」
未来と諌見は即座に周りを見渡したがそれらしき影は見られない。未来はホッとして、胸を撫で下ろした。
「良かった。今はいないみたいだね」
今までの話を聞いて、諌見は和島の行動に不審な点があることに気づく。その情報を共有するために未来に話しかけた。
「未来先輩……おかしいとは思わない?」
「和島のこと?」
「うん。教室では先輩を監視するために近くにいるってのは分かる。だけど、それなら今もどこかで監視しているはずだと思うの」
「……確かに」
今まで仲間を救うことで必死だった未来は、諌見という仲間の助言で冷静さを取り戻すことができた。諌見の言う通り、和島の行動には不可解なことがある。
もしかして、自分の監視が目的じゃない?
未来は和島の動きをさらに注意する必要があると感じた。
諌見はさらに、自分の状態を未来に告げる。
「とにかく、私は和島と会わない方がいいよね?」
「そうだね。諌見ちゃんは耐性がないから」
「ところで、未来先輩はどうして催眠が効かないの?」
「……私はTSFしか愛せないからね!! 催眠なんてご法度なのさ!!」
「え!? そうなの!?」
「……ってのは冗談。本当のところ、私も良く分かってないの」
仲間が一人元に戻って余裕も出来てきたのか、未来はいつもの様におどけてみせる。それに反応して、諌見は安堵する。
「未来先輩、次は誰を元に戻すんですか?」
「それはもう考えてある。明日香ちゃんを元に戻す。諌見ちゃんの姿で訴えかければ、もしかしたら小学生の記憶が戻るかもしれないしね」
「分かった。協力するよ未来先輩」




