廃墟好きからのお誘い
次の日、未来の教室ではちょっとした騒ぎが起こっていた。教壇の上に立つ一人の少女が、恒例のイベントを行っていたのだ。その少女はA4サイズの紙を手に持って大げさに言葉を話していた。
「皆さん注目! 今日の廃墟レポートだよ!」
「お、また始まったか」
いつものことだとため息をつく者がいれば、興味津々に少女の話を聞く者もいる。捨てる神あれば拾う神あり。二つの意見でクラスは分かれている。しかし、未来はそのどちらでもない。そもそも興味がないのだ。ため息をつくよりも、放課後に真琴や奏と何をするか。それを考えるので精一杯なのだから。
「予定として、私はこの廃墟に行こうと思ってます!」
「ここってあの廃ビルじゃねーか」
「そうだな。確か、途中で建設中止になったビルだ」
そんなの私には関係ないね。
流れてくる会話を聞きながらも、未来はまったくの興味を示さない。一応愛想笑いをして本性を隠してはいるが、そろそろこの教室から出ようかとも思っている未来だった。
だが、そんな彼女に教壇の上にいる少女が話しかけてきた。
「未来さん! 私と一緒にここに行かない!?」
「……え?」
今、私ってば素が出てしまったかな?
少しだけ焦る未来だが、クラスメートは誰も気づいていないことから安堵する。その後、少女の言葉を確認した。
あの子と一緒に廃墟に行く? 冗談じゃないよ。
しかし、少女は教壇から未来の机へと向かい、彼女の机に両手を叩きつけた。その表情はこれから宝探しをするかのような探究心に満ち溢れた顔をしていた。
「ねえ、行こうよ!」
「未来さんがアイツと一緒に行くのか……」
「未来さんの目に何かあったら大変だ!」
「え、えーっと……私は遠慮したいなー。ダメかな?」
未来は愛想笑いを続けながら汗をタラっと流す。早く断らないとおかしいことになる。未来の中でそんな危惧が大きくなっていく。
しかし、少女は表情こそ笑顔ながらも威圧感だけは未来を超えていた。
「ねえ……い・こ・う・よ!」
「え、えへへ~……ど、どうしようかなー?」
何とかして少女の誘いを断ることは出来ないものか。表の顔の未来は大抵の事は受け付けてしまう。それがクラスの中で人気者になっている秘訣でもある。しかし、これを断ってしまえばこれからどうなるのか。それが未来の中で少し不安でもある。
そんな中、クラスの一人が助け舟――なのかどうかも分からないが――を出した。
「そうだ。一人が嫌なら真琴と一緒に行けばいいだろ。もちろん、男の方のな」
「くそっ! 未来さんと付き合っているあのミスターイディオットか!」
「え? あ、あの――」
「悔しいが……それが懸命な判断なのだろう」
「ちょ、真琴君とはそんな関係じゃ……」
と言いかけて未来は口ごもる。そう言えば『付き合っている』って言ってたの自分だった。
そうなれば、もう未来のクラスは止められない。いや、止まらない。
「なら俺たちが口出しをすることは不要だな!」
「ああ! 未来さん! 廃墟に言ってイディオット君と愛を深めてきてくれ!」
ああ、何か、もう私のクラス公認になってきているような気がする……。未来は心の中で泣きながら、放課後に真琴を誘うことを決めた。
放課後になった瞬間、真琴のクラスに未来のクラスメートが大勢押しかけてきた。何も知らない真琴のクラスメートは全員が目を丸くして驚いている。それどころか恐れを抱いている者さえいる。未来のクラスメートは大半が殺気に満ち溢れていたからだ。
「未来のクラス……嫌な予感しかしない」
「まこ兄。あの人たち、ちょっと怖いよ」
真琴は若干引きながら、明日香は恐れから素が出てしまって、入り口に立ち止まっている未来のクラスメートを眺めている。未来のクラスメートは真琴を発見すると、代表の一人が真琴の机までやって来た。代表は真琴の手を掴むと一気に入り口まで引き寄せる。
「ちょっと待て! 俺が何をした!」
「いいから来い! 今回は貴様が重要なのだ!」
「うおおおおおお!!」
未来のクラスメート全員が真琴を胴上げしながら校門へと向かっていく。慌ただしかった真琴のクラスは真琴がいなくなってすっかりと寂れてしまった。その一部始終を目撃していた明日香は何が何だか分からず、呆けてしまっていた。
「まこ兄が攫われた……。だけど、あれはみら姉のクラスメートだし……。よく分かんないよ」
校門へと辿り着いた未来のクラスメートは胴上げした真琴を地面へと叩きつけた。
「どっせーいいいいい!!」
「ぐぇ! 何すんだよ! 痛ってーじゃねーか!」
「うるさい。貴様に拒否権はない」
「待て待て。話が見えないぞ。どういうことだよ」
校門で待っていた未来が苦笑いしながら真琴に近づく。さすがの未来も今回はバツが悪そうにしている。
未来は真琴に手を伸ばして、真琴は未来の手を握って立ち上がった。
「ごめんね真琴君。ちょっと私と付き合ってくれないかなー?」
「お、久々の猫かぶりモード。ってかこの騒ぎはなんだよ」
「私と未来さん、そしてイディオットくんで廃墟探索に行くんです!」
見慣れない人間が自分に話しかけてきたことで、真琴は脳内で彼女の記憶を探す。しかし、探しても見慣れない者は見慣れない。完全に初対面だと真琴は思った。
少女は自分のメガネをクイッと上げて、真琴の体つきを観察する。その艶めかしい目つきに真琴は少しだけたじろいだ。
「う……廃墟探索ぅ?」
「はいです! 世の中にある様々な廃墟。それを探索するのが私の使命! そして、今日は特別に未来さんとイディオットくんを招待したんです」
「招待……ねぇ」
若干拉致られた感がしないでもないが。
しかし、それを言っても何の解決にならないことを真琴は察しているのでため息をつくだけにしている。
未来は真琴に本当に申し訳なさそうに困った笑顔を見せている。それだけで、今回の暴走者は未来ではなく、初対面の少女なのだと真琴は理解する。未来のクラスメートの雰囲気だと、廃墟に行かなければならないのだろう。
仮に俺が行かないと言っても、あの未来の様子だと断ることも出来なさそうだしな。未来のことも心配だし、付いてってやるか……。
「……しゃーない。だったらさっさと行こうぜ」
「そうですね。じゃあ未来さん、準備はいいですか?」
「う、うん」
こうして、真琴と未来、廃墟探索好きの少女といった不可思議なメンバーが集まったのだった。




