助っ人参上!
未来の目の前で立ち止まった奏は、背中を丸くしていた。表情は髪に隠れて見えない。と言っても、見えてても憑依されている状態では無表情だから意味はないかもしれないが。
「じゃあ、少しだけ痛めつけるから。覚悟してね」
「冗談言わないでよ。誰が黙って痛めつけられるもんですか」
奏は木刀を空高く上げて、勢いよく振り下ろした。木刀が未来の頭上へと降りてくる。未来が木刀を避けるために身構えたが、自分の胴体に何かが巻きつけられる感触があった。その瞬間、未来の体は宙に浮き空高く舞い上がった。
「ええええええ!?」
「……っち! 援軍か」
未来の体はそのまま地面へと激突する。砂埃が上がって辺りに空気が汚染されていく。未来も影響を受けて咳き込んでしまっている。そんな彼女を心配するかのように寄り添った女の子がいた。
その子は未来が呼んだ相手、明日香だった。ちなみに、明日香も未来と同じく砂埃のせいで咳を出していた。
「ゴホッ! み、みら姉、大丈――ゴホッ、ゴホッ」
「い、一応助かったよ。ありがとうね明日香ちゃん」
私が避けた方が被害が少なかったかもしれないけど、せっかく助けに来てもらってそれは失礼だよねぇ……。
流石に空気を呼んだ未来は明日香に対して満面の笑みで感謝した。
自分の判断は間違っていなかった。そう思った明日香は自信を持って心の中でガッツポーズを決めた。そして、立ち上がって奏と諌見の二人を見た。明日香は奏が諌見に憑依されていることが分からないため、奏が急に未来を攻撃したようにしか見えない。よって、明日香は悲しげな表情をして奏を説得しようと試みた。
「かな姉……どうしてみら姉を攻撃したの?」
「待って明日香ちゃん。奏は今、そこのちんちくりんに操られてる」
未来の知識で言えば『操られてる』は語弊があるが、明日香にそんなことを言っても混乱してしまうことを予想した未来は敢えてその言葉を使用した。
大体の事情を理解した明日香は奏よりも諌見を睨みつけた。
「よくもみら姉を……! 許さない!」
作戦が変わったため、諌見の真琴に対する攻め方も変えなければならない。そう、諌見はこの昼休み中に決着をつける決心をした。この場は奏に任せて、諌見は真琴を倒しに行く。
諌見は踵を返して歩き始めた。それを逃げだと受け取った明日香は彼女を呼び止めようと大声を出す。
「待って! 逃げるの!?」
「逃げる? いいえ、この隙に真琴とやらを倒しにいくのよ」
「まこ兄を……!? そんなことさせないよ!!」
「それは奏を倒してから言うことね」
奏は後ろを歩いている諌見を守るように前へと出て木刀を構える。
明日香は奏の腕前を知っている。あの剣道の試合のような剣を振られれば、明日香は恐怖で動けなくなるだろう。前回は明日香としての記憶の暴走により恐怖感はなかったが、今は悠太としての記憶が先行している。彼の精神はまだ小学生なのだ。それに、奏は大事な友だちであり、姉のような存在でもある。
そんな彼女に鞭を向けることも、明日香にとっては恐れていた。
「かな姉! 目を覚ましてよ! お願いだから!」
「……フフフ。残念だけど、操られてるわけじゃないから、そういう説得効かないんだよねー」
「明日香ちゃん、今は奏ちゃんを倒すことを考えて!」
どちらにしても、今は奏を何とかしなければならない。早く気絶させて真琴を手助けしなければ。彼は諌見の能力を知らない。味方で知っているのは未来だけだ。
戦いをためらっている明日香だが、やる気まんまんの奏の攻撃を防ぐには戦うしかない。諦めた明日香は鞭を振り回して奏に狙いを定めた。
自分が思っていたよりも早い鞭の乱舞に少しだけ怯んだが、奏は自身の声を武器に明日香に近づいていく。
「私は奏だよ、明日香ちゃん。どうして私を攻撃するのかな? ちょっとショックだな。そんなことをする明日香ちゃんは私、大嫌い」
「あ! ご、ごめんなさいかな姉。止めるから嫌いにならないで……」
自分の面倒を見てくれていた人物が、自分に失望している。明日香は体をビクつかせて鞭を振り回すのを止めてしまった。
その瞬間、奏は木刀を横に振った。
「――隙あり!!」
「あぅ!」
明日香の横腹部に奏の木刀が激突する。声にならない痛みと奏に攻撃されたという悲しみが明日香を襲う。痛みという理由もあったが、いつしか明日香の目には涙が溜まっていた。
やっぱり小学生には酷すぎたかもしれない。未来は明日香の手も足も出ない状況に納得している。明日香の精神は小学生だ。やはり、その年頃は尊敬している人が怒っている姿や自分に対して負の感情を示している姿はキツイのだろう。
倒れかかっている明日香に奏は追撃する。今度は木刀を水平に薙ぎ払って明日香の胸部にクリーンヒットさせる。明日香は吹き飛んで第二体育倉庫の中へと入っていった。中で大きく何かが崩れ落ちる音が聞こえ、ゴミの灰が倉庫の外へと流れ出ていく。
「明日香ちゃんじゃあキツかったか……」
「で、あなたはどうするの?」
「……戦えるとでも思って?」
「ううん」
「ですよねー」
奏は大きく体を動かして木刀を横にスイングする。あまりの早さに避けられなかった未来はせめてでも防御したいと思い、両腕を顔の前に出してガードした。木刀は未来の両腕に当たったが、未来も第二体育倉庫の中まで吹き飛ばされてしまった。
明日香は近づいてきた未来を受け止めたため、中の被害が増えることがなかった。
腕が痺れながらも、未来は遠くにいる奏を見る。奏は勝利を確信しているようで、二人を見下すような目つきをしていた。
「それじゃ、さよならー。人に発見されるといいわねー」
奏は悔しそうな二人を見ながら、第二体育倉庫の扉を閉めた。
邪魔者を二人格納できた奏は生成した鍵を使って鍵をかけようとしたが、一つ面白い趣向を思いついた。奏は錠に手をかざして、まったく新しい南京錠へと変化させる。鍵もその南京錠に合うようなものに変化させ、奏は鍵を閉めた。
これでオリジナルは奏が所持している鍵のみしかない。つまり、奏が正気に戻らなければ二人は永遠に閉じ込められたままになるのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさいみら姉! 僕……助けに来たのに全然役に立てなかったよ……」
「まだ小学生だもの。しょうがないわよ。それに、悠太君はよく頑張ったわ。ありがとうね」
暗闇が第二体育倉庫を支配し、明日香は自身の不甲斐なさを悔やむ。表情はまだ暗がりで目が慣れていないためよく分からないが、未来は鼻をすすりながら話している明日香の表情を推測することはできた。
彼女をなだめるために、彼女を抱きしめて頭をそっと撫でる。
さてと、これからどうしようか。誰も助けに来てくれないだろうし、唯一の救いは奏ちゃんのアドレスが分かることか。真琴ちゃんが何とかして奏ちゃんの意識を取り戻してくれればいいんだけど……。
今は真琴を頼るしか無い未来は、とりあえず明日香をなだめてからこれからのことを考えることにした。




