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エピローグ

再建されたカメリア王城。

真新しい白い石壁に囲まれた室内に、ひとりの若い王が佇んでいる。


若い王は、壁にかかった大きな一枚の肖像画を見上げていた。

白く輝く髪の、背の高い美貌の少年。

その傍らに寄り添う少女。

ふたりは絵の中で、まるで生きているように微笑んでいる。


このふたりは、王にとってかけがえのない友だった。

彼の人生を変えてしまう重大な出来事に、深く係わった人物たち。


彼を認め、彼を導いてくれた。

彼が生まれて初めて、心を許した友。


なのに・・・・・・


ふたりは王の前からいなくなってしまった。


少年は、愛する少女を守るために。

少女も、人知れず姿を消した。


「スエルツ王・・・・・・」


自分の名を呼ぶ声に、王は振り返る。

大切な友を探し出すように命じた、有能な家臣が畏まっている。


「ミアンとブランは見つかった?」

「・・・申し訳ございません」

「・・・・・・そう」


どこをどんなに探しても、ふたりの消息は分からなかった。

少年の方はともかく、少女はおそらく山に入ったと思われる。

だから徹底的に、しらみつぶしに探したというのに。


どうしても見つからない。

どこにもいない。

まるで煙のように、姿を消してしまったのだ。


不思議なことに、少女が姿を消したその日から・・・

山の全ての木々に花が咲き乱れ、一晩で大量の実が成った。

その果実は、作物が壊滅して飢えた国民の命を救ってくれた。


そのおタヌキ山を中心に、まるで命が復活するかのように、少しずつ緑が、大地が回復していった。


「なんの手がかりも見つからないの?」

「それが・・・・・・」


王の問いかけに、家臣が困惑したような表情で答える。


「噂を、聞くのでございます」

「噂?」


山のふもとの町の中で。

もうずっと、人々の間にささやかれる噂話がある。



雪のように真っ白なタヌキを、頭の上に乗せた少女が・・・

軽やかに町を駆け抜けていくのを見た者がいるという。


黄昏の山の草原で、白い髪の少年とドレイ服の少女が・・・

ぴたりと寄り添い、沈む夕日を幸せそうに眺めている姿を見た者がいるという。



「ただ、どこをどのように探しても、見つからないのでございます」

「そう・・・」

「しかしご安心ください! 必ずや見つけ出してごらんに・・・」

「いや、いい」

「・・・は? いや、しかし」

「幸せだったんだね?」

「・・・・・・?」

「ふたりは、幸せだったんだよね?」


それなら・・・・・・いい。


かつて、少女と約束した。

『頑張って幸せになろう』と。


少女は、その約束を叶えたんだ。

それならば、いいんだ。


「それにね、時々、ふたりは便りをくれるんだよ」

「便りでございますか?」

「うん。山の果実と、ネズミの死がい」

「・・・・・・はあ??」

「この前なんて、ベッドの中に忍ばせてあったんだよ。もう驚くやらおかしいやらで」


だから、今度は自分の番。

自分が約束を叶える番だと、王は密かに決意する。


お前はきっと偉大な王になる。ふたりはそう勇気づけてくれた。

自分が偉大だなんて夢にも思わないけれど、それでも、幸せになるべく努力している。


自分だけじゃなくみんなを幸せにしたい。

国民も、もちろん、最愛の妻も。


「国王陛下」

「アザレア! 気分はどう!? 大丈夫!?」

「大丈夫です。つわりなど病気のうちに入りませんわ」


身重の王妃の姿を見て、王は家臣を下がらせた。


王妃も王と並んで肖像画を見上げる。

その穏やかな表情を見て、王は自分の心が幸せに満たされるのを感じた。


「ふたりから、わたくしにも便りが届きましたわ。きっと懐妊の祝いです」

「ほんと? どんな?」

「木の実とヘビとネズミの死がいでした」

「・・・・・・・・・・・・」

「たぶん、これで栄養をつけろという意味だと推察いたしますわ」


王と王妃は顔を見合わせ、一緒に噴き出した。


「本当にあのふたりには油断がならないね!」

「きっと、ずっと見守っているという意味ですわ」

「うん。あのふたりが見ているなら、もっともっと頑張らなきゃと思うよ」

「陛下はよく頑張っていらっしゃいます」


おタヌキ山から、タヌキの姿は一匹残らず消えた。それでも王は山を保護する命令を下した。

未来永劫、山を荒らしてはならぬ、と。


奴隷制度も廃止した。戦争からも手を引いた。


どれもこれも、貴族たちからの反発は根強い。経済や国防の事情もからんで、問題は山積みだ。


自分のことを、愚劣な王だと陰口を叩く者もいる。

前の王の方が良かったと、嘆く者もいる。


でも諦めない。決して自分は諦めるつもりはない。


あのふたりが伝えてくれたものが、ここに・・・

自分の中にあるから。その真実を信じているから。


「アザレア、ボクは負けないよ」

「ええ。陛下が負けるはずがございませんわ」

「うん。だって・・・・・・」


だって


愛は世界を救うのだから。



そうだ。あのふたりの愛が、世界を救ったんだ。

ふたりはそれを証明してくれた。

だから絶対に大丈夫。


自分の心の中に愛がある。


人に。

山に。

大地に。

緑に。

風に。

命に。

目に見えぬものに。


全ての中に、真実がある。

だから世界は大丈夫。

ふたりが守った世界は、悲劇を超えて、前に進む。


「父王にも、セルディオにも、オルマにも、真実はあった」

「ええ、そしてわたくしのお腹の中にも」


王妃は嬉しそうに自分のお腹に手を当てる。

こんなにも確かなものが、ここにある。


これから生まれてくる命たちに、自分は伝えていかねばならない。


自分自身の中にある真実を。


そして、世界を救った伝説のふたりの真実を。



王と王妃は寄り添い合う。

愛に満ちた世界の中で。


きっと彼らもいま、世界のどこかで寄り添い合っているのだろう。



見上げる肖像画の中で微笑み続ける、大切な友。


そのふたりの囁く声を、王は確かに聞いた気がした。


最も尊い、真実の言葉を。




『愛している。ミアン』


『愛しているわ。ブラン』




 - 完結 -




最後までお読みくださって、ありがとうございます。


本来なら交わる事のない領域に、足を踏み入れてしまった少女の物語。


たくさんの冒険を経て、彼女が経験するできごと。

なにを望み、なにを信じ、なにを最後に得るのか。

そんな世界を書きたいと思いました。


書けた・・・かな???


現実と伝説は、やっぱり別世界です。

ふたつの世界は簡単には混じり合えない。それが本来の、望ましい形。


それでも登場人物たちは時折、奇跡のように通じ合います。

同じ想いを共有しているから。

世界はどこかできっと繋がっているから。


木の実とネズミの死がいを届ける程度が、やっとですけれどね。


ネズミの死がいはいい迷惑ですが、ブランにとっては、彼なりの最大の友情の証です。


・・・あ、ブランがどうしてミアンを迎えに来なかったか、ですが。

あれは、単純にブランがおマヌケだったんです。


地竜の大騒動の後、無事に復活はしましたが。

そう簡単には、現実世界に干渉できなくなってしまってたんですね。


ありゃ困った。迎えに行けねーわこりゃ。

ミアンの方から来てくれねーかなー?


・・・って、ずっと待ってたんです。彼は。


ミアンは、知らず知らずにそれを感知していたようで。

引き寄せられるように、山へ向かったんです。


感動の再会の後、世界を揺るがす夫婦ゲンカが勃発しました。

ミアンにしてみりゃ、無理もない話ですけど。

小説内では説明しきれなかった内輪話です。


登場人物たちが迎えた結末。

彼らはこれからも愛し合い、しっかりと世界を守って強く生きていきます。


この世界を、最後まで読んで下さってありがとうございます。

心より御礼申し上げます。


ご縁がありましたら

また岩長の作品でお目にかかれますように・・・。


岩長 咲耶


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― 新着の感想 ―
[一言] 内容はシリアスだけれども、軽快な文章で楽しかったです。 次々怒るハプニング、怒涛のクライマックスに次ぐクライマックス!という感じで最後まで(読む方も)駆け抜けてました。 面白かったです、感動…
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