Act.7.5:イジワルと好き
ルーチェのバカ、バカ、バカ!
どうしてテオの薬を作ってあげるの!
テオはルーチェのこと好きだって言った。僕だってルーチェのことが好きだもん。僕の方が、いっぱい好きだもん!
兄様と姉様はいっぱい抱っこするのに、ルーチェは僕と抱っこしてくれない。この前まではいっぱいしたのに……僕のこと、嫌いなんだ。
姉様に似てるって思ってたけど、ルーチェはイジワルばっかりで姉様とは全然違う。
もう知らない!僕もルーチェのこと嫌いになるんだから!
夢中で走ってたら、ルーチェと一度来たことのある図書館に着いた。
中には……入っちゃダメなんだっけ。
僕、ネコだから。
――「ジュストはネコだから」
ルーチェもそう言ってた。
そうだよ……僕、ネコだからわからないよ。
どうして抱っこはダメなの?
どうして一緒に寝ちゃダメなの?
僕が人間だったら、ルーチェと一緒に……いろんなことができるの?
ドアの前で人が入ったり出たりするのを見ているうちに悲しくなった。
僕、人間に戻りたいよ。
外は暗くなって、ちょっとだけ寒くなって、それからまた明るくなって――…
僕、どこに行ったらいいんだろう。また、ひとりぼっちになるのかな?
「あれ、ジュスト?今日はいい子に待ってるんだね」
いろんなことを考えてたら、ユベール兄様の声が上から聴こえた。顔を上げたら、兄様はクスって笑って僕を抱き上げてくれた。また一緒にベンチに座る。
『今日は、ルーチェはいないよ』
「へぇ……こんな短期間でできるようになったんだ?さすが王家の血を引いてるだけあるね」
ユベール兄様はちょっと驚いてたけど、大変だったんだ。海でいっぱい練習したんだよ。ビリビリ痛かったし。
『ねぇ、兄様。僕、兄様と姉様のところに行っ――』
「ダメ」
む……ちょっとくらい考えてくれてもいいのに!
「サラと僕の邪魔しないで。ただでさえ最近あんまりサラに触れないのに――…」
サラっていうのは姉様の名前。ユベール兄様はなんだか眉をぎゅってしてブツブツ言ってる。ユベール兄様も姉様に抱っこしてもらえなかったのかな?
『でも、ルーチェは僕のこと嫌いになったんだ。一緒に寝てくれないし、抱っこもしてくれない。イジワルなんだよ?』
「ふーん。あの子、恋愛経験なさそうだもんねぇ。ま、それは君もだけど」
レンアイケイケン?
「ふふっ、そのうち君にもわかるよ」
そう言って、ユベール兄様は立ち上がった。もう行っちゃうのかな……
「1つだけ、いいこと教えてあげるよ」
『なに?』
ユベール兄様はニッコリ笑って首を傾げた。
「イジワルするのは好きだからなんだよね。裏返しってやつかな。ま、君の言う“イジワル”がイジワルにカウントされるかは微妙だけどさ。じゃーね!」
片目を瞑ってからくるりと向きを変えて、ユベール兄様は帰っていっちゃった。
――「イジワルするのは好きだから――…」
ホント?
ねぇ、ルーチェ。
僕のこと、好き――?