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懐古と革新

 己自身のフォーマットと、ざっくりとした擦り合わせの作業が終わる頃、地元走り屋のメッカ。富士見平、通称〝ダイラ〟の麓近くまで辿り着く。

 信号待ちで止まっている俺らのクルマの右側に、ドロドロと低く湿ったエグゾーストを轟かせながら、被せ気味で寄せて来る白黒の370Z。

 県警交通機動隊の若き精鋭、日本人とベネズエラ人のハーフであるカルロスと、日系メキシカン三世。帰化人ホセのラテンコンビだ。

 二人共、この蓮華市港湾地区育ちの、大和魂全開バリバリなポリスメンであるが、交通機動隊に採用されてから、元々ある素養が開花したのか、国家権力を振るい、この幹線道路を牛耳る魔王の如き傍若無人な振る舞いで、市民からの苦情殺到、俺らからしてみりゃ、抱腹絶倒な、バカコンビなのである。

「おぅ、オッサン! 昼間っからイイ音させてんじゃねーか! 路肩に寄せて、車検証見せろや!」

 ガキの頃はよく、近所でワルさばっかしては、俺らにドヤされて泣きべそかいてたハナタレのくせしやがって、生意気に権力を誇示し、アゴで駐停車を促す。

 しょうがねぇから、従うフリをして左にウィンカーをだしつつ、トロトロとそのまま交差点を左折、富士見平パークウェイの入り口へとノーズを向ける。後ろの白黒Zのスピーカーからカルロスの苛ついたガナリ声が聴こえるが、気にしない。

 クルクルとウィンドウのハンドルを回し、右腕を出す。

 後ろの間抜けなスタスキー&ハッチもどきに中指をおっ立ててスタートの合図。

「ゴルァア! 停まれぁ! このクソジジィ! ケーサツなめてんのか!」

 カルロスの怒声がスピーカーから微かに聞こえたような気がしたが、風と、エグゾーストの轟音で若造のか細いヒステリー声などすぐさま掻き消されてしまう。

「キミクン! ミュージックスタート!」

「え? カーコンポなんて余計なモン積んでませんよ」

「あ、そう、じゃ、お前が唄うんだよ!」

 そう怒鳴った俺は、ローズマリーバトラーの〝ライディング・ハイ〟のイントロを口ずさむ。

 公右衛門は、なんか言いたげな面持ちで、ラップトップの画面をチェックしながらも、流暢な発音で『♪ンアィキャンシィユゥ! バーニンウィズディザァアアアイヤァア!」と、まるで持ち歌のように歌い上げて行く。

 ワンコーラス目のサビに行く頃には、動物園前を通り過ぎて、180度+180度の左右のつづら折りを立ち上がり、いよいよパークウェイの本舞台へ。

 カルロスは怒りでブレーキングポイントが大幅にズレてしまい、一発目のコーナーで側溝に嵌まりアシ回りを破損。

 自分達もしばらくはコルセットの厄介になるであろう。

 そんな、若き公僕の存在など、3秒で忘却の彼方に捨て去った俺は、次々に迫り来る各コーナーを3速一本、基本のラインどりで黙々とクリアしてゆく、公右衛門は空燃費を微妙に換えつつ、最適なセッティングを模索して行く。山頂まで全長15km程の道程で、ベースとなるセッティングを終えた公右衛門。

「下りはクールダウンしましょう。あんまり踏まないで下さい。あぁ、それからブレーキングも最小限で、出来ればエンブレのみでお願いします」

 何の為に? なぞ尋ねても俺に理解出来る答えが返ってくる筈も無いので、敢えて尋ねまい。俺はご要望通りに、純正MT6速マニュアルミッションを直結の5速に入れ、ノースロットル、ノーブレーキで麓まで下り切ってやった。

「やっぱ、晴男さん流石っすね、トラクション入れないでもラインどりだけであれだけ安定したダウンヒル。職人だわ⁓」

「よくいうぜ! 無理難題ふっかけておいてよぉ! でも、このマシンだったから、それほど難題でもなかったけどな。あんだけ振りまくっても、パソコンの入力が出来るキミクンの方が恐ろしいわ……」

 幸いなことに、時間帯もあってか、他の通行もなく、ハイアベレージで下って来られたのだが、やはり、特筆すべきはこのニューZの卓抜たるコーナーリング性能である。全く破綻の予感も無い鼻歌混じりのハンドル捌きだったのがそら恐ろしい程だ。

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