懐古と革新
「お⁓っす。キミクンいるぅ⁓」
「おつかれっス、ハルオさん、ちょっと待って下さい、猛田さんトコのAMG、オイル交換だけヤっちゃいますんで」
メリバンのエグゾーストノートを聞きつけた公右衛門は既に事務所で待っていた。
オイル交換を終え、リフトから降りたAMGのビっとした立ち姿を満足げに眺めた後、公右衛門はピットからAMGを出す。
「……それで、代車なんですけどォ……」
「……S30見して貰いてぇんだけど」
東海林の思わせぶりな態度をスルーしながらも、些かためらいがちの俺の言葉に
「へぇ、…………」
ほんの少し東海林の口元が意地悪く綻んだ。
「おいおい、ちがうぜ、なにニヤついてんだよ? 他意はねぇから!」
「えぇえぇ、そうですね。分かってますって!」
尚も薄笑みを殺しきれず公右衛門はリフトのスイッチを入れる。地下に設けられたZ専用の車庫からリフトアップされたS30フェアレディZは公右衛門の手に因って新車のように磨き上げられており、漆黒のボディは依然として、真夜中のアスファルトを掻きむしりながら暴れ回るメタルモンスターの威容を放つ。
「『ひさしぶりじゃない、いつでもいいわよ、全開でブン回してみなさいアタシを……』」
フェアレディZが、俺に向かってそう語りかけたような気がした。
俺は、実のところEgに固執すタイプではない。RBだろうが、13Bだろうが、GZだろうが、そのEgのポテンシャル全てを引き出せる技術は自負するところでもある。問題なのはむしろEgマウントの位置。そしてボディ、と脚回り。実際に路面とのコンタクトを担うシャシーのバランス。もちろんルックスが重要なのは言うまでもない。
2シーターのS30Zはリアアクスルシャフトがケツの真下にある感覚、謂うならばバイクみてぇで実にコントロールが楽しかった。
ショートデッキ、ロングノーズ故の撓りがパワースライドのコントロールを容易にしてくれるのだ。まぁ、それはあくまでも公右衛門の手が入る事が大前提であるが……。
よって、前世代的な直6Egにはご隠居願い、つーか、大人しくメリバンの動力に成って頂いて、マスの集中化を狙い最新の3・7リッターV6にPGPテクニカルマジックを加えてNAながら最大出力540ps/8930rpm、最大トルク55kgm/5500rpmを発生させる。
公右衛門は改造にあたり、ターボ装着による様々な補機類や、パイピングによるエンジンルーム内の煩雑化と重量増加を嫌い、高性能高剛性エンジンの性能を信じてNAのままレスポンスとスタビリティ重視の上品でジェントルな仕様に落ち着いたのだった。では、現行モデルに素直に乗ってりゃいいじゃん! となるが、現行モデルのボディはデカくて重い(1500kgオーバー)。居住性にも配慮した結果、到底スポーツカーとは呼べない贅肉だらけの〝不便な乗用車〟に成り下がっており、俺の琴線に触れる事は無かった。(最新型を買う余裕なんぞ、ある筈無いが……)ちなみに、このS30はドアとルーフ、プロペラシャフトまでもがカーボンコンポジット製でその他諸々にまで及ぶ徹底的な軽量化の結果、860kgと、驚愕のパワーウェイトレシオ1・59kg/psを誇るスーパースポーツカー。否、著しくクッション性に乏しいカーボンのフルバケットやら、必要最低限の計器類しかないインパネやガッチリ溶接された12ポイントロールケージ等々、もはやレーシングカーと言った方が良いかもしれない。




