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毒ビンゴゲーム  作者: ケト
1/7

開始

 日曜日の正午。

 スクランブル交差点の赤信号で立ち止まる雑踏の中で、わたしは駅ビルの大型ビジョンを眺めていた。


 お昼の情報番組が始まり、今やその顔を見ない日が無いほど人気の女子アナ、ミコちゃんがホクホク顔で挨拶をしている。


『本日は全国的に快晴だそうです。わたし、快晴って聞くとお腹空いちゃうんですよね。だって、青空の下で食べると何でも美味しく感じません? なははっ!』


 ミコちゃんは裏表の無い、明るく元気な性格で人気の女子アナだ。

 でも、その輝きは今のわたしにとってはひどく眩しく、疎ましくさえ感じるものだった。


 歩行者信号が青へと変わり、その目線をミコちゃんから前方へと向けた、そのときだった。



「お待たせしました。これより、毒ビンゴゲームを開始します!」



 突如、どこからか聞こえてきた大きな声。

 しかもそれは、あらゆるところから聞こえたような気もする。

 歩きながら再び大型ビジョンに目をやると、どうやら音源の一つはそれのようだった。


 画面は、つい先ほどまで映っていたスタジオから、晴れ渡った青空へと変わっている。

 お天気コーナーか、それともどこかの中継先にでも変わったのだろうか。


 雲一つ無い真っ青な画面に、黒い何かが現れた。

 それは、お昼の番組には似つかわしくない格好の女性だった。



 上半身のみ映し出されたその女性。


 首元まで完全に覆うほど露出度の少ない、真っ黒なフリフリのドレスを着用している。

 目元には、仮装パーティーで見かけそうな黒いバタフライマスク。顔のほぼ半分がそれで隠されている。

 真っ黒い、真っ直ぐな髪が胸元まで伸びており、その毛先十センチほどだけは紫に染められていた。


 一方で、露出された顔半分はまるで作り物のように白い。骨格以外の凹凸が存在しないかのようにも思える。


 鼻筋と妖艶な口元、そんな見た目にピッタリな艶めかしい声からも、それが女性であることは容易に見て取れた。


 それにしても、先ほど聞こえた台詞は何だったのだろうか。

 たしか、毒ビンゴゲームとか言っていたようだが。




「突然過ぎて聞き取れなかった方、あるいは理解が追い付かなかった方もいることでしょう。ワタクシの半分は優しさで出来ておりますので、もう一度言って差し上げますわ。

 ――お待たせしました。これより、毒ビンゴゲームを始めます!」


 いや、何度言われたところで何を言っているのかわからないのですが?

 それと、あなたを構成する残り半分は鎮痛作用ですか?


 交差点の対岸に到着すると、大型ビジョンを見て立ち止まった。

 周囲の誰もの視線が、ビジョンと携帯電話の画面を何度も往復している。

 そこには、歩みを進める者はただの一人もいなかった。


 ――携帯電話?


 ポケットから取り出してみると、電源を押した覚えのないそれは、待ち受け画面ではない何かを表示していた。

 それは、大型ビジョンに映るものと全く同じ画面だった。



「では、まず始めに。皆様にカードをお配りします」


 その音声はビジョンからだけでなく、携帯電話からも聞こえてきた。しかも、おそらく他の人の、全ての携帯電話からも。


 ビジョンの画面には依然として女性映し出されているが、携帯電話の画面には、ビンゴゲームでよく見るカードのような画像が表示された。

 それは薄い青の背景に、縦五マス、横五マスの、よく見るタイプのものだった。

 

 とはいえ、そこには数字が一つも書かれていない。

 真ん中のマスにさえ何も書かれていなかった。

 ビンゴゲームという言葉を聞いていなければ、ビンゴのカードと連想することも無かったかもしれない。


 周囲を見ると、ほとんどの人がその手に携帯電話を持っているのだが、ごく一部の人は、何やら紙切れを手にしているようだった。



「お配りしたのは、皆様の携帯電話、PC、ゲーム機。それらは文字入力が可能な端末です。もしもそれらを所持あるいは携帯していない方には、紙製のカードをその手に転送いたしました。もちろん、鉛筆もセットで!」


 ――転送?

 様々な電波を勝手に使用した、犯罪の臭いがプンプンする行為。だが、これらはやろうと決意すれば不可能では無いと考えられる。


 問題は、人のその手に物を転送する技術の方だった。そんなものは聞いたことが無い。

 だが現に、数名の手には紙と鉛筆が握られているのだ。


 それとも、事前に配布されていたのだろうか? それにしては、誰もがそれを手に、明らかに驚いているようだが。



「皆様、一度は目にしたことがあるような、普通のカードですね。でも――おやおや? 数字が一つも書かれていませんね。

 ――そう、皆様にはこれから、真ん中以外のマスに『人の名前』を書いて貰います。それは自分の名前でも構いません。家族でも友人でも、見ず知らずの他人でも、実在する人なら誰でも構いません」


 この音声はおそらく、全てのテレビ、ラジオ、あらゆる機器から聞こえてくるのではないだろうか。

 でも、今この瞬間、何の機器も持たずにトイレに入っている人もいるのではないか。突然その手に紙と鉛筆が転送されて、その人はさぞや驚いていることだろう。


 ――まさか、音声もその人の耳に転送されているなんてことは……



「紙をお持ちの方は、早速、直筆での記名をお願いします。電子機器をお持ちの方は、試しに真ん中以外の一マスをタップ、クリック、あるいは選択してみて下さい」 

 

 言われたとおりに、一番左上のマスをタップしてみると、文字入力の画面に移った。


「記名出来るのは、当然ですが一マスにつき一人です。同じ人の名前を二つ以上書くことは出来ません。

 では、皆様、ご記名をお願い致します! ……って言われても、『誰の名前を書いたら良いかわからないよぉ!』という方もいることでしょう」


 それはそうだ。そもそも名前を書く意味がわからないし、ゲームへの参加を表明した覚えも無いのだ。



「それでは、皆様お待ちかね。ルール説明に移ります」

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