第十二話
昨日の夜には上げたかったのですが寝落ちしました
「戻りました」
バン、と執務室の扉を開く。
その中で真面目に仕事をしていたらしい屋敷の主人は、ペンを持ったまま目を丸くした。
「え、早いね?まだお昼にもなってないのに」
「そこまで長話するほど暇ではありませんもの、お互いに」
通常業務に加えて、亡くなった奥方の葬儀の準備や、王太子として周囲へのフォロー。そして結婚相手探し。
彼はダラダラここに来たり、ダラダラ人を待ったり、ダラダラ喋っている時間はないのだ。
手短に話してきた。
「ど、どうだった…?」
「結婚したいと言われました」
噴水の前で話してきた内容は、ダイジェストに言えば、結婚したいごめんなさい、だ。
リリイが亡くなって呪縛が解けたみたいだ、やっぱり王妃に相応しいのはアリアしかいないだなんだの抜かしていたが、今更だ。
私はこの半年くらいで、王妃にはなりたくないと思ったし、一緒に幸せになりたい人を見つけてしまった。
それをさっとヴィン様に伝える。
「え?まって?一緒に幸せになりたい人???いるの?え、あ、アリア、誰かと結婚したいの!?」
一番食いつくのはそこですか。
まだ気持ちを伝える気がなかった私としては、軽くスルーしてほしかった。
ガタン、とヴィン様は机に手をついて立ち上がった。
その勢いに煽られた書類がひらひらと舞い、床に落ちる。あぁ、大事な書類が。
「…してほしくない」
情けなく眉を下げるヴィン様。
少し躊躇して、だが口を開いた。
「……僕、実は、先代のメンデル男爵の実子ではないんだ。捨て子で、男爵に拾われるまでは溝鼠みたいに生きてた」
思わず目を瞬く。
ヴィン様の過去をここの使用人は誰も口にしないから、話すような過去がないからだと思っていた。
「だから苦しむ子や、辛い人を助けたいと思って、君を引き取ったんだ。幸せにしてあげたいと思った。もちろん君が、結婚を望むなら、お婿さんを探そうと思ってた……んだけど、」
なんか嫌だ、と
ヴィン様は聞こえないくらい小さい声で言った。
沈黙が流れる。
考えるより先に、口が開いた。
「私、一時は諦めていたんですが、やっぱり結婚したいんです」
大事な人と、添い遂げる。
今の願いはそれだけだ。
「ーーーなので、私と結婚してください」
そう手を差し出せば、随分と間を置いてから、ふぇ?と情けない声を上げたヴィン様。
歳上とはとても思えないあどけない表情に、私は産まれてはじめて声を上げて笑った。
大好きです、お義父様!
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