エマの前世
エマに関する誤字報告を頂いたので、その時に書いたお礼の話。エマ視点。
エマについての紹介↓
水の精霊。癒しが得意。
ディノの契約精霊だが、ディノから守るように言われてセイラのそばにいる。セイラに身体を作ってもらった。美人。基本無表情。説教が長い。
最初、お嬢様が大嫌いだった。
「んー、ジンギスカン、イカのお刺身、筋子、鮭とばのうちどれがいい?」
「ぜんぶいや」
「えー、美味しいのに……」
「なまえにおいしいはかんけいない」
お嬢様は自分に変な名前をつけようとしてくるから。
精霊のままでは意思の疎通が図れないからと、お嬢様が人の身体を作ってくれた。だが、自由に動かす事ができずこの屋敷にある唯一のベッドを占領し寝たきり生活を送っている。
身体ってこんなに重かっただろうか。
ご主人様からはお嬢様を守るようにと言われているのに、その守るべき対象にお世話をされるなんて精霊として役立たず以外の何者でもない。
それに自由に動けないというのは前世の自分を思い出させる。
前世の自分は、とある国の巫女として毎日神に祈りを捧げていた。
生まれつき歩けない自分は役立たずで、周囲の人の助けがなければ生きていけない。そんな自分を巫女として見出してくれた神様に感謝しなさいと、司祭様に事あるごとに言われていた。
外界から隔絶された場所で、自分に関わる人は司祭様とお世話をしてくれる人だけ。
あの時は巫女としての自分に疑問を持たず、当たり前だと享受していた。今ならわかる。あれは洗脳と言う名の呪いだ。
そして十歳の時に自分は神に捧げられた。
神を騙る魔獣の胃の中に。
魔獣に食べられて全てを知った。
魔獣はこの国を襲わない代わりに、十歳の子どもを生贄として定期的に要求していたこと。
巫女とは名ばかりで魔獣に捧げる生贄を育てていたこと。
司祭様主導の元、近くの村を襲い生贄候補を調達していたこと。
生贄が逃げないように歩けなくさせていたこと。
魔獣の腹の中にはたくさんの魂が絶望や恨みで真っ黒に染まり、その魂を喰らうのが好きだと魔獣は笑っていた。
自分には祈ることしかできない。
それしか知らない。
魂が救われるように魔獣の中で祈り続けた。
「ちっ! 潜入中に胸糞悪りぃモン見つけちまったじゃねーか。絶望に染まった魂が好きとか悪趣味だな。クソが! 魔獣を放置するから知恵をつけるんだ。この国の奴らアホばっかりだな」
魔獣が死んだ。目の前の男の人の手によって。
「ほれ、天に昇って元気に生まれ変わってこい。来世は幸せになれ」
その人が手をかざすと真っ黒な魂が綺麗に浄化された。光り輝いて魂があるべき場所へと還っていく。
もしかしたら、この人は本当の神様……?
「さ、お前も……って、精霊になりかけているな。魔獣の動きが鈍かったのはお前の力のおかげか。ありがとう、助かった」
お礼を言われたのは初めてだった。
祈るだけしかできなかった自分も役に立てたと嬉しくなる。
「なぁ、このまま俺と契約しないか? 対価はいろんな所に連れて行って世界を見せてやる。飽きたら俺の所を去るなり、生まれ変わるなりすればいい」
神様からの申し出を断る理由はない。すぐに契約した。
しばらくそばにいると、この人は神様ではなく魔力持ちの人だと理解したが離れる気はなかった。
そして呪われているお嬢様と出会った。
「あ! じゃあ、甘酒ちゃんはどうかな? 男山の酒粕で作った甘酒は美味しいんだよね」
「…………」
前世を思い出している間に、まだおかしな事を言っていたので無視した。それよりもお嬢様の身体を癒す方を優先する。
毎日毎日お嬢様は怪我をする。
隣国の侵入者を追い返しているのだ。殺す方が簡単なのに、律義に生きたまま帰しているらしい。
「綺麗に治った。すごいね、ありがとう!」
傷を癒す事しかできない自分に何度もお礼を口にする。傷は癒せても疲労までは癒せない。それなのに笑顔で自分の世話をする。
今思えば、お嬢様のことが嫌いだったのは自由に身体を動かせない事へのただの八つ当たりだ。
そもそも精霊に名前をつけるなんて聞いたことがない。ご主人様だって「水の」「癒しの」と呼んでいた。
仕方ないのでお嬢様の記憶を見せてもらい『絵馬』という名前にしてもらった。
前世、偽物とはいえ巫女だった影響だろうか。神に願いを届けるという部分にとても惹かれた。
自分もお嬢様の願いを叶える存在になりたい。そう思った。
動きと言葉に不自由しなくなった頃、お嬢様のお世話をしたいと申し出てみた。それを『メイド』というらしい。
「エマ、おはよう」「エマ、エマ、一緒にごはん食べよう」「すごいね、エマ、もう文字が書けるんだ」「これエマが作ったの? ありがとう。嬉しい」「エマー、疲れたよー、お風呂に入ろうよ」「おやすみ、エマ」
お嬢様に名前を呼ばれる度に、胸の中が温かくなって顔がだらしなく緩む。
せっかくお嬢様が美人と絶賛する顔に作ってもらったのに。崩すわけにはいかない。
お嬢様は成長されると共に力の使い方が上手になり、怪我をする事も少なくなっていった。
小さい怪我ならば野良精霊が勝手に癒していく。
ご主人様と再会し守る必要もなくなってしまった。エマはこのままお嬢様のおそばにいていいのだろうか。
☆
「決められねぇ」
お嬢様からのクリスマスプレゼントのひとつである『なんでも言うこと聞く券』を手に、ご主人様が溜め息と共に呟いた。
恋文は額縁に入れて、念入りに防御結界と保存魔術を施し壁に飾っている。あの魔王陛下でさえ壊すのに時間がかかる厄介な代物になっているらしい。
毎朝眺めてニヤニヤしている姿はご主人様といえど少し気持ち悪い。口には出さないけれど。
お嬢様が知ったら恥ずかしさで卒倒するだろう。
「お嬢様のことですから、ご主人様のどのようなお願いでも喜んで受け入れると思いますよ」という言葉を飲み込み、お茶を出すだけにして部屋を出る。
部屋を出て少し歩いたところでお嬢様に声をかけられた。
「エマ! ディノさんのお願いの内容はわかった?」
「申し訳ございません。いまだ悩んでおられるようです」
「そっか。一日私の事を自由にできる券にしたほうがよかったかな」
全力で止めた。
「エマは? お願い決まった?」
「それは……」
お嬢様はエマ達精霊にも『なんでも言うこと聞く券』を下さった。
光の精霊サマーレモンは「みんなとお揃いのリボンが欲しいです」
闇の精霊ブラックココアは「ココアの髪はずっとセイラが結うのよ! 一生よ! え、いいの?」
火の精霊ハッピーピンクは「人型で一日中遊んでみたいなぁ!」
土の精霊キャラメルナッツは「試してみたい魔術があるのですが、その許可を頂きたいですわ」
風の精霊ナナカマドは「ふやん、やぁーん! ふぁん」(熊の体をもっとおっきく! カッコ良くしてほしい)
と、それぞれすでにお願いしている。
「エマの願いはただ一つでございます」
きっとお嬢様はみんなのお願いを笑顔で了承したように聞き届けてくれるはず。
「ずっとご主人様とお嬢様のおそばに居させてください」
「もちろんいいよ! そんなことでいいの? こっちからお願いしたいくらいなのに。エマ、ずっと一緒だよ、大好き」
その後、「俺以外に愛の告白をするなんてな、セイラ」とご主人様に強制連行されるお嬢様を見送った。
また胸が温かい。今日くらい顔が崩れてもいいかもしれない。
「…………えへへ」
エマもセイラ様の事が大好きだ。
終わり!
オマケ
光・闇・火・土の精霊の名前を決める時の話。
「無性にラーメン食べたいから、しょうゆ、みそ、しお、とんこつなんてどうかな?」
「却下です、お嬢様。全然お変わりありませんね」
「あおば、てんきん、さんとうか、さいじょう、ばいこうけん、はちや、くまっこ……」
「なんの呪文でしょうか?」
「ラーメン屋の名前」
「わかりました。お嬢様の好きな食べ物の名前を付けて構いません。ただし、可愛い名前にしてあげて下さい」
こうして期間限定のプリンの名前になった。
他の精霊紹介↓
光の精霊・サマーレモン
金髪ポニーテール。優しい。
前世は、とある国の孤児院の最年少。孤児院が魔獣に襲われた時、みんなに守られて最後に食べられた。その経験から今度は守る側になりたいと願う。クラゲに一番最初に入ったのは、セイラが傷だらけで助けたかったから。
闇の精霊・ブラックココア
黒髪ツインテール。ツンデレ。
前世は、とある国の貴族の娘だった。しかし愛人の子という事で本妻からひどい仕打ちを受け、魔獣溢れる森に置き去りにされ死亡。親に愛された記憶がないので、どうやって甘えればいいのかわからずツンデレに。
火の精霊・ハッピーピンク
桃髪ウェーブボブ。無邪気。
魔力暴走を危惧した両親に大量の魔力封じの枷をつけられ、自由に動けずほぼ軟禁状態。窓から外の景色を眺めて、思い切り遊びたいという思いが溢れ魔力暴走を引き起こし死亡。今は寂しくないし毎日楽しい。
土の精霊・キャラメルナッツ
茶髪ふわふわショートヘア。容赦がない。
とある国の王子の影武者兼護衛として育てられる。その国が魔獣により滅んだ時に一緒に死亡。
人型を作ってもらった時、女の子の身体で焦り女っぽくしようとお嬢様言葉になった。ピンクも元・男と言っていたのにすぐに馴染んだから羨ましい。
風の精霊・ナナカマド
基本は黄緑色の子熊。人型は女版ディノみたいな見た目。
過保護な父とヒラヒラドレスばかり着せようとしてくる母にうんざり。兄みたいな騎士になりたくて、一人で魔獣と対峙して魔力暴走を引き起こし死亡。
精霊として生まれたての弱い時にローガンに捕まり操られた。
死んだ事は自業自得と割り切っているが、家族がずっと気にしているので申し訳ないと思っている。




