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お父様そして

 ノックもしないでお父様のいる執務室のドアを蹴破った。

 勢いって大事。


 お父様は相変わらず執務室の大きな窓から外を眺めていた。

 今は葉巻を吸っていないのにこの異臭は何?

 ゆっくり振り返ったお父様の顔を初めてじっくりと見た。


 太っているけど青白い生気のない顔。

 こんな人だった? こんな人の命令を聞いていたの?


 でもお父様を目にした途端心臓がさらに痛くなる。

 長引かせると私がヤバいかも。


「セイラか」


 私を視界に入れた時のお父様は、お前が来たのか……とどこか落胆している様子だ。

 お父様も私の名前を知っている。


 せっかくあの人との再会の合図だったのに。


 お父様は大きくため息をこぼすと虚空を見つめた。


「魔力が強く呪いの強制力もだんだん薄くなり侵入する者をすべて壊せと命じても生きたまま返すし……やはりお前は失敗作だった」

「失敗作とは随分な言い草ね」


 やっぱり私に呪いをかけたのはお父様だったのね。

 顔は青白いくせに話し方はしっかりとしている。


「御前試合の前に呪いを重ねがけしたにも関わらず王妃に何もせず、ダメ押しであの少年にかけた呪いをお前に移しても魔王も殺さず戻ってくるとは嘆かわしい」

「私を選んだのがそもそもの間違いなのよ! 関係のない龍ノ助君まで巻き込んで!」


 王妃様を見た時、殺すことしか考えられなかったのは呪いが重ねがけされていたからだったんだ。

 あれか。「王妃を殺せ」って直接命令された時かな。気づかなかった。


 しかも、龍ノ助君から出てきたモヤが彼にかけられていた呪いだったとは。


 ますます怒りがこみ上げてくる。



「元々はあの少年の魂をこちらに呼ぶつもりだったのに何故かお前が来たのだ」


 私が龍ノ助君を突き飛ばしたから……。

 彼の代わりに私が死んでこっちの世界にやってきたんだ。


「前世持ちのようだからしばらく様子を見たが、こんな事になるのならさっさと殺してしまえばよかった!」


 お父様の語尾が徐々に強くなる。


「おかげで力が溜まらず御前試合に合わせてあの少年の魂だけを呼んだつもりが今度は体と一緒に来てしまうし、お前のせいで何もかも台無しだ!!」

「いっ?! ()ぅ!」


 突然心臓が鷲掴みされたように重い痛みが全身に広がる。

 息がうまく吸えない。


「はっ……あ、ああ、うぅ」


 立っていられなくなり心臓の上の服を握りしめてうずくまる。


「わしがただペラペラと話していただけだと思うなよ! お前にもう一度強力な呪を施し今度こそ魔王を始末してやる!」

「な……で、娘を王妃にするんじゃ、なかった……の?」


 足元に魔術陣が浮かび上がる。

 なんとか立ち上がりながらお父様の意識を逸らそうと話しかけた。


「娘を選ばぬ魔王などいらぬ! わしが魔王になって娘を幸せにするんだ!!」


 ぶちっ。

 私の中で何かがキレた。


 私だって一応お父様の娘なのに。いや、それよりもそこまで娘を思うなら、魔王とか関係なく他の方法で娘を幸せにしてあげなよ!!


 なんか腹立つ!


「あーもうそんなの知るか!! やるなら自分でやれ! 巻き込むな!」

「ぐぶうっ!」


 ありったけの力を込めてお父様の顔を殴りつける。

 元々太っていた顔がさらに歪んだが自業自得。


 お父様が気絶したからか魔術陣もゆっくり消えていく。


「よし、お父様が目を覚ましたら呪いを解かせよう。最初からこう、すれば……よかっ」


 立ちくらみに似た全身の血が一気に引く感覚。

 前世の死ぬ直前のふわふわとした痺れているような膨らんでいるような。熱くて冷たい。あの感じに似てる。


 足元を見れば血溜まりが出来てた。

 あれ? この血……私の?


 目の前が真っ暗になり私はそのまま意識を手放した。





 ◇




 あったかい。

 誰かに抱きしめられている。トクトクと聞こえる相手の心臓の音が心地いい。


 この温もりは知っている。

 あの人の温かさ。


 ああ、来てくれくれたんだね。


 愛しのあの人。





「セイラ…………起きろ。セイラ」


 誰かが私を呼んでる。誰?

 あ、でも私の名前を知っている人は敵……なんだよね。


 攻撃しなきゃ。


 力が入らなくて目の前の顔に手を押し付けただけになってしまった。


「寝ぼけているのか?」

「ぁ、でぃの……さ、けほっ」


 言葉が上手く喋れない。

 だんだんクリアになっていく視界に入ってきたのは、私に手を押し付けられてちょっとマヌケな顔になっているディノさんだった。


 ひょっとこに似てる。


 変な顔になっているけれど、ディノさんの顔は変わらず綺麗だなぁ。

 こんな至近距離で見たのなんて騎士団の詰所から出て、顔を覗き込まれた時みたい。


 満天の星空のようなネイビーブルーの瞳。

 こんなに近くで見られるなんていい夢。


 押し付けた手でディノさんの頬を撫でながら「ふふふ」と声を漏らす。


「やっぱり寝ぼけているな。ちゃんと起きないと抓るぞ」

「ふぇ?」


 そう言って頬を撫でていた私の手を取り手の甲に口付けた。

 大袈裟なリップ音と共に。抓ってないじゃん。


 一気に覚醒した。


 自分の今の状況を確認したら、ディノさんの膝の上で頭を彼の肩に預け、横抱きで抱きしめられていた。

 なぜに?


 くつくつと笑い声が聞こえ声のした方を見ると、長い黒髪に金目の男の人が立っていた。

 よく見れば黒髪ではなく陽の光に透け美しい紫色の髪だ。

 その瞳は楽しそうに細められている。

 目がキラキラ光っているんだけど。夜中に見る猫の目みたい。


 この人どこかで見たことあるな。そうそう御前試合で始まりの挨拶をしていた魔王陛下に似てるー。

 って魔王陛下じゃん!!


「まお……へ、か」


 なんで魔王陛下がここに?!


「ああ、無理して話さなくていいよ。君、ちょっと死んでたからね」


 死んでたとか軽く言わないで?!



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