【おまけ3】 メルザとテラバス(既婚)、お出かけす
(作中で)
何があったかの詳しい説明ははしょってるので、
ご了承ください
本文をお読みください
朝、テラバスは庭先のポストへ向かった。
結婚して1年、妻のエリアはリンカの世話で忙しそうなので、目覚ましがてら朝の空気を吸いに来たのだ。
いつもは請求書やらチラシやらしか入っていないので、今日も大したものは無いだろうと思い、ダラダラしながら中を見る。
しかしこの日は、四ツ折りの白い紙1枚という今までにないものがポストに投函されていた。
封筒に入っていなければ、宛名も住所もない……誰かが直接入れたようで、テラバスは不審に思いながらも紙を開いた。
━━拝啓テラバス様。
3日後、12時に4番街噴水広場に集合!
手紙の内容はそれだけで、テラバスはそのまま下の、この手紙を入れた張本人の名前を見て……瞠目した。
━━貴方のお姉ちゃんより。
手紙を持つ手が、わずかに震える。
差出人はお姉ちゃんであった。
◇
「……と、いうわけで行くつもりではあるんだけど……」
家に来た幼馴染夫婦、スライプとシャロラインにその事を話すと、1人は眦を吊り上げ、1人は呆れて肩を落とした。
「このバカ!」
「このお人好し……」
声音は違えど、2人は同時に似たような事をテラバスへ言い放った。
「お前……あんな事に巻き込まれてるのに、何で懲りてないの!?」
あんな事とは……以前、テラバスがメルザから受けた仕打ち。
彼の幸福を妬んだ彼女が、かつての自分と同じ奴隷にするべく、テラバスを拉致監禁した事件である。
メルザの身勝手な行動で、テラバスは心身共に傷を負い、スライプは手足を潰された。
まさか、その痛みと苦しみを忘れた訳ではあるまい……スライプは信じられない思いで叫んだ。
「テラバス……今回ばかりは私もどうかと思う」
シャロラインも、腕を組み鋭い眼光を向けている。
今回はスライプの味方のようであった。
「別に、会っても大丈夫なんだろ?」
「悪縁は切ったけど、奴の性根は直してないよ」
過去は消せなくても、テラバスへの妬み……執着という名の悪縁は、スライプが魔法を使いその手で切断した。
しかし、性格や嗜好はどうにもならない。もし、メルザが更なる加虐嗜好に目覚めているのなら、せっかくのスライプの縁切りも無意味となる。
のこのこ現れたのをいいことに、再び囚われてしまう可能性も捨てきれないのだ。
「第一、エリアには説明したのか?」
今度は、シャロラインがテラバスを責める。
現在テラバスは妻子ある身……以前と事情は全く異なるのだ。
「とりあえずメルザの事は話して、納得はしてもらった」
エリアには拉致被害の事は言わず、幼少期の孤児院での事と、男女の関係は無く、現在はただの姉と弟という繋がりがあるという事は説明した。
エリアは理解はしていながらも、釈然としない面持ちだったという。
それを聞いたスライプはそりゃそうだ、とため息をついた。
「エリア、絶対いい気はしてないんだから、あとでちゃんと埋め合わせしてあげなよ。それと、行くのは勝手だけど、何かあっても僕は助けに行かないからね。そのまま奴隷にでもメスブタにでもなってこい!」
自己責任だバカ! と言い、本当にその気が無いのかスライプはしっしっ、と追い払うように手を振った。
◇
そして3日後、4番街噴水広場━━
「来たわね!」
ドン! とメルザが仁王立ちで、テラバスの到着を待ち構えていた。
葵色の長髪を結び、ニットとスカートという軽い服装をしている。対するテラバスは赤黒い色のロングジャケットを羽織っていた。
「メルザ……」
テラバスはゆっくり、目の前の人物を受け入れるように名を呟く。
久しぶりの再会だが、嬉しさよりも未だ用件が分からぬ困惑の方が強かったので、どこか怪しんでいるような声音になってしまった。
「待たせたみたいだな。てか何で4番街なんだ?」
3番街から4番街へは徒歩で約1時間、乗り合い馬車で約30分かかる。隣町とはいえ移動は大変なのである。
「3番街だとあらぬ噂立てられるでしょ? 私はどうでもいいけど、あんたが困るでしょうが」
場所指定も、彼女なりに気を使った結果らしい。
「それで、オレを呼んだ用件は何だ?」
「その前に、これをつけて」
手渡されたのは、長い鎖に繋がった首輪。
「……は?」
全くもって訳が分からず、困惑しながらテラバスが顔を上げると、とても嬉しそうな表情をしているメルザと目が合った。
「私ね……」
メルザは頬に手をあて、うっとりと邪悪に微笑んだ。
「私ね、誰かに首輪をつけて町中を歩くのが夢だったの。だから……ね……?」
「……っ」
━━ゾッとした。
まさか、と思いテラバスは冷や汗をかく。
スライプの言う通り、性格は変わらずむしろ歪みきっていたのかと、恐れで目を見開いた。
畏怖に満ちた表情のテラバスを見て、メルザはいたずらっぽく笑った。
「なーんてね」
唐突に首輪をポイっと投げ捨てた。
鎖も、じゃらりと音を立てて地面に落ちる。
「冗談よ。もうそんな事しないわ」
「……冗談には見えなかったけど……」
「私の演技が迫真過ぎたのね。ごめんごめん」
笑いながら先を歩く。
その後を、テラバスは安堵のため息をつきながら追った。
「実は私、4番街に越してきてアルバイトしてるの。……怪しいものじゃなく、ちゃんとしたバイトよ。お給料ももらえるようになって、生活に少し余裕が出来たから、お礼と謝罪を兼ねてあんたをご飯に連れて行こうって思っただけよ」
メルザは歩きながら、呼び立てた用件を明かした。
正直、テラバスは驚愕していた。
アルバイトをして自立していたのも驚きだし、てっきりサラスティバルのもとで……王都に住んでいるものとばかり思っていたので、4番街に居を移していたのも驚きだった。
「あのババアはどうしてんだ?」
「最近会ってないから分からないけど、サラスティバル様は今も生きてるわ」
「ほんと……不死身か……」
スライプが知ったら怒りだしそうだな、と思っていると、メルザが声を張り上げた。
「あ! ここよ、ここ」
メルザは、1軒のレストランを指差した。
何でもここは4番街でも穴場的なレストランらしく、メルザ自身も気に入っている場所だという。
彼女の先導で店内に入り、従業員に席を案内してもらう。レースカーテンでほどよく遮られた日差しが心地いい、窓際の席へ通された。
「さ、テラバス。好きなもの頼んでちょうだい」
「お、何でもいいのか?」
「もちろん! お姉ちゃんですもの!」
胸を張るメルザ。対するテラバスは、遠慮無く好きなものを食わせてもらおうとメニュー表へ手を伸ばした。
◇
レストランでの食事を終えて、集合場所であった噴水広場まで戻ってきたメルザとテラバス。
「今日は来てくれてありがとう。その……色んな事しちゃったから、来てくれないかと思ってたの」
「オレも、元気そうな姿見れてよかった」
『会えて嬉しかった』とは言わなかった。
食事中の会話で察したが、これは再会に喜ぶものでは無い。これはメルザ自身の、贖罪と決別のための逢瀬であった。
「それじゃ、ここで解散。さっさと帰んなさいよ」
そう言ってメルザはテラバスへ背を向ける。
素っ気なく、何事もなく、終わっていくメルザとの再会。
テラバスはここに来てようやく、本当に食事に誘っただけなのだと実感した。
「メルザ!」
テラバスは、遠くへ離れていく背中へ叫んだ。気付いたメルザはゆっくり振り返る。
別れる前に、彼女へ聞いておきたい事があった。
「メルザは今……幸せか?」
過去から解放されたのか、罪の意識に囚われていないか……聞きたい事はたくさんあるが、思いはこの1つの疑問に集約されている。
しばらく時間がたち、メルザが答えた。
「ええ。あんたが、そう願ってくれたからね」
穏やかな表情で語るメルザに、テラバスは目を見開いた。
かつて、怒り狂ったスライプがメルザを殺そうとした時、生きて幸せになってほしいから殺すなと懇願した事があった。
テラバスの持つ『生存願望』
そう言った通り、そう願った通りにメルザは自分の足で人生を歩み始めていたのだ。
「じゃあねテラバス。どうか、どうか奥さんと仲良く……元気でね!」
メルザは「またね」とは言わず、もう2度と会わないと決意した悲しそうな笑顔で手を振っていた。
それに応えるようテラバスは手を振り返し、家族……エリアとリンカが待つ3番街へ帰る帰路へついた。
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