12話 潜入 4 ~闇の道のり~
現在位置は、地上から3階分降りた地下3階であり、その地下3階の入り口近くで1人の首吊り体を発見した。
そして、首吊り体がある部屋の奥……闇の中から、じゃらじゃらと金属製の何かを引きずる音が不気味にこだましていた。
音は聞こえてくるが、近づいてくる気配は無い。
おそらく、金属製の何かで繋がれているのだろう。
「……シャロ、僕の予想だと魔薬に侵された魔獣どもだと思うけど、どうかな?」
その正体について、スライプは確信めいた笑みを浮かべ、わざとらしく聞いた。
「私もそうだと思うよ。…………まだお楽しみは残ってるようだな」
もしシャロラインに呼吸というものがあったなら、間違いなく大きなため息をついていただろう。
それでもスライプがまだ平常心なのが救いであった。
獣であるのは確定とはいえ、それが何体いるのか、どのくらいの大きさなのか、もし危機に陥ったら血路を開ける位置に立てるのか、ある程度相談してから敵陣に入る必要がある。
それが暗く、周囲の状況をまともに見れない場所であるなら尚更必要不可欠になる。
平常時のスライプならあれこれ話し合いが出来るのだが、戦闘モードになってしまうと言い聞かせるのに時間がかかり、最終的に各自判断、各個撃破の雑な作戦になってしまうのだ。
「んじゃ行くか。せめてもう少し明かりが欲しいけど、もう目が慣れてきた頃でしょ」
うきうきしながら音のする方向へ歩きだすスライプ。その背中をシャロラインは慌てて呼び止めた。
「いやちょっと待て。作戦は! 指示はどうした!?」
作戦をたてる大切さはスライプも分かっているはず……。
シャロラインは行こうとする背中に指示を仰いだ。
呼び止められたスライプはきょとんとした、不思議そうな表情で振り返った。
「ただの獣を倒すのに作戦がいるの? 戦争じゃないんだから、細かい作戦はいらないいらない。……しいて言うなら暗いからって味方を殴らないように……かな」
いたずらっぽく笑いながら、足音をたて闇に向かい歩き始めた。
「あー! もうっ!」
飄々と立ち去るスライプを見て、どうしようもない感情に飲まれながらシャロラインは絶叫し、スライプの後を追いかけた。
◇
足元を照らしながら、2人並んで歩いていく。
進むにつれ金属音が大きくなっていくことから、着々とその地が近付いている事を感じていた。
そして、大きな変化が2人の目に映った。
「ちょっと……明るくなってきてるようだね」
ここまで来る道中一貫して暗かった道が、この地下3階の一部分のみ電気が通っており、ほんの少しだが明るくなっている。
小さく、わずかな光源だが懐中電灯のみでの移動をしていた2人にとっては十分過ぎる光であった。
「ここでなら、戦闘は問題無い……かな」
万全な環境ではないが、戦闘中懐中電灯を使うということは無さそうだ。よって両手が使えるので存分に暴れ回る事が出来る。
「ここだけは電気が通ってるのか」
「何でかは知らないけど、ここで獣を飼ってるという事は分かってるみたいだね」
でなければ廃墟の工房に電気は通さない、と続けながらスライプは闇を睨み付けた。
「…………ますます怪しくなってきたな。エルジーナといい結界といい……。随分と何か隠したがってるみたいだけど、コレの事だったのかな」
とにかく工房に向かう事を止めたがっていたエルジーナと、工房に頑丈に張られていた結界。
「……帰ったら、聞いてみるか?」
「いいや。依頼内容に入っていないし。……それにそんな気分じゃない」
今までの事を考えると、エルジーナとこの工房が何かしらの繋がりがあると考えるのは妥当だが、その事を本人に問いただす気分にはなれなかった。
それから黙々と歩いていくと、天井の明かりの数が多くなってきた。
「随分明るくなってきたね。そろそろ懐中電灯いらないんじゃないか?」
スライプは天井を仰ぎながら懐中電灯の消灯を促した。
スイッチを押す音と共に懐中電灯の明かりが消え、一時的に暗く感じたが、時がたつにつれその違和感も消えていく。
そして━━━━━━━━
「おお! 大きい扉だなー!」
まるで城塞のような門構えの、重厚な鉄の大扉がスライプとシャロラインの前に立ち塞がった。
その扉の奥からは、すぐ近くでじゃらじゃらと金属製品を引きずる音が聞こえてきていた。
開けた先に望んだ獲物がいることは間違いなかった。
「すげぇ重そうだな。……ここまでの設備を必要とする獣かぁ。楽しみだなシャロ。」
楽しそうにキラキラした笑顔を見せるスライプ。
「笑うな無駄にキラキラするなこっち見んな。ただ━━」
問題はここが開けられるのかである。
両開きの鉄扉は、人間では開けられそうもないくらいの重さであることが見て取れる。
試しにスライプが鉄扉についている円環を軽く押したり引いたりしてみたが、びくともしなかった。
━━━━ただし人間では、である。
「シャロ、頼んだよー」
「……やるけど、お前も少しは手伝え」
結界やら魔法やらの小細工はシャロラインには分からないが、単純な怪力勝負ならアンドロイドであるシャロラインの得意分野である。
「ほいじゃ、開けるぞ」
シャロラインが鉄扉の上に手を置き、押し込めるよう前に力をかける。
両開きの扉が少しずつ開き始めるが、ある位置で止まりそれ以上開く事が出来なくなってしまった。
しばらくその状態で鉄扉と対峙し続けたシャロラインだが、らちが明かないと思ったのか。
「…………スライプ、ちょっと」
「はいよ」
ちょいちょいと、手で招きながらスライプを呼ぶ。
力添えを催促されたスライプも、本腰を入れ両手を扉に当てた。
シャロラインが両側同時に、スライプが片側の扉を押し、再度開放を試みた。
格闘すること数分、2人がかりで全身全霊の力を込め続けた扉は動きはじめ、その勢いで思い切り扉を開け放した。




