11話 潜入 3 ~地下の地下の地下~
シャロラインの活躍で地下室への扉を発見し、シャロラインのせいで工房内に埃が蔓延した数分後、ようやく埃が床に落ち始めた。
その様子を外から見ていた2人はほっと胸を撫で下ろすと、ガラス片の踏み潰し本棚を乗り越えながら、再び工房内へ足を踏み入れた。
そして、扉の前で立ち止まる。
「スライプ、大丈夫そうか?」
不安そうなシャロラインに対しスライプは力強く頷いてみせた。
まだ息苦しさはあるが、先程のように我慢出来ないほどではなかったので、このまま地下室へ入ってしまおうと戸に手をかけた。
扉を横にスライドさせると、すぐに下り階段が見えた。
日の光が入ってこないので更に薄暗く、光源無しでの移動は危険だと感じる程であった。
「シャロ、懐中電灯……オン!」
「了解!」
こんなこともあろうかと、シャロラインはあらかじめ自宅から懐中電灯を持ってきていた。
カチッという音の後、一筋の光が周囲を明るく照らす。
下り階段は10段ほどと短く、その先に扉があるのが見えた。
そこが、人を狂わせる魔薬を製造しアンドロイドを実験に利用する現場である実験場であると確信した。
「おお……、何かダンジョンって感じだな……」
「すっげぇ浅いダンジョンだけどな。さて、中はどうなってる事やら……。シャロ、足滑らせるなよ」
懐中電灯で足元を照らしながら階段を下りていく。程なくして2枚目の扉の前に着き、スライプは錆び付きなかなか開かない扉を蹴飛ばし無理矢理開けた。
鉄製の薄い扉を蹴破る衝撃音が響く。
「んなっ!?」
スライプはその光景に愕然とした。
その中は何もない、だだっ広い空間が広がっているだけだったのだ。
物1つない、ただの箱のような部屋に1歩踏み入れる。
「何も……ない……。どういう事だ? こっちの道はハズレってことか?」
その疑問は、周囲を見渡してすぐに解決した。
「いや、あるぞ。……続きがな」
シャロラインが、その方向を照らし示す。
扉の前に立つ2人から見て右の壁に、更に下へ続く階段があった。
靴音を響かせながら階段へ近付くと、こちらも10段ほどの短い階段であった。
「とりあえず行ってみよう。次で見つかるかもしれないし」
シャロラインはこくりと頷くと、スライプの後に続き階段を降りた。
階段を降りた先に扉はなくそのまま入っていくが、その先も何もない部屋であり、ただ広い箱のような空間であった。
「と、いうことは……」
「ああ、まだまだ下のようだな」
シャロラインが手にした懐中電灯で壁を照らし出す。
2人の予想通り、更に下へ続く階段が見えた。
「うへぇ、もっと下があるのか」
ホントにダンジョンみたいだ、とスライプはげんなりして肩を落とした。
「でも、どうする。今度は階段が右と左にあるぞ」
シャロラインが指摘した通り、階段を背にした2人から見て左右の壁に階段があった。
どちらも同じ段数、大きさであり、見た目による大きな違いは無い。
「……右に行こう。帰るときは左に曲がれば戻れるようにね。そうすれば迷わずに出ることが出来る」
これからもし分岐点があったら右に曲がろう、と続けてから右の階段を降りた。
薄暗い地下室で2人の靴音が響く。
降りた先は1枚扉のある部屋であった。
開けようとするも、普通以上に歪み開けにくくなったドアは固く、シャロラインが殴り、スライプが蹴り、体当たりをしてこじ開けた。
そして開けた先にあったのは、ゆらりと何か細長いものが浮いている光景だった。
━━━━否、浮いているのではなく、吊るされていた。
天井から紐で吊るされ、静かに宙ぶらりんになっている。
それが、ヒトだと分かるのに数秒とかからなかった。2人は驚きはしたが、それ以上の反応はしなかった。動揺をせずすぐに吊るされた死体へ近付き、身元を調べる。
死体の正体が失踪者のジュークである可能性が高い。が、万が一ということもあるので、写真と照らし合わせるぐらいはしておくことにした。
「んー、シャロ、分かるか?」
「正直、顔からは何も分からない。でも耳の形が似てるからそうなんじゃない?」
しかし、光源が懐中電灯のみであるという事と、死亡してから時間がたっているのか顔の特徴はあまり掴めなかった事で、正確には分からずじまいとなった。
「……とりあえず、この死体は警備兵へ引き渡すとして……。失踪者ジューク・シーリンクは仮発見。後は魔薬を探す」
首吊りの遺体に気を取られていたが、今いる場所は相当広い。奥の方へ行けば魔薬の何かしらが見つかるかもしれない。
スライプが踵を返し奥へ進もうとすると。
━━━━━━━━…………。
金属を引きずるような音が、静かな地下室で響いた。
それも1つではない。
数多の、無数の甲高い音がこだましている。
スライプとシャロラインは突如聞こえてきた音に警戒し周囲を見渡す。が、特に変化は見えず、不気味な音だけを聞いている状態であった。
「…………スライプ」
「ああ、これは…………」
スライプは思い出していた。
ここに来る前、シャロラインに初めてこの依頼の話をしたときの事。
“そういう奴らって大体魔獣とか合成獣キメラとか凶暴なの飼ってるじゃん。……それをブチ殺すんだよ!”
スライプはふぅ、と息を吐いた。
「ようやく、おでましだな」
ここに来る前から期待していた、1つの可能性。
“音”の正体はきっとこの先。
はるか奥の闇を睨みながら、スライプは心底楽しそうに微笑んだ。




