-31- 『怖かった再会』
ふーくんが来る。どんな顔して会えばいいだろう。
そもそも、ウチの顔を覚えているだろうか。
考えれば考えるほどに、緊張して、もう駅の近くについているのに、用事で遅れると嘘をついてまで、心の準備に時間をかけた。
大丈夫。あんなに連絡取りあってるんだもん。
ウチは意を決して、わざとらしく自転車を漕ぎ、駅へと向かう。
「ふーくぅ~ん! お迎えだよぉ~~!」
大声でそう呼びかけると、駅から一人の男の子が出てくる。
あれだ。一目でわかった。
彼の雰囲気は、変わっていなかった。
ウチは嬉しくなってもう一回呼んだ。
「あ、ふーくん! お~い!」
「転ぶぞ~~」
「だいじょお~ぶっ!」
少し前のめりになりつつも、平衡を保ち、駐輪所に自転車を置いて、駆け寄った。
ふーくんの前で、ウチは、いつものウチでなくちゃいけない。
「「……」」
向かい合ったけれど、言葉が思うように出ない。
あれ、おかしいな。さっきまであんなに練習してたのに。
「久しぶり、だな」
言葉を選んでいると、ふーくんが先にそう言ってきた。
よかった。憶えていてくれた。
「……うん! ふーくん、背、伸びた?」
「あの頃から比べたら、誰でも伸びているだろ」
「そ、そうだね。あはは……は……」
ばかばかばか! せっかく会えたのに、何言ってるのよ!
そ、そうだ!
「ふーくん。その……待たせちゃった?」
「随分と、な。おかげで一冊読み切った」
「……わぁ! 読書、続けてたんだね!」
「続けていたというよりは、これが唯一の趣味だからな」
バッグから取り出した文庫本を見て、思わず笑ってしまった。
この趣味は、昔からだったなぁ……。
よし。なんだか、緊張も解けてきたかも。
「な、なんだ、どうした」
「やっぱり、ふーくんだなぁ。――って思ってたの」
あれ。なんか、意味伝わってないかな……。まあ、いいや。
「おかえり。ふーくん」
「……一時的だけど、ただいま、かな」
再びこうして、この町で笑い合えたことが、こんなにも嬉しいものとは思わなかった。
ふーくんがやって来て、その日のウチは、嬉しくて部屋まで押しかけてしまった。
「どうした。忘れ物か?」
部屋に戻る際、ウチは一つ言いたいことがあった。でも、少し恥ずかしい。
「違うよ~。……えと、おやすみ。ふーくん」
「……ああ、おやすみ」
「ふふっ。これも五年ぶりだね」
「そうだな」
「また、明日ね」
これも、久しぶりだ。
「ああ」
部屋を出て、ウチの心拍数は跳ね上がっていた。
「……おやすみ」
聞こえないような声でそう言ってから、自分の部屋に戻った。




