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One's Summer  作者: 新増レン
六章「駒羽田菜有」
32/41

-31- 『怖かった再会』


 ふーくんが来る。どんな顔して会えばいいだろう。

 そもそも、ウチの顔を覚えているだろうか。


 考えれば考えるほどに、緊張して、もう駅の近くについているのに、用事で遅れると嘘をついてまで、心の準備に時間をかけた。

 大丈夫。あんなに連絡取りあってるんだもん。

 ウチは意を決して、わざとらしく自転車を漕ぎ、駅へと向かう。


「ふーくぅ~ん! お迎えだよぉ~~!」


 大声でそう呼びかけると、駅から一人の男の子が出てくる。

 あれだ。一目でわかった。

 彼の雰囲気は、変わっていなかった。

 ウチは嬉しくなってもう一回呼んだ。


「あ、ふーくん! お~い!」


「転ぶぞ~~」

「だいじょお~ぶっ!」

 少し前のめりになりつつも、平衡を保ち、駐輪所に自転車を置いて、駆け寄った。

 ふーくんの前で、ウチは、いつものウチでなくちゃいけない。


「「……」」


 向かい合ったけれど、言葉が思うように出ない。

 あれ、おかしいな。さっきまであんなに練習してたのに。

「久しぶり、だな」

 言葉を選んでいると、ふーくんが先にそう言ってきた。

 よかった。憶えていてくれた。

「……うん! ふーくん、背、伸びた?」

「あの頃から比べたら、誰でも伸びているだろ」

「そ、そうだね。あはは……は……」

 ばかばかばか! せっかく会えたのに、何言ってるのよ!

 そ、そうだ!

「ふーくん。その……待たせちゃった?」

「随分と、な。おかげで一冊読み切った」

「……わぁ! 読書、続けてたんだね!」

「続けていたというよりは、これが唯一の趣味だからな」

 バッグから取り出した文庫本を見て、思わず笑ってしまった。

 この趣味は、昔からだったなぁ……。

 よし。なんだか、緊張も解けてきたかも。

「な、なんだ、どうした」

「やっぱり、ふーくんだなぁ。――って思ってたの」

 あれ。なんか、意味伝わってないかな……。まあ、いいや。

「おかえり。ふーくん」

「……一時的だけど、ただいま、かな」

 再びこうして、この町で笑い合えたことが、こんなにも嬉しいものとは思わなかった。



 ふーくんがやって来て、その日のウチは、嬉しくて部屋まで押しかけてしまった。

「どうした。忘れ物か?」

 部屋に戻る際、ウチは一つ言いたいことがあった。でも、少し恥ずかしい。

「違うよ~。……えと、おやすみ。ふーくん」

「……ああ、おやすみ」

「ふふっ。これも五年ぶりだね」

「そうだな」

「また、明日ね」

 これも、久しぶりだ。

「ああ」

 部屋を出て、ウチの心拍数は跳ね上がっていた。


「……おやすみ」


 聞こえないような声でそう言ってから、自分の部屋に戻った。


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