-21- 『楽しいキャンプ』
曇り空のまま、テントの設営を終えて四人で何をするでもなく一つのテントに集まっていた。
「これじゃあ、いつもと変わらないねぇ」
菜有の見解には、俺も頷いた。
しかし、いつ雨が降るかわからない外で遊ぶよりもテントの中にいた方が安全だと判断した結果だ。
その判断は間違っていなかったらしい。
しばらくすると、テントの上にポツリポツリと音が響く。
「あ~あ、降っちゃったねぇ」
「わかっていたことだが、いよいよキャンプらしいことも出来そうにないな」
「ふっふっふ。甘いね、楓馬」
ようやく回復した男が不敵な笑い声を発している。その手に持っていたのは、缶詰だ。
「缶けりでもする気か?」
「今日は疲れたから、晩御飯にしようってことだよ」
「……することもないから、そうするか」
皆同意で、俺達は早い夕食をとることにした。
パカァッ!
実に気持ちの良い音がテント中に響いていく。雨が降った時の為に缶詰を持ってきておいてよかった。
「おいし~」
「これ、よかったら食べて?」
咲楽はリュックサックから重箱を取り出す。中にはおにぎりが敷き詰まっていた。
「これ、咲楽が作ったのか?」
「そうよ。ほら、馬鹿も食べなさい」
「むぐ?」
もはや、モテモテ善治君はどこへやら。缶詰に食らいついているこの状況を見れば、こいつに惚れこんでいる女子は愕然とするだろうな。
「これ、咲楽ちゃ――さ、咲楽が作ったの?」
「そう言ったわよ」
「いっただきま~す」
「ほら、菜有も」
「うん。ふーくんも食べよ?」
「ああ」
缶詰とおにぎりだけだが、この四人で集まって食事するのは久しぶりだな。
「ふふ」
「なによ楓馬、気持ち悪い笑い方して」
「いや。何だか、懐かしくてさ。こうやって大勢で食べるの」
「そうだね。ウチも楽しい。ふーくんとゼンくんとさっちゃん、みんなと一緒にご飯食べると、いつもより美味しく感じてる」
菜有は満面の笑みでご飯粒をほっぺに付けている。こないだの仕返しをしようと思ったが、視線が気になるのでやめた。
「来てよかったね」
「ああ」
「ふふ。ふーくんも楽しそうでなによりだよ」
こいつも、どこか気を遣っているのだろうか。
しかし、その笑顔を見れば安心できた。
あの告白の答えも、すぐそばに近づいているのかもしれないな。




