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One's Summer  作者: 新増レン
四章「寄せ集めのカッコよさ」
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-22- 『迷いの中に』

 キャンプ場に到着してからというものの、雨が止む気配もなく、俺達は寝ることにした。

 男子と女子に分かれてテントを使うことになり、俺は善治と寝袋を並べている。

 視線の先には、テントの天井しか見えない。聞こえるのは、すぐそばに聞こえる雨音だ。


「なぁ、善治ぜんじ

「ん? なに?」

 俺は、ここで善治と話がしたかった。ようやく、二人で話ができる。

「この五年で、変わったな、お前」

「……まあね。いつまでも楓馬ふうまの後ろに隠れてるようじゃ、駄目でしょ。今思い返すと、あの頃の僕は、全然駄目だった。いつまでも楓馬がいてくれるような気がしていて、その背中に隠れていればいいと思ってたからね」

「すまない」

「楓馬が謝ることじゃないさ。でも、楓馬がいなきゃ、僕が変われなかったのも事実だ」

「どういうことだ?」


「僕、中学校でちょっとした仲間外れに遭ったんだ」


「――!? そんなの、聞いてないぞ」

「そうだよ。あの二人は知らない。これは、男子の仲間割れみたいなもんだからね」

 あの学校は、生徒数も少ないから、中学高校もほとんど顔見知りばかりだ。名前を言えば連想できるが、善治は名前を伏せている。

 どうやら、善治が他の連中と上手くやっていけなかったことが原因らしい。

「それで、お前は自らを変えようとしたのか?」

「……違うね。正確に言えば、変わったんじゃない、ただモノマネが上手くなっただけ」

「モノマネ?」

「そう。僕は、ずっと見てきた背中の主になりきろうとしたんだ」

「それって……」

「楓馬のことだよ。楓馬になりきったら、仲間割れなんかどうでもよくなって、大成功」

 咲楽は千歳になりたくて、善治は俺になりきろうとした?

 俺達はそんなスーパースターでもないんだけどな……。

「どうして、俺なんか……」

「簡単さ。僕がカッコいいと思っていたから。それだけだよ」

「カッコいい? 俺が? ……褒めても何も出ないぞ」

「あ、言っておくけど、外見じゃないよ?」


 ……なんだよ、それ。期待したじゃないか。


「けれど、僕が手にしたのは楓馬のカッコよさとは違う、寄せ集めのカッコよさだよ」

「?」

「服装で自分と他人を騙して、一匹狼を気取ってクレバーに振舞う。外見とかはカッコよくなれても、内面が磨けたとは思えないんだ」

「満足、してないのか?」

「してないね。僕は、僕だけの魅力が欲しいんだ。今度は、僕自身の」

 ふうん。

「随分と野心家になったな。お前」

「そう見える?」

「ああ。でも俺は、女の子にモテるだけで十分だと思うけどな」

 正直、羨ましい。

「十分じゃないよ。それが目的じゃないからね」

 立派なことを言うようになったもんだ。まったく。

「これから、カッコよくなろうとしてるのか?」

「まあ、そうだね」

「……具体的には?」

「知りたい?」

「教えたくないならいいけど」

「そこはもう少し粘ろうよ、楓馬」

「じゃあ、教えろ」

「強引だなぁ……まあ、いいけど。……僕、都会に行ってみたいんだ」

「……こないだ言ってたことと違うな」

「あの時は、再会まもなくなんだし言い辛いよ、普通」

「そうか。それで、都会へ行って何する気だ? 店を構えるのだけはよした方がいいぞ」

「そんな危ない橋、渡らないって。都会の大学へ行くよ。目的は、ただそこに行ってみたいだけだからね」

 そんなんで都会へ行こうなんて、どこの冒険者だ。

「やめとけ。人混みにもまれて圧死するぞ」

「そんなニュース見たことないけど?」

「……」

「でもまあ、親にも反対されてるから、正直、迷ってるんだよね」

「行くだけが目的なのか?」

「そうだけど、本当は、自分を見つけに行きたいんだと思う」

 急に旅人のセリフを吐いたぞ、こいつ。

「自分探しの旅に都会へ行くって、おかしいと思うぞ」

「やっぱり? でも、本当にそうだから言い訳のしようがない」


 つまりこうだろう。

 先ほど言っていた自分の魅力。

 それを見つけに行きたい。

 でも、それが本当にある保証はどこにもない。

 ましてや、都会に転がっている保証も。

 理由はきっと、他にある。

 こいつは、こんな風になっても、それくらい考えるはずだ。


「本当は、家業から逃げたいだけ、何じゃないのか?」

「――!」


 ビンゴだ。

 外見を変えても、中身まではそう簡単に変われない。

 善治の奥底。そこにはまだ、臆病で気の弱い、泣き虫なアイツがいる。

 咲楽は、変わろうとしても変われなかった。善治は、変わっても変わりきれてなかった。

 人は、きっと簡単には変われない。俺も、きっとそうだ。

 でも――ここで善治が逃げてしまえば、もう、こいつはカッコよくなれない。

 カッコよさを求めて逃げて、カッコよさを手放すことになるだろう。

 都会へ行くというのも、きっと、世間体的には風来坊のような、破天荒のような、そんな一種のカッコよさが存在するからかもしれない。


「……目的が無いなら、そんなことはやめろ」

「目的は――」

「いま、ここで逃げたら、お前はカッコ悪いままだ。その、偽物の殻を被ったままだ」

「それは……」

 善治も迷っている。選択権はこいつにある。

「本当に目的があるなら、俺はお前の要望を後押しできるが、そうでないのなら、引き止めてやりたい。俺達は、友達だからな」


「……友達か。よく言うよ。五年間も離れていて」


「離れていた時間は取り戻せないけど、これからお前達との時間を作ることは出来る」

 寝袋から起き上がり、俺は善治の顔を見た。善治も、俺を見て起き上がる。

「……楓馬、ごめん」

「熱くなっていたんだ。外に出て冷ますか?」

 半分冗談で言ったつもりが、奴は頷いた。

「気が利くね。一緒にどう?」

「……提案者が逆らうわけにはいかないか」

 二人して、夜の、それも雨の降っている公園に出ることにした。一応、俺は折り畳み傘を差そう。あいつの分はないけど、いいか。


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