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One's Summer  作者: 新増レン
三章「乙女になりたい乙女」
13/41

-12- 『どこか行きたい!』


「楓馬、何ぼ~っとしてるのよ」

「あ、いや。すまん」

「ふーくん、しっかりしてよ~?」

「それ、菜有ちゃんが言うの? くふっ! つぼに入った……くく」

 俺達は今、夏休みを今までのようにダラダラ過ごさないように、咲楽の家でこれからの計画を練っていた。

咲楽の家はこの田舎では大きい方の家で、必然的に集合場所となった。

『どこへ行くの? 私は海が好きですよ!』

 傍らで浮かんでいる生首もそうだが、俺は三人のことを考えていた。

 何故、菜有は手紙の字が読めなかったのか。

 一番親しい菜有が駄目となれば、他の二人は試す必要もない。

『うーみ! うーみ!』

『ちょっと静かにしてくれ。今考え事中だ』

『えー、せっかくコミュニケーションを取れるようになったんですよ? ほら、アイコンタクトとか!』

 生首がこちらを見ている。

 ウィンクしている。

 寒気がしてくる。

「ふーくんは、山と海ならどっちに行きたい?」

『きたぁぁぁあ!』

「そうだな、海かな」

 ここは仕方なくそう答えておこう。


「ふーくんの、えっち」


「なぜそうなる……」

「水着目当てでしょ!? ウチの目にはお見通しなんだからっ!」

「……どうすればいいんだ」

 パンッ!

 乾いた音が和室に響く。咲楽が手を叩いたらしい。

「不毛な論議を続けても仕方ないわよ。第一、海も山もこの近くにはないわ。電車を乗り継がないと……」

「それに、僕が海なんかに行ったら、みんなに向けられる嫉妬の目が怖いよ?」

「……馬鹿は一人で行ってきたらどう?」

「ごめん! 一緒じゃなきゃ嫌です!」

 善治は、根までチャラついたわけではないらしい。

「それじゃあ、どうしようかな?」

 みんなが悩み始めた。俺は悩んでいる風を装って生首と会話する。

『なにか、提案はないか?』

『そうですねぇ……さくちゃんの好きそうな場所……』

 さくちゃんとは、咲楽のことだ。

 実は昨晩――。



『しかし、まず誰に手紙を渡そうか……』

『さくちゃんがいいと思います』

『根拠は?』

『私が一番憶えているから、かな?』

 なんだ、それは。

『憶えているって、まさか記憶が飛んでいるのか?』

『名前以外はほとんど……。私もふーまくんと一緒に事故に遭ってますから』

『そうか……。でも、俺のことは憶えているのか?』

『不思議だねぇ。精神が居住しているから?』

『……まあいい。咲楽とは話も合うから、やりやすいだろう。でもなぁ』

『?』

『あの菜有が読めなかったんだぞ? 他の奴が読めるようになるのか?』

 正直、菜有から始めるのが妥当だと思っていた。しかし、千歳の意見は違う。

『きっと、何か理由があるはずです。それを見極めるためにも、私が一番協力しやすいさくちゃんにしましょう!』

『お前も、協力してくれるのか?』

『もちろんです。だって、私の問題でもありますし』

『……じゃあ、咲楽にするか』



 しかし、手紙をそのまま渡しても効果はないだろう。段階を踏まなくてはいけないかもしれない。

「楓馬は、そんなに海がいい?」

「え?」

「楓馬が言ったじゃない」

 考え込んでいた時、咲楽が話しかけてきた。

「……そうだな。このメンツなら、どこでもいいと思うぞ」

「……! そう、よね。やっぱり楓馬だ」

「なんだよ、そのやっぱりって」

「ふふ、なんでもないわよ?」

 咲楽は何かが楽しくて笑っているようだが、俺にはさっぱりわからない。

『私にもわかりません』

『心の声に応対するな』

「おーい、二人して盛り上がってないで、予定決めようよ~~」

「そうだよ~~。ふ~くんもさっちゃんも、真剣に話し合おうよ?」

「ごめんごめん。ほら、楓馬」

「あ、ああ」

 再び話し合いが始まった。

しかし、何も決まることが無いまま解散となった。


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