-12- 『どこか行きたい!』
「楓馬、何ぼ~っとしてるのよ」
「あ、いや。すまん」
「ふーくん、しっかりしてよ~?」
「それ、菜有ちゃんが言うの? くふっ! つぼに入った……くく」
俺達は今、夏休みを今までのようにダラダラ過ごさないように、咲楽の家でこれからの計画を練っていた。
咲楽の家はこの田舎では大きい方の家で、必然的に集合場所となった。
『どこへ行くの? 私は海が好きですよ!』
傍らで浮かんでいる生首もそうだが、俺は三人のことを考えていた。
何故、菜有は手紙の字が読めなかったのか。
一番親しい菜有が駄目となれば、他の二人は試す必要もない。
『うーみ! うーみ!』
『ちょっと静かにしてくれ。今考え事中だ』
『えー、せっかくコミュニケーションを取れるようになったんですよ? ほら、アイコンタクトとか!』
生首がこちらを見ている。
ウィンクしている。
寒気がしてくる。
「ふーくんは、山と海ならどっちに行きたい?」
『きたぁぁぁあ!』
「そうだな、海かな」
ここは仕方なくそう答えておこう。
「ふーくんの、えっち」
「なぜそうなる……」
「水着目当てでしょ!? ウチの目にはお見通しなんだからっ!」
「……どうすればいいんだ」
パンッ!
乾いた音が和室に響く。咲楽が手を叩いたらしい。
「不毛な論議を続けても仕方ないわよ。第一、海も山もこの近くにはないわ。電車を乗り継がないと……」
「それに、僕が海なんかに行ったら、みんなに向けられる嫉妬の目が怖いよ?」
「……馬鹿は一人で行ってきたらどう?」
「ごめん! 一緒じゃなきゃ嫌です!」
善治は、根までチャラついたわけではないらしい。
「それじゃあ、どうしようかな?」
みんなが悩み始めた。俺は悩んでいる風を装って生首と会話する。
『なにか、提案はないか?』
『そうですねぇ……さくちゃんの好きそうな場所……』
さくちゃんとは、咲楽のことだ。
実は昨晩――。
『しかし、まず誰に手紙を渡そうか……』
『さくちゃんがいいと思います』
『根拠は?』
『私が一番憶えているから、かな?』
なんだ、それは。
『憶えているって、まさか記憶が飛んでいるのか?』
『名前以外はほとんど……。私もふーまくんと一緒に事故に遭ってますから』
『そうか……。でも、俺のことは憶えているのか?』
『不思議だねぇ。精神が居住しているから?』
『……まあいい。咲楽とは話も合うから、やりやすいだろう。でもなぁ』
『?』
『あの菜有が読めなかったんだぞ? 他の奴が読めるようになるのか?』
正直、菜有から始めるのが妥当だと思っていた。しかし、千歳の意見は違う。
『きっと、何か理由があるはずです。それを見極めるためにも、私が一番協力しやすいさくちゃんにしましょう!』
『お前も、協力してくれるのか?』
『もちろんです。だって、私の問題でもありますし』
『……じゃあ、咲楽にするか』
しかし、手紙をそのまま渡しても効果はないだろう。段階を踏まなくてはいけないかもしれない。
「楓馬は、そんなに海がいい?」
「え?」
「楓馬が言ったじゃない」
考え込んでいた時、咲楽が話しかけてきた。
「……そうだな。このメンツなら、どこでもいいと思うぞ」
「……! そう、よね。やっぱり楓馬だ」
「なんだよ、そのやっぱりって」
「ふふ、なんでもないわよ?」
咲楽は何かが楽しくて笑っているようだが、俺にはさっぱりわからない。
『私にもわかりません』
『心の声に応対するな』
「おーい、二人して盛り上がってないで、予定決めようよ~~」
「そうだよ~~。ふ~くんもさっちゃんも、真剣に話し合おうよ?」
「ごめんごめん。ほら、楓馬」
「あ、ああ」
再び話し合いが始まった。
しかし、何も決まることが無いまま解散となった。




