-11- 『拝啓、未来の自分へ。』
一応、記憶は全て戻ったはずだ。
しかし、解決できていない案件がある。
それ自体を俺は持って帰り、部屋で開けてみた。すると、錆びたタイムカプセルからは手紙が五通出てきた。
「手紙しか入れるものなかったのか?」
『入れるもの決めたの、ふーまくんだよ?』
このように、俺が思い出してから頻繁に頭の中に声が浮かび上がる。
『千歳じゃなかったか?』
『えー、そうだっけ?』
こちらが念じれば、会話が成立する。奇妙な話だ。
俺は適当に手紙を拾い上げる。偶然にも、それは俺のものだった。
『あ、何を書いたのかな? 無垢な小学生君は。うふふ』
「……」
未来の自分へ
夢を追いかけていますか? 散っているのならば、それもまた人生。
瞬瀬楓馬
「何考えてんだ。小六の瞬瀬楓馬……」
『この頃から、少しばかり残念ですね』
『残念って言うな!』
「――て、あれ?」
部屋の中には、俺しかいないはずなのに、生首が浮いていた。
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
『な、なになに!?』
生首が驚いている。何だ、何が起こっている!
「どうしたの?! ふーくんっ!」
叫び声を聞いた菜有が駆けつけてくれた。女子に助けてもらうのは少しカッコ悪いが、この際関係ない!
「み、見てくれ! そこに生首が!」
俺は生首を指さした。
部屋の中央に浮いていて、何が起こっているのかこちらが訊きたいとでも言いたげな生首。頭にリボンをつけた黒髪の……あれ?
「何もないよ?」
「え? だってそこに、今も浮いてるだろ!」
菜有は目を凝らして、擦って、何度も見てくれるが目視できていない様子だった。
「ふーくん、疲れてるんだよ、きっと」
「あ、ああ」
「今日は早く寝た方がいいかもね。あ、もう少しで夕飯だからね~」
「わかった……」
菜有が行ってしまった。しかし、俺には生首が見える。空中に浮く生首と俺とのシングルルーム二人使用。あれを一人と数えていいのだろうか。
『もう、驚かせないでください』
俺は確認した。脳に響く声と生首の口の動きがシンクロしていることを。
『俺の指、見えるか?』
人差し指を生首に突き付ける。
『え? さっきから見え……る⁉』
当人がようやく気付いたらしい。
『あれ? どうしてふーまくんの顔が見えるの? それに、どうして私、首しかないの? 手は? 足は?』
『落ち着け。俺の手紙を読んでから、生首千歳が見えるようになったんだ』
『な、生首千歳って……』
『つまりこうだ。理屈はどうあれ他の手紙を読んだら、お前は全身を取り戻すんじゃないか?』
勿論、霊体だろうけど。
『そ、そうかもしれないです! 早く、片っ端から読んでください!』
「よし!」
残る手紙のうち、二通を読んでみる。善治と菜有に当てたものだ。
『どうだ!?』
『……全然だめです』
生首が、未だに浮いていた。
「そうか……。しかし、どうして俺の手紙だけなんだ?」
『もしかして、本人に読まれないと意味がないとか、ですかね?』
『……それもそうか。本人宛だったな』
『でも、私は手が無いから読めませんね』
「……」
つまり、他の連中にこの手紙を渡す必要があるのか。
『でもどうする? いずれ渡すつもりだったとしても、渡し方ってあるだろう?』
『手紙の内容は、私が担当したはずです。できるだけ、一人の時に読んでほしいですね』
『それじゃあ、手っ取り早く菜有に渡すか』
『いいと思います』
俺はもう一度菜有を呼んだ。彼女は疑うことなく健気に階段を上がってくる。
「どしたの?」
「これ、お前宛だ」
「……? ただの、紙切れ?」
「よ、よく見ろ! 字が書いてあるだろ!」
「ん~~」
渋い顔をしている。まさかとは思うが、読めないのか?
「ふーくん、早く寝てね。あと五分で夕飯出来るから」
そう言い残すと、悲しげに立ち去っていった。
『どういうことだ……』
『なにか、他にも条件が必要なんでしょうか? 普通のインクで書いたはずですけど……』
『……まあいい。とりあえず指標は決まった』
『え?』
『元々、これはあいつらに渡すつもりだったんだ。勿論渡すさ。だからそのために、あいつらと離れていた分の時間を、取り戻す』
『ど、どうやって?』
『さあな。俺のやるようにやる。でも、この町に戻ってきて、ようやくやりたいことが見つかった』
夏が、ようやく動き始めた。




