-9- 『神社にて、戻る』
「あれ? お出かけするの?」
「少しな。すぐに帰るよ」
「ウチも一緒に行くよ!」
「これは個人的な用事なんだ。すまんが、一人で行かせてくれ」
「ぶー、わかったよ~~」
頬を膨らませたが、納得してくれたようだ。
俺は外に出ると、真っ先にあの場所を目指す。
別に夢の中の声を信じるわけじゃない、ただ、あの声を無視することも出来なかった。
この田舎に戻ってから、不自然なほど記憶が重ならない。
自分もここにいたはずなのに、その余韻も、何も残っていない。
残っていたのは友人たちの自分に対する記憶と、自分の彼らに対するわずかな記憶だけだ。しかし、それすら不安を感じていた。
「ここか」
以前やって来た森に入り、神社を目指す。すぐにその無人の空間に辿り着き、何か変化を待ってみるものの、何も起こりはしなかった。
「……あほらし」
三十分近く待って何もないところを見ると、アレはただの夢だったらしい。
だが、そう思っても踵を返そうとしなかった。小さな境内の中を歩き、以前感じた違和感を探ろうとした。
かつてこの場所には、何かがあったはずだ。
それがなんだったのか、思い出せない。
「そうだ……」
歩き回るうちに、何かに気付いた。自分と誰かがここにアレを埋めたはずだ。
「今も、あるとしたら……」
位置を正確に憶えているわけではないが、何もしないで境内を散歩するより十分活力的だ。
俺はすぐにアレを探し始めた。
タイムカプセル。
俺が提案して、誰かと一緒に埋めに来たはずだ。そんな記憶が蘇った。
でも、誰と?
肝心のそこだけ抜け落ちていたが、探し出せば何かがわかるかもしれない。
俺はただ必死に、この変な違和感の正体を突き止めたい一心で捜索を続けた。
そして陽が傾き始めた頃、木の根元を掘るとそれらしきものが出てきた。
「あった……」
宝箱のようなそれは、間違いなく目的のものだった。記憶がそう言っている。
しかし、それを見た途端――頭痛が走った。
「ッ……なんだ、頭が!」
締め付ける様に、解き放つ様に、脳が伸縮するかのような感覚の中、俺は膝をついた。
ぐらりと世界が揺れるようで、気持ちが悪い。
「はぁ……はぁ……」
おまけに悪寒まで走る有様だ。
どうしようもない。
ただ、這うように痛みに耐えた。
すると何かが湧きでてくるように、頭の中で抜け落ちた記憶の正体が埋まっていった。
それは、このタイムカプセルを一緒に埋めた相手が、かつていたこと。
そして、彼女の名前が「雛町千歳」であることだ。
「千歳……そうだ。どうしてあいつのことを今まで、忘れていた」
俺達の中でリーダーシップを発揮し、四人をまとめ上げていたのは彼女だ。
普段は大人しいのだが、やる時はやるといったタイプだった。
しかし、千歳はいない。何故だ。
つまりそれは、彼女が死んだからだ……。
すぐにわかった。
「――っ!」
一気にすべてを思い出していく。
辛い記憶も痛い記憶も、悲しい記憶も……なにもかも、この宝箱を見た瞬間に湧き出てくるのは、千歳に関する記憶ばかりだ。
そうだ。あれはこのタイムカプセルを埋めた後だったはずだ。
断片的に失っていた記憶が、蘇ってくる。
俺は昔、大きな事故に巻き込まれた。一人ではない。誰かと一緒に。
その記憶は確かにあった。しかし、誰と一緒に事故に巻き込まれたのか、その辺が曖昧だった。今、それが明らかとなる。
一緒に巻き込まれたのは、千歳だ。




