第1話『悪役、魔を得る』
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さあさあやってまいりました、転生のお時間です。
どうやら俺は生涯続けた修行の最中に命を落としてしまったらしい。
自分でも気が付かなかったけど、つい先ほどまで話をしていた女神がそう言っていた。
「……」
生前から『転生』について想いを馳せることは幾度かあったけど、まさか自分に訪れるなんて思いもしなかった。
さすがに赤ちゃんから自分の意識が明確にあるなんて小恥ずかしいとは思ったけど、どうやら15歳の少年に転生するとのこと。
「……んん」
眩しい光――に目を細めることはなく。
暗闇の中で体を起こしながら、星空の下で辺りを確認してみる。
木々が並び、お尻の感触には草のクッションと乾いた土。
夜ではあるものの肌寒い印象はなく、月を探すまでもなく見つけられるほど雲がない。
しかし、ふと腹部を触ってみると違和感を覚え目線を下ろしてみると。
自分ではないと確信できてしまうほどの破れ方をしており、例えるなら獣の爪によって引き裂かれた、かのようだ。
「よいしょっと」
死因は、ある程度予想がついた。
でもありがたいことに傷口は完全に塞がっていて、座ったまま居続ける理由もない。
立ち上がって目線の高さに違和感がないことに感謝。
歩きながら、改めて身なりを確認してみると引き裂かれているワイシャツは肌触りもよく腹部が真っ赤に染まっている以外は大体が真っ白だ。
しかし森の中に居るとはいえ、生活に不自由していない人間が武器を持たず独りで歩き、悲しい最期を迎えてしまった、と。
女神様の情報だと、学園で思い通りに能力を発揮することができなかった悔しさと、それによって両親との衝突が起きて軋轢が生まれてしまったらしい。
所謂、家出。
「厳しいことを言うようだけど、もったいないよなぁ」
努力している人間であれば、誰しもがぶつかるであろう現状の限界値というなの壁。
それに向き合う覚悟が足りなかったり、対処方法を身に着けていないのであれば周りにあたってしまうこともあるだろう。
俺にも経験はあるし、肩を並べてきた人間を何人も見てきたから痛いほどわかるし同情できる。
でも、死んでしまっては全てが無に帰し、残るのは悲しみだけだ。
「痛いほどわかる。その気持ち」
才能がないとわかっていながら、自分より実力がある人間は沢山いる。
でもだからこそ、自分の努力でそんな奴らに勝ちたい。
右手を持ち上げ手を開く。
「これはいい」
こちらの世界では、これが普通なのだろう。
手のひらに浮かび上がる黒い炎を前に、この世界にある常識を体感する。
「これが魔力。これが魔法」
前世では拝むことすら叶わず、想像の世界から飛び出すことのなかった幻想。
幾度となく焦がれ、自身の不甲斐なさと世界の理を呪った。
だから体一つだけでも鍛錬し続ける修行を行っていた。
遂に実ることはなく、こうしてなんらかの事情で――いや、修行の一環で強行していた崖上りの最中に転落しただけだけど。
「これは面白い」
魔法。
参考に拝聴拝読した物語では、炎や水、雷や風といったものばかりだった。
土魔法で形作るものもあったけど――炎から剣にすることができるとは。
まさか想像通りに形状変化することができるのか。
『グガッ』
これはどうしたものか。
獰猛な獣そのもの、という大袈裟な表現は必要あるまい。
熊と鉢合わせてしまった。
しかし飛び掛かってくる気配はなく、どちらかというと少し驚いているようにも見える。
人間でいうところの、驚愕した事実を前に口をあんぐりと開けてしまって硬直してしまっている様子――……ああ、なるほど。
目線を少し下げて前足を見てみると、血。
「驚くのは当然、か」
まさか自分で息の根を止めた獲物が何事もなく歩いているのだから、その反応が正しいとさえ言える。
『ガァッ!』
「第2ラウンドというわけか。でも今の俺、強いよ?」
これが初陣になるわけだが、女神様から軽い指導を受けたから扱い方はわかる。
残念ながらチート能力を授かったわけじゃないけど、この世界にとっての常識は俺にとってのチートそのものだ。
熊と戦うなんて初めてだし、正直緊張する。
でも。
「全然負ける気がしない」
ただ修行し続けたわけじゃない。
強くなるため、そう、誰しもが一度は思ってみた願い。
俺は、ただ最強を目指して愚直に努力を続けてきた。
全身に魔力を込め――ああ――わかる、この先に待っている圧倒的な勝利を。
『グワァアアアア!!!!』
「まったく――」
『アアアア――ア……』
「これだから獣は」
突進して来た熊の横を通過し、正面から側面、そのまま後方へ抜けるまで魔剣を突き刺し払った。
「読み合い、緊張感、情報戦。全てを味わってこその死闘というものだろうに」
通過した熊を振り返ると、ドスンという音と大量の出血と共に地面へ倒れ込んだ。
「これだ、これ。これなんだよ。俺が追い求めた力は」
俺は笑みを浮かべながら余韻に浸る。
元々の世界で、俺は人間離れした体術や剣術を習得することは叶わなかった。
どれだけ努力しようとも、どれだけ格闘技を学ぼうとも、どれだけ人体の構造を理解しようとも。
でも今、自身の身長をも超える熊を1撃で討伐してわかった。
対峙したときに“死”を彷彿とさせる恐怖は既になく、力に基づく自信に満ちていたことを。
「この世界でなら、俺は最強になれるかもしれない」
どれだけ強い人間が居るかすらわからない世界だとしても。
「――さて」
元を辿ると、体の持ち主であった少年――アヤト・ザラストロフは家出をして森に迷い込んでしまったわけで。
そして悲劇に巡り合ってしまい齢15歳で命を落としてしまった。
新しい宿主として、黒沼彩人である俺が選ばれたわけだが……外見はそのままだから家族のためにも帰宅した方がいいだろう。
消息不明で捜索届を出されても困るし。
と、どういいわけをしようか考えながら帰路に就こうとしたときだった。
「きゃぁああああああああああああああああああああっ!」
唐突な悲鳴が響き渡り、驚きはしなかったものの足を止める。
こんな夜の時間帯に森の中を彷徨っているなんて、いったい――とは他人に言えた立場ではないな。
状況的に、このタイミングで死人が出たら俺が疑われるリスクもある。
だったら――。
「間に合ってくれよ」
声の方へ駆け出す。
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