師匠
目の前にある縦に細長く伸びた大きな穴。
僕は目の前で起きた事象に対して戸惑いを隠せずにいた。
何故こんな大穴が?あの爆音は?そんな疑問が浮かんでは消えて行く。
予想外だった。
僕の予想では奥の森の方へ直線的に飛んでいくはずだった。
まさか目の前に落ちるとは思いもしなかった。
目の前に出来た穴に手を入れてみる。
それは僕の腕が楽々と入りきってもまだ少しの余白を残していて、その奥底へと触れることは不可能だった。
「いてっ」
そしてその穴の周りの土は帯電していた。
よく見てみると、ビリビリと音を立てており、時おり放電しているのか、対面の土へと電気を放っているのが分かる。
これは本当に僕が起こしたのか?
未だ信じられない僕を差し置いて、背中から聞こえて来る声に耳を貸せばやれ「天才…?」だの「流石俺は息子だ!」など…もう既にこの事態を飲み込んでいる様子。
全く…親バカにも程があるだろう。
もっと他にも相応しい反応があるだろうに…
今まで魔法のまの字も知らなかった息子が急にこんな威力の魔法を使ったんだから、普通はもっと怖がったりなんなりするべきだろう。
…などと考えてしまうのは、俺がその様な人間だからだろうか。
普通の親は、そんな事を考えはしないのだろうか。
僕は後ろを振り返る。
父と母はやはりと言うべきか、目を輝かせこちらを見つめている。
「えっと…お父様…」
僕が言う終わるより先に口を開いたの父だった。
「シオン…魔法を学びたいか?」
「え…?」
想定外の答えに間抜けな声が出てしまう。
僕はもっと怒られるものだと思っていたのだが…
「学びたい…ですけれど…その、怒らないのですか?」
恐る恐る聞く僕に父は心底呆れた様な、はたまたどこか安心したかの様な顔をして見せる。
「なんだ、そんな事を心配していたのか?別に怒らないさ、確かにお前は土地を破壊したかもしれない。でもそんな事は修行していれば幾らでも起こり得る事故だ。」
そう平然と言ってのける父と何か言いたげな母。
「それに、シオンはわざとした訳じゃない。なら俺はお前を怒るなんて真似はしないよ。それよりもお前のしたい事をさせたい。」
「お父様…」
「私も言いたい事はあるけど…シオン、概ねお母さんも同じ意見よ、誰だって失敗する事はあるわ、大事なのはそれどうやって次に繋がるか。分かった?」
「はい…わかりました」
「ふふ、なら良し。じゃあお説教はこれでおしまい!」
僕は何を恐れていたのだろう。
もう僕は知っていたはずだろうに。
ちょっと魔法が使えたくらいで恐れたり、虐待したりする両親ではないと。
とっくに知っていたはずだろうに。
この5年間その背中を散々見て来たのだから。
僕は込み上げて来た熱いものを誤魔化すように母に抱きついて
「…魔法を学びたいです」
そう言うのだった。
それから数日後、僕は現在魔法の使用を禁止されていた。
理由は二つ、一つは父も母も魔法を教えることができるほど魔法に秀でていないと言う事。
もう一つは、自己流で魔法を使い続けると悪癖がつき将来苦労する事になるからと言うもの。
魔法にはある程基本となる型が存在している。
それは前回僕が使った詠唱と呼ばれる型や、算式を用いて使う理論型、そして感覚的に魔法を使う感覚型の大まかに分けて三つがあるらしい。
魔法使いは基本的に詠唱型が主流であるらしく、その他二つは珍しいのだとか。
と言うのも理論型は基本的に詠唱型の下位互換なのだとか。
詠唱型は理論型が行う算式と言う工程をこの詠唱に詰め込む事で省略し、使用している。
一方理論型は毎回一からになる為詠唱型が省略している工程を全て行う必要があるのだとか。
例にすれば、詠唱型は公式に当てはめて解くやり方。
理論型は公式を使わずに解く脳筋型と言ったところだろうか。
ただ勿論理論型にも利点はある。それは魔法の威力が省略無しな分跳ね上がると言うもの。
だからこそ未だ理論型の魔法使いも居るのだとか。
感覚派は2パターンに分けられる。
天才か、僧侶や司祭などの神を信仰する者。
司祭達は他の2つにと違い、魔法は神からの贈り物なのだから深く考える必要はない。
なぜならもう既に神様に与えられたのだからってな感じで理論やら詠唱やらは不要なのだとか。
天才も似た様なものらしい。
言うなら与えられたものの仕組みを理解せずに使っているのが感覚派で仕組みを理解して使うのが理論派と詠唱派なのだとか。
それと、何故両親が僕が魔法を使った際にそれほど驚かなかったのかと言うと。
「だってお前常に魔力垂れ流しだったじゃん」
との事。
まさかバレていたとは…なんて思ったが考えてみれば当たり前の事だった。
父は護衛騎士団なのだから魔力感知くらいお手のものだろう。
となれば隠す必要なんてはなから無かった事になる。
僕はいらない苦労をした事になる。
まぁ今更どうこう言った所で遅いのだが…
「シオン、師匠になる人が来たぞ」
「今行きます!」
そして今日は僕の師匠となる人が来る日。
何やら父が超一流魔法使いで師匠をしてくれる人を、コネを使い探し出してくれた。
ありがたい事この上ない。
「シオン、この人がこれからお前の師匠となる人だ」
「はじめまして、ノエル・フードと申します」
僕は目を疑った。
何故なら目の前にいるノエル・フードの見た目は、どう見ても10代…それも前半のものにしか見えなかったからだ。
魔法に年齢は関係ないとは言うものの、流石に驚きを隠せない。
僕の中での先生と言えば、老けていて理論的な人間と言うイメージ。
ただ目の前にいる少女はそれとは真逆だろう。
光沢を帯び、肩まで伸びた艶やかに光る金色の髪はハーフアップで纏め上げられており、一目見れば手入れの行き届いていることがわかる。
前髪はちょうど眉毛の高さで切り揃えられたパッツンヘアと言う奴だろう。
パチクリとした瞳とよく目が合う。
まるで幼子のようなその顔からはとても威厳なんて感じられない。
体型もまさしくロリ体型と言ったもの。
つまり…不安だ。本当にこの人が僕の師匠なのか?
「…シオン・ノーストです、これからお願いします」
自分でも分かるほどに疑いの声がでていた。
彼女はそれを感じ取ったのか
「…少し裏庭の方をお借りしても?」
そう言うと、両親の返事を待たずにそそくさと裏庭へと歩いていくと
「確か…雷魔法でしたよね」
そう呟くと杖を山の方へと真っ直ぐむける
「サンダーボルト」
彼女は詠唱なしでそう言い放つと、眩い光に辺りが包まれたと同時に目の前の山の頂上がえぐれていて、それはとても、とても大きな破壊痕になっていて。
僕は遅れて響いて来た轟音なんて全く耳に入らない程にその魔法に、彼女に見惚れてしまっていた。
彼女はふぅと息をつくと
「これで納得出来ましたか?シオン・ノーストくん?」
と一才の表情を崩さずに言って見せた。
僕はそんな彼女に
「…はい」
そう呟くしかできなかった。




