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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第3章 【少女】エリンシア
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第38話 お尻の話

 シアがお尻の無事を確認しに離れてから大して時間も経たない内に、皆は揃って戻ってきた。

 なんだかんだ放って置けなくて、早めに食事を済ませてきたらしい。


「お前だけか? 嬢ちゃん達は何処行った?」


 ポツンと1人で座っている息子を見て、団長が周りを見ながら訊ねた。


「いや、その……トイレ?」


「なんで疑問形なんだ……で、どうだったよ?」


 目を逸らしながら答える息子に突っ込みつつ、まぁそれなら気にする事では無いと決闘とやらの感想を聞く。


「どうって……なんなんだよあれ、反則過ぎんだろ」


「はははっ。例外とは言え相手を舐め過ぎたな」


「その様子じゃ何も出来なかったか」


 思い返しながらぶつくさと文句を言うが、団長はそれを笑い飛ばす。

 相対してから認識を改めてはいたが、それでは遅かった。


 横で聞いていたフェリクスも口を挟む。

 未だ彼女の障壁の具体的な強度は誰も知らないが、精霊が太鼓判を捺す程の物という認識はあるのだ。


「まぁ、そうっすね。全力の魔法でもビクともしなかったし……」


「……全力? やりすぎんなって言ったはずなんだけどなぁ、ん?」


 何も出来なかった事を指摘されて、気まずそうに恥ずかしそうにボソボソと答える。

 しかし全力でやってしまった事までうっかり漏らしてしまった。


 耳聡く反応した団長は静かに怒り出した。まぁお説教が待っていたので変わらないだろうけれど。

 

「はぁ……ちょっと来い」


 やらかしてくれた息子の頭を大きな手でガシッと掴み、そのまま隅の方へと引っ張って行く。なにやら呻き声が聞こえるが彼も自業自得だ。


「あーあ……」


「まぁ後は親子で片づけてもらおう。――しかしやはりあの子の護りは相当だな」


 それを見送ったフェリクスは笑っていた。同じ父として色々考えるのだろうか。


 わざわざ余計な口を挟む事でもないので放置したダリルは、改めてシアの障壁の事を考える。


「後でシアに頼んで、障壁の強度実験でもしてみるか?」


「そうだな。あの子の負担次第だが、やっておいた方が良いだろう。どんなもんか知っておきたい」


 彼の言いたい事を察したフェリクスは1つ提案をした。


 例え今では無くとも試して知っておかなければならない事だ。

 精霊が誇る程とは言え、強度の限界が不明な盾は正直不安である。


「確かに。知っていれば私達も安心出来るかもだし」


「そうね……凄いとは聞いていても、実際は何にも知らないから」


 セシリアとリリーナも賛同している。

 彼女達はまだ障壁をじっくりと見た事も無いし、詳しい話も知らないのだ。

 出会った時に見せられたくらいか。


「とりあえずあの子が戻ってきたら頼んでみるか」


 シアもすぐ戻るだろう。そう思ってフェリクスは話を切り上げて待つ事にした。



 そして、隅の方へ向かった2人はと言うと……

 まず直接鍛えない事についてしっかりと説明し、その後でガッツリと叱った。


 親子で鍛えるのは悪くはないが、周囲と鍛え合って色々な経験を積んでからの方がより良い。

 早くともせめて今のセシリアくらいが妥協点なのだろう。


 そしてもう1つ、シアの背負う事情を語った。

 鍛えるに至った憶測も含めて全てだ。


 息子には同情の様な先入観を持ってほしくないと考えて、まだ詳しく話すつもりは無かった。

 大人達だってそういった感情があるのだから尚更だろう。


 しかし喧嘩する程度には関わって彼女の力にも対面した。

 どうせいつか話す事になるなら今話そうと考え直したらしい。


「――と言う訳だ。あの子は同情なんて望んじゃいない……出来れば友人として自然に接してやって欲しい」


「…………」


 黙って聞いていた彼は、話が終わっても何も言えなかった。


「喧嘩もやり過ぎなきゃ別にいい、きっとそれも意味があるだろうからな。話はそんだけだ」


「……ああ」


 団長は最後に彼の頭をくしゃりと撫でて歩いて行った。


 嫉妬は殆ど消えたが、代わりに同情が彼の心を埋める。

 それでも言われた通りそんな感情は抜きにして、どう接していくべきかをひたすら考え続ける。

 どうにか絞り出した返事は重かった。




 シアが戻ったのはそれからしばらく経ってからだった。

 随分と時間が掛かったが……本当にお尻は大丈夫だったのか心配になる。


「ただいま~」


 シアの障壁の強度を確認するつもりなのもあって、彼らは鍛錬はひとまず後回しにしていたようだ。

 ぽてぽてと歩いて来る彼女を朗らかに迎える。


「おかえりシアちゃん、大丈夫?」


 トイレに行ったと聞いていたが、随分と時間が掛かっていたのでお腹でも壊したのかとセシリアは少し心配していた。

 一応、幼いとは言えシアも女の子なので直接的な言い方はしない。


「まだ痛いけど大丈夫……」


 お尻は無事だったらしい。

 しかし遠回しな言い方をされた所為で、そこの目を逸らしている男から事の顛末を聞いて心配していると思ってしまった。


 素直に答えてくれたが、そんな事情なんて誰も知らない。

 彼は未だに説明していないのだ。


「痛い? 本当に大丈夫なの?」


 なので痛いなんて聞いたら本当にお腹を壊したのだと思ってしまう。

 リリーナも心配して声を掛けるが、まさか痛いのはお腹じゃないなんて考えないから仕方ない。


「え……いや、まぁ……傷は無いし、痛いけど治癒魔法は使わなくても良さそうだから」


 いくらなんでも人に説明するには恥ずかしい場所なので濁して答える。

 お尻をぶっ刺された事を知られても、わざわざ自分で具体的に言いたくはないらしい。


 痛いと言いながらお尻を擦るが、そもそもの認識がズレているので勘違いが進む。


「傷? 痛いって、お尻が?」


「お前……その歳で痔か?」


 いまいちシアの言っている事が分からずリリーナは困惑し、横からダリルが神妙な顔でとんでもない事を言った。

 確かに彼女の言動ではそう思いかねないけれど、10歳の女の子に向かって言う言葉ではない。


「何言ってんですか!?」


「ほんとデリカシー無いわね!」


 途端にセシリアは怒り出し、リリーナは彼の脛を蹴りつけた。

 まぁ自業自得だ。いい歳したおっさんが少女に言うのはちょっと引くどころじゃない。


「ぐぁ……」


「流石にどうかと思う」


「お前、やめとけって」


 地味に痛くて蹲るダリルだが、セシルとフェリクスまで呆れて冷たい目をして上から吐き捨てる。

 団長は何も言わないが、やはり可哀想なモノを見る目。


 しかし、ずっと目を逸らしている奴はいい加減説明した方がいい。

 でないと後が大変な気がする。


「痔って魔法で治るのかな……」


「ちょっ、シアちゃん何言い出してんの!?」


「えっ!? まさか本当に……?」


 もしかしたらなんて不安に思ってしまったのか、ボソッと呟く。ちなみにちゃんと治る。


 それを聞いてしまったセシリアとリリーナは、本当にそういう話だったのかと驚くが、流石に女の子が男達の前でする発言ではないので慌てて注意した。


 ルナは1人勘違いに気付いたのかこっそり笑っている。


「え? だって私のお尻の話聞いたんじゃないの?」


「お尻の話って何!?」


 話を聞いていると思い込んでいるので、シアは呑気に首を傾げた。

 一方セシリアは更に混乱していく。


「んん? 聞いたから心配したんじゃ……?」


「待って、まずそのお尻の話を教えて――いや、こんなとこで言わなくていいわ」


 シアはようやく話がおかしい事に気付いたらしい。


 お尻の話とやらをリリーナが聞こうとするが、人に言うべきではない恥ずかしい事かもと思い直して止めた。


「なんだかよく分からないけど……アイツが私のお尻を虐めた話だよ? だから痛いって――」


 もうごちゃごちゃと考えるのも面倒なのか犯人を指差す。

 虐めたと言っても半分くらいは事故なのだが、全て彼の所為にしたらしい。


「「「は?」」」


 シアが言い切らない内に、一斉に全員で指差された奴を見て声を上げる。

 幼い少女のお尻を虐めたとはどういう事だと、怒りも多分に含まれた声と視線だ。


「げっ……」


 最悪の状況だと理解した当人はもう滝汗を流すしかない。


「降参しといて後ろから不意打ちしたんだ。それで石の槍がお尻にブッスリ……」


 笑っていたルナはここにきて更に面白がって、わざと誤解しそうな言い方で説明した。

 多少なりともシアを馬鹿にした恨みが残っていたらしい。


「いや、それはっ――」


「てめぇ……年下の女の子相手に何やってんだ……? もっかいこっち来い!」


 それを聞いた団長はさっきまでよりずっと恐ろしい顔でキレて、息子の顔面を思いっきり掴んでまたしても隅っこの方へと引き摺って行った。


 シアとルナはこっそり顔を見合わせてクスクス笑っている。


「ていうかそんな物刺されたらそりゃ痛いでしょ! 本当に大丈夫なの!?」


「服に穴は無いけど……可哀想に……」


 そういう事かと今更理解したリリーナは慌てて確認する。確認といっても聞くだけだ。


 セシリアもしゃがんでシアのお尻を観察している……が、その行動はどうなんだろうか。

 そのままお尻を撫で始めてもおかしくないかもしれない。


「え、あー……一応先っぽは丸かったし、さっき言った通り傷も無いし大丈夫だよ」


「座ろうとした所に石が突き出たんだ。ふふっ……」


 シアは今更になって顔を赤くしている。

 既に知られていると思っていたから恥ずかしさはなんとか耐えられていただけだったらしい。

 ルナも一応補足するが、思い出して笑ってばかりだ。


「うへぇ……」


「痛った……」


「そりゃあ、怪我がなくて良かったな」


 その説明を聞いて、フェリクスとセシルは思わず声を洩らす。

 セシルなど痛みを想像してしまったのか尻を抑えた。


 先程怒られたダリルもいつの間にか気を取り直して、怪我が無かった事に安心している。


「大丈夫なら良いけど……ていうかセシリアはいい加減お尻から離れなさいよ。変態みたいじゃない」


 怪我の事で嘘は言わないだろうとリリーナは信じて、いつまでもこんな話をするべきではないと話を終わらせた。

 ついでに変態染みた友人に注意もしておく。


「あんまりお尻見られるのも恥ずかしいよ……」


「あぁ、うん、ごめんごめん」


「最近あんたがちょっと心配になるわ……」


 見られていたシアが顔を赤くしながら離れてから、ようやく立ち上がり謝った。


 何か危ない癖で無いなら良いのだが……シアを保護してからなんだかアヤシイ言動が目立つ気がする。


「失礼な……シアちゃんが嫌がる事はしないよ」


「そのままでお願いね」


 とりあえず本人としてはそういう事らしいので、ひとまずは安心しておくとしよう。

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