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愛されクソ雑魚TSエルフが紡ぐ異世界シンフォニー  作者: 桜寝子
第1部 第3章 【少女】エリンシア
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第37話 初めましての決闘もどき 2

「んじゃ始め!」


 ルナの開始の合図で2人は動――かない。

 シアはそもそも動くつもりが無かったが、彼はどうしたのだろうか。


「っ!」


 返事はしたけど急に開始と言われても……と慌てて構える。

 挑発する為に構えを崩していたから遅れただけらしい。


 いつでもいいなんて言っていたのに、本当に馬鹿だった。


「動かないどころかまだ構えもしないのかよ。なら遠慮なくいかせてもらうぜ!」


 自分の事を棚に上げてなにやら言ってから、身体強化をして力を込めて踏み出すと同時に魔法を発動させる。


 シアの周囲から石の棘だか槍だかが6本、グルリと囲む様な形で突き出す。

 彼の適性は地属性らしい。


 石は速度さえ有れど先端は丸く滑らかで、見た目では分からないがかなり脆く作られている。

 言っていた通り、かなり控えめにしているのだろう。


 なので顔にでも直撃しない限りは痛くても怪我は無い……筈だ。多分。


「なっ!?」


 対しシアは障壁に包まれ全て防いで見せる。

 踏み込んだ彼は驚愕するが、全く予想外の事態で止まれない。


「残念だったね、そんなの当たらないよ!」


 木剣とは言え勢い良く目の前で振られる武器も同じく、身じろぎさえせずに障壁で防ぐ。

 そうしてニヤリと笑いながら煽り、余裕をアピール。良い性格をしている。


 しかし実は精一杯の虚勢だ。予想以上に彼の魔法が上手く、同時に踏み込まれて内心大慌てだった。

 急いで護るだけだったのをなんとか誤魔化しているだけである。


「クソッ! なんだよそれ!?」


 強化をしてかなりの力で振るった剣が弾かれ、再度驚愕するが反撃を恐れてすぐに距離を取る。


 ニヤニヤと余裕を見せるシアに対し、どう攻めるべきかと考えを巡らせる。

 あんな意味不明な防御をするなら攻撃も警戒しなければ……と、じっとりと汗をかいて焦り始めた。


「今度はちょっと硬くするからな!」


 しかし全く策が浮かばないので、とにかく攻撃だともう一度石の槍を突き出す。

 防御がどれ程の物か確認するだけの様子見なので正面から1本だけだ。


 わざわざ宣言するのは下手に怪我をさせない為だろう。変な所で冷静だ。


「ふふん。言ったでしょ? 私には触れる事さえ出来ないって!」


 当然ながら障壁はビクともせずに槍は砕ける。


 尚も自然体どころか、鬱憤を晴らす様に馬鹿にして笑っている。

 よくよく煽る奴である。生意気な子供そのものだ。


 多少の気を遣える程度には冷静さが残っていた彼も、もうこれ以上は無理かもしれない。


「クッソ! 馬鹿にしやがって!」


 やはり、元より怒っていたのに馬鹿にされて完全に沸騰している。


 改めて更に強度を増した槍を、今度は前後から2本突き出す。

 それさえもシアは難なく防ぎ、反撃として様々な属性の小さな弾を次々と撃ち出す。


 障壁の維持で精一杯なので威力は全く無い。

 相変わらず余裕だぞと虚勢を張っているだけだ。


「あぁ!? こんな舐めた攻撃しやがって! この程度で充分ってか!?」


 しかしその弱い反撃も煽りと捉えたらしく、苛立たし気に剣で振り払う。


 そのまま石の礫を多数放ち、ついでに全力で石の槍を再度6本囲んで突き刺す。

 辛うじて先端は丸いが、これは怪我では済まない威力だ。


「この程度じゃ私の護りは突破出来ないよ? 足元から突き出したって同じだからね」


「なんなんだよ、ちくしょう……っ!」


 全力で放ってしまった攻撃だが、まだ威力が足りない。

 それどころか次の攻撃方法を予想し、先に無理だと教えられてしまった。


 彼としては不本意だったのか、すぐにやりすぎた事を反省する。

 しかし多少落ち着いて考えても、未だにどうすればいいのか全く何も分からない。


「ねぇ、決着はどう付ける?」


 怒りと困惑の中に居る彼に反して、シアはこの戦いをどう終わらせるかを考え訊ねた。


 散々煽り散らかして溜飲が下がったのか、もしくは馬鹿にし過ぎかなと負い目を感じ始めたのかもしれない。


 丁度攻撃が途切れているのもあって、ゆっくりと歩いて近づく。

 ただでさえ歩きながら障壁を動かすのは難しい。

 ついでに体も痛いので随分と遅いが、それが返って得体の知れなさを強調している……様に彼には感じられた。


「……っ! くそっ何にも出来ねぇのかよ……なんだよそれはっ」


 ゴクリと喉を鳴らし、幼い少女に少しでも恐れを抱いた自分を認めてしまい、やりきれない感情が渦を巻く。


 今彼女の足元の地面を弄ってやれば、簡単に転んで勝手にダメージを食らってくれるのだが……そんな単純過ぎる発想は今の彼には思い浮かばない。


「ねぇってば。どうしたら決着になるの?」


 無視されて膨れっ面になり再度問い掛ける。

 攻撃手段が無い彼女ではこれ以上やり様が無いのだ。そんな事最初から考えておけと言いたい。


「ぐっ、ぅ……クソ、俺の負けでいい……」


 そして彼もまた、障壁を突破出来ないなら勝ち目が無い。

 なのでどうしようもないと判断して、憎々し気に降参の言葉を吐き捨てた。


「んぇ? ……へぇ~、自分から喧嘩売っといて降参するんだぁ~」


「っ……そうだよ! 満足したかクソガキ!」


 意外にも素直に降参したので驚くが、此れ見よがしにまたしてもニヤニヤと煽った。本当に良い性格をしている。

 怒ってくれる人が居ないので調子に乗っているらしい。


「まぁこれ以上やったって仕方ないもんね。もうルナも私も馬鹿にしないでよね」


「分かった、悪かったよ」


 降参してくれたなら良いや、と終わらせる事にしたようだ。

 とりあえず喧嘩を買った理由である発言に関しては注意しておく。


 彼は素直に謝り、剣を捨て両手を軽く挙げて見せる。

 もう何もしないという様子だったのでシアも障壁を解いて剣を放り出した。


 昨日の疲労も残っていたし、この決闘もどきも結構な負担になってしまったようだ。やはり貧弱。


「それはそれとして、食らえっ」


 しかし彼は負けを認めても、ただで終わらせる気は無かった。

 非は認めるが、散々煽られた仕返しがしたかったらしい。


 目に物見せてやろうと最後に1つ、石の槍をシアの後ろから突き出した。


 攻撃ではなく悪戯であり、ただ膝裏を軽く突いて転ばせようとしただけ。

 当然先端は丸く特別硬くもないし勢いも緩やかだった……のだが。


 タイミングが悪かった。

 シアは疲れて脱力する様に、座って休もうとお尻を降ろす姿勢になってしまった。


 まぁつまり――


「みぎゃぁぁあああ!?」


 シアの小さなお尻へと素晴らしい角度で突き刺さった。

 油断した所に座る勢いのままではかなりの痛みだろう。


「あっ、やべっ……」


 彼も予想外の展開に素で焦る。

 あれ程に余裕振っていたシアが疲れて座り込むだなんて考えなかったのだ。


「ふぐぅう……うぅあぁあ……」


 シアは突っ伏して悶えながらお尻を抑えている。

 散々煽って馬鹿にした罰だと思えば、ざまあみろと言った所だろうか。


 彼女も彼女で、彼が両手を上げているのを見て警戒なんてしていなかった。

 この世界ではそんなポーズに意味が無い事を失念していたのだ。


「あっはっはっは! みぎゃーって、あははははっ!」


 全部見ていたルナは堪らず笑い転げている。彼女も彼女で相変わらず良い性格をしているものだ。


「うぅぅ、痛い……お尻割れた……」


「お尻は割れてるよ。ぷくくっ」


 痛がってはいるが大丈夫そうだ。

 ルナもそれを察して軽口で返す。


「じゃあ穴開いた……刺さったもん……」


「穴も最初からあるよ」


 彼女の尊厳の為にも一応言っておくが、直撃はしてもズブリと突き刺さった訳ではない。


 しかしそんな事を言っていた所為で、当人はとんでもない事をやってしまったと酷く焦っている。


「いやっ、その……ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……たまたま……」


「うぅ……酷いよぉ……痔になったらどうするの……」


 未だ地面に転がったままお尻を抑え、涙目で返すが声に力が入っていない。


 彼の焦り具合からわざとではない事は分かるのだが、だからと言って仕方ないねとは言えない。


「ほんとごめん……」


 流石に女の子のお尻に酷い事をするつもりは全く無く、やってしまった罪悪感でしょんぼりしながらもう一度謝る。


 突き出していた石の槍も、彼の様にしょんぼりと小さくなって地面へと返っていった。


「とりあえずトイレ行く?」


「そうする……」


 場所が場所なだけにこんな所で確認も出来ない。

 よたよたと立ち上がりひょこひょこ歩いていくが、お尻を抑えてそんな歩き方をしていると最悪な勘違いが生まれかねない。


 そして1人残された彼は隅っこで大人しくしていた。

 あんなに怒っていたというのに、最早完全に毒気を抜かれている。


 ひとまず荒らした地面を綺麗に均して、投げ出されていた木剣を片付け……

 もし先に皆が戻ってきたらなんて説明すればいいんだ、と予想もしなかった事態に頭を悩ませるのだった。

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