第57話 マレイの薬屋を作った
商業ギルドがどこにあるのか、宿のタマヨさんに聞いた。
「宿を右に出てにゃ、300メートルほど行くにゃ、左側に大きな白い建物がありますにゃ。看板が出てるにゃ、すぐわかるにゃ」
『カラーン、コローン』
開きドアを押し開けると、鈴のような音で、来店を知らせる鐘がなった。
「いらっしゃいませ」と、横から声がした。
金髪をツインテールにした少女が挨拶をしてきた。
「商業ギルドへようこそ。私、受付のトマコと申します。よろしくお願いします。今日はどのような、ご用件でご来店いただけたのでしょうか?」
「これはこれは、私はフリオ・マレイと申します。こちらで商いをさせていただこうと、登録に参った次第です」
「それでは、こちらにどうぞ」
ちょっとした、個室に通された。
登録申請の羊皮紙を差し出されたので、名前年齢、商業形態、取り扱う品などを記入した。まあ、まだ空欄が多いのだが。
「10日ほど前に、こちらに入国したばかりなので、事情に疎くあります。少し情報を頂いていいでしょうか?。情報料は、これで如何でしょう?」
クッキーの袋を渡した。
甘い香りに、気が付いたトマコさんの顔が緩んだ。
ミレーユ国王は、ハヤト・サガラと言い、賢王だと噂されている。3人の王妃がおり、子供は12人に至っている。しかし、賢王だとしても、子供は愚かでないとは言い難いようだと。2番目の王子が悪いらしい。
作物の税は6割、商いは3割、その他は4割だそうだ。
商業ギルドのほかに、冒険者ギルドがある。そのほか、小さいギルドが多く存在するが、まとまりがあるのは商業ギルドと冒険者ギルドだと。特に、この二つのギルドは、国境を越えて7つの国を自由に行き来できるらしい。
商業ギルドの本拠地は、ここミレーユ王国の王都にあるそうだ。
商業ギルドに登録した。
やはり、商売は楽しい。あるもの、ないもの、手に入れたい、人の欲望には際限がない。
そう、商いはその欲望を満たすという高尚な目的があるのだ。でも、それには、公序良俗には反しないことが条件となる。公の秩序又は善良の風俗から外れた商いはしないということだ。
”公の秩序”とは、”郷に入っては郷に従え”とも言える。例えば、死の商人もあり得るのだ。何が正しく、何が悪なのか?。商いは、その郷に従うってことだ。望む人に望むものを。
もちろん手数料と適正な儲けはもらう。損得勘定は重要だよ。
マレイ領の青い館に戻ってきた。
ソフィア、にゃん吉やグリンたちも交えて、情報交換をした。
まず、情報が第一だ。
カレンに市場に並んでいる品物と価格を調査していた。
と言っても、カレンには映像の取得とデータベース化の機能がある。それを一覧して、見せてくれた。
市場に出回っているので、生鮮物は今日明日には売れる量と見ていい。干物は10日ほどの滞留期間。穀物は3か月ってところだろうか。
この世界は通貨はあるが、半分以上は物々交換で取引されている。価格の横に主要な交換レートが表示されている。しばらく滞在して、データを取ろうか。種類、販売する人、場所、店舗の大きさ、価格と値引きなどなど。
ニンジンは、ウサギ一匹で20本くれる。ウサギの魔石一個では50本、持ちきれないよ。
ニンジン一本が30マルとすると、魔石は1500マル。小さいルビーは5000マルだった。
忘却の地にと違って、ここミレーユ王国では硬貨が出回っていた。小銅貨が10マル、銅貨が100マル、中銅貨が500マル、銀貨が5000マルだった。その上の小金貨が5万マル、金貨が50万マルとなっており、庶民には出回らない。
そうそう、魔石は全てのウサギから取れるわけではない。100匹に1個ぐらいらしい。
ウサギは子供でも工夫次第では手に入るので安いし、庶民のたんぱく源になっている。ルビーは、山や川などで時に見つけることができる。まあ滅多に見つかるものでは無い。アパタイトは豆粒大が1万マル。カンラン石は3000マル。まあ、いずれも品質次第だが、一般には出回る品質と大きさは大差がないので、硬貨の代用となっているらしい。
平均賃金は日当3000マルぐらいで、年収は80万マル程度らしい。
ギルドで、空き店舗を紹介してもらった。
広場から東門に近い、そう、”あかつき亭”の3軒向かい隣りになる。
間口20メートル、奥行き30メートル、3階建ての住居兼店舗だ。中を覗いてみると”あかつき亭”に似ている。カウンターとテーブルがあって、飲み食いができるようになっている。階上は住居、兼宿と思われる。
翌日から、タロウ、グリン、にゃん吉が大工をしていた。僕は設計と指図。
カレンとタロウはナノマシンで構成された人型生物で万能だ。大工、石工、裁縫、メイド、料理なんでもこなせる。まあ、できないものもあるそうだけど。
僕とカレン、ソフィアは、町に椅子や机、ベッド、調理器具、食器など買い出し班。
3日ほどで完成した。一階には飲み薬、塗薬は定番、香辛料やお茶もある。
それと仕切った向こう側には、季節の花や苗、野菜の種や穀物類の種などを並べた。
看板には”マレイの薬屋”。一応、花も少し置いてある。この世界では、まだ花を愛でる習慣は少ないようだ。
薬だけでは華やかさが無いので、花屋も併設した。可愛いソフィアとカレンが店番だ。
ソフィアとカレンは15歳ぐらいに見える。タロウと姉弟を装っている。もちろん僕はお父さん。
カラーン、カラーンとお客さんが入ってきた。
ドアは無いので、店の入り口を通過したときになるような仕掛けにしてある。
「いらっしゃいませー」とソフィア。
花や種、薬などは、マレイの家で栽培している。原価ゼロの品なので、全て儲けになる。
値段は周囲との軋轢を避けるため、若干高めか同じぐらいにしている。
薬は、胃薬、湿布、熱さまし、傷薬、健康茶、ダイエット茶、包帯などなど
回復薬もある。回復呪文もあるが、唱えられるのは少数。よって、回復屋がある。これが結構高額なんだよね。
できることは精々、傷口の修復とちょっとした止血程度。ただ疲労は半分ほど回復する程度らしい。
僕が作って売っている回復薬は、それよりもちょっと効きが悪いが、安い。中銅貨5枚、2500マルだ。作業で疲労こんばいのとき、一服すれば、さらにひと頑張りできる。でも食費が増えるという副作用はあるよ。
カレンの外見は15歳ぐらいの少女。黒髪を後ろで一本の三つ編みにしている。まあ、色白で愛嬌のある顔をしている。皆が振り向くような美人ではない。店番では、青のオーバーオールとピンクのブラウスと半長靴。
機動性を重視している。まあ、普通の店番。カレンもタロウも僕も、この町の人たちと違って瞳が赤い。
ソフィアはエルフで美人。男性客に人気で、顔を見せる青年が増える一方。
タロウは見かけだけ12歳だが、中身はカレンと同じ知識を持っている。落ち着いた感じで、僕の助手をしている。裏方で薬の精製や調合をやっているが、時々店番もしている。
カラーン、カラーンとお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー」と、今日はカレンが店番だ。
お父さんは、品物の補充や棚の整理を黙々とやっている。懐かしくて涙がこぼれるよ。




