45.バレンタインデー2<騎士と魔女の祝祭 フェイズ2>
「春はあけぼのだねぇ……君たちは初々しくていいね」
「お前いきなり何言ってんの?」
クラスに入って紅と別れそれぞれの席について俺は沖田に声をかけられた。クラスでは必死に机をあさってチョコを探している男子生徒や、沖田をちらちらとみている女子生徒がいたりでいつもとは違う喧騒で包まれている。
「いやぁ、朝から見せつけてくれるなぁって思ってさ」
「うっせー、ほっとけ……」
ふと気になって紅のほうをみると恵理子にいじられているのか、顔を真っ赤にして顔をうつ向かせている紅が見えた。ちょっと朝からやりすぎたな。あ、恵理子と目が合うとこちらをにやにやとみて笑っている。あとで俺もからかわれそうだな……
「それより、嫌な夢を見たんだ、聞いてくれるかい? 僕さ、剣道強化合宿が文化祭とかぶってたから文化祭行けなかったんだけどさ、三か月くらい出番がないうえに安心院に君の親友ポジションを奪われる夢を見たんだ」
「お前マジで何言ってんの? 合宿で頭でも打ったのか?」
「まあ、頭は打たれたねえ……さすが全国からくるだけあって強敵ばかりだったよ……」
「やっぱり剣道の合宿って、斎藤とか。永倉、土方とかいたの?」
「斎藤君はいたねぇ……彼の胴は鋭かったよ」
「あ、得意技は突きじゃないんだな」
「何かみんなに牙突やってって言われるからむかついて胴を極めたっていってたよ」
よくわからないことを言っている沖田に相手にしながら俺はカバンから教科書を出す。運悪く手紙が落ちていしまう。俺は急いで拾ったが。彼は手紙を見ると一瞬目を見開いてからにやりと笑った。
「今時手紙とは古風だねぇ、バレンタインデーだもんね。やるじゃないか」
「からかうなよ……正直俺はいたずらの可能性が高いと思っているんだが……自分で言うのもなんだがもてないしな……」
「うーん、まあ君の場合彼女がいるわけだし、はっきり断るんだろ? だったらあんまり気にしなくていいんじゃない? それよりもさ、田中さんにちゃんと好きって伝えるんだよ、たぶん彼女は不安だろうからさ」
沖田は紅のほうを指さして言った。彼女はなぜか頬を膨らませて俺を睨んでいた。目が合うと慌ててそらされる。え、なんでだ? さっきまであんなに機嫌が良かったのに……
「神矢と順調みたいね。手をつないで登校したのみたわよ」
「なっ、なんのことでしょうか?」
登校して席に着いた私にえっちゃんがにやにやと笑いながら話しかけてきた。その一言で私は顔を真っ赤にして顔をうつ向かせてしまう。
うう、つい盛り上がって校内で手をつないでしまったのだが……そりゃあ、目立つわよね。冷静に考えると少し、いや、かなり恥ずかしいものがある。とりあえず話題を変えないと……
「今日はバレンタインデーですね、えっちゃんは誰か男子にチョコを渡すんですか?」
「あ、話題を変えたわね。まあ、あんまりいじってもかわいそうだしね。私は神矢にあげるくらいかしらね……あ、もちろん義理だからね。安心してね」
私に気を使ったのか、えっちゃんが慌てたように付け加えた。別に気にしなくてもいいのにと思う。でも私はさきほどのことが頭にあったのだろう。思わず頭に浮かんだことを聞いてしまった。
「ねえ、えっちゃん、神矢って中学の頃ってモテたんですか?」
「え、それはないわよ。あいつはそのあれだから……それよりさっちゃんのほうがモテたでしょう」
「いえ、私は女子中でしたからね……出会いすらありませんでした」
私の言葉にえっちゃんは苦笑する。ちょっと安心したようながっかりしたような不思議な気分だ。神矢の黒竜の騎士の良いところを知っているのは私だけだというのだろう。厨二なところは、もちろん、結構気が利くところや、優しいところ、かっこいいところも私だけが知ってるという事だろう。
「あ、でも、昔に一回だけだけど、神矢の事を紹介してって言われたことあったわね」
「はっ?」
「昔よ、昔の事よ……落ち着いて……なんか人殺しみたいな顔をしてるわよ……」
「え、そんな顔をしてましたか?」
私は一体どんな顔をしていたのだろうか? 鏡で確認してみるが普通よね……神矢の中学の頃か……私は一緒に良く行動をしていたがそれは学校外での話である。彼はどんな中学生活を送っていたのだろうか? 誰かといい感じになったりしたのだろうか? 私は魔女になるための修行を友人たちとしていたくらいだったがどうなのだろう? そういえば、当時の友人とも引っ越してから、時々ラインをしているのが久々に会いたいものだ。
「まあ、安心してよ、神矢を好きになるなんて百人に一人いるかいないかよ」
えっちゃんの言葉に私は考える。百人に一人という事は学校に五百人はいるわけだから五人も神矢を好きになるという事だ。私がそのうちの一人だとしても後四人もライバルがいるという事だろう。神矢をみていたら目が合ったので咄嗟に視線を逸らす。ずっと見つめていたのがばれるのは少し恥ずかしい。
でも……私たちは付き合っているのだから、彼をもっと惚れさせればいいだけである。魔女の魔法の力をみせてやろう。私は心に誓うのであった。
バレンタインデー終わったらすぐホワイトデーやります!
本当は短編みたいにやるはずが仕事がやばくて書き終わらなかった…