44.後夜祭3<魔女の呪い>
安心院と赤坂さんの騒動をみて、俺達は動きを止めていた。てか何がおきているの? すごい音がしたと思ったら人の波が赤坂さんを避けるように動いたのだ。いや、本当に何がおきているんだよ!!
「まるで聖女の奇跡をみているようね。モーゼを思い出したわ…」
「聖女の奇跡って言うよりも物理だよな……」
紅もびっくりしたようにつぶやいている……まあ、何だかんだ安心院とうまくいったようで何よりだ。安心院の命? そんなの知らないな。まあ、あほな事をしなければ大丈夫だとは思う。絶対あほな事をしそうだけど……俺がそう思っているとBGMが流れ始めた。
少しイレギュラーはあったが後夜祭のダンスがはじまるようだ。やはり魔女の騎士としてエスコートするべきだろう。
「騎士から主へのお誘いだ。よかったら一緒に踊ってくれませんか?」
俺の言葉に紅は一瞬固まったがこちらをみつめる。そのまま何か言おうとしたが何かを思いついたかの様に意地の悪い笑みを浮かべた。
「あらあら、騎士ごときが主におねだり何て図々しいと思わないの? そうね……もっと情熱的にお願いしたら考えてあげてもいいわ」
「じゃあ、他の人に頼むわ……」
「ちょっと待ちなさい!! 他の人って誰よ? 浮気? 呪い殺すわよ」
「お前理不尽過ぎない!? 冗談だから冗談だから!! 紅と踊りたいです!!! だから足を踏むんじゃねえ!! あとジキルとハイド」
二人してギャーギャー騒いでいると周囲の視線が俺達に突き刺さった。とりあえず、手を振ってごまかす。てかもう、紅の本性とかみんなにばれているんじゃ……
「その……しかたないから踊ってあげますね」
「お願いします……」
周囲の視線を気にしたのか紅が敬語で俺に話しかけてきた。もう手遅れな気もするけどなぁ……と思ったが余計な事は言わないで彼女の手を握る。練習でさんざん手を握ったが、後夜祭という雰囲気も相まって、なぜか緊張してしまう。暗がりの中で紅の綺麗な顔が映える。本当に綺麗だなぁ……
「神矢の手は暖かいですね」
「ああ……」
彼女も同様なのか顔を真っ赤にしながら俺と踊る動きはどことなくぎこちない。俺の体温が彼女に伝わり徐々に手が暖かくなってくる。ああ、なんかいいなと思う。ずっと一緒にいたいなと願う。目が合うと紅も同様なのか、少し恥ずかしそうに微笑んだ。無言でも気持ちが伝わったのか、そのまま見つめあう。ああ、このままこの時間が永遠に続けばいいのにと思った。そして俺達はしばらく一緒に踊り続けた。
後夜祭も後半に差し掛り、あるものはダンスを続け、あるものはカップルで愛を囁きあっているのだろう。そんな中、俺達は部室で後片づけをしようと声かけて一緒に休んでいた。本当はずっと踊っていてもよかったんだが、紅の体力がね……多少鍛えたとはいえ、やはり貧弱である。まあ、魔女は後衛ポジションだから仕方ないよな。
ちなみに部室に来たのは本気で片付けに来たわけではない。あくまで口実であり、二人っきりになりたかったのと、最後に打ちあがる花火がこの部室からはよくみえるそうだ。天草先輩がお詫びとばかりに教えてくれた。
「うう……もう動けないわ……」
「まあ、今日は劇をしたりダンス踊ったりしたからな。これを飲んでHP回復するんだな」
「ありがとう、私の騎士は気が利くわね」
「もちろん、俺は紅の事ばかり考えているからな」
「ばか……」
俺は部室でぐでーっとしている紅に自販機で買っておいたトマトジュースを渡す。彼女は顔をトマトのように真っ赤にしながら飲んでいる。そういえば、天草先輩との勝負にしたらキスって話だったんだよなぁ……結局負けてしまったのでおあずけか……俺は思わず紅の唇をみてしまう。今キスしたらトマトの味がするのかな……なんてな。
「なーに、こっちをそんな風にみて? あ、トマトジュースついてるかしら」
「なんでもない、それよりそろそろ始まるぞ」
俺の視線に気づいた紅が唇を蝙蝠のハンカチで拭いている。意識したのがばれてしまって恥ずかしくてつい、話を変える。すると部室の明かりが急に消えた?
「ん? なんだ?」
「暗い方が花火は良く見えるでしょう? それに暗闇こそが黄泉の魔女の世界よ」
「気が合うな、黒竜の騎士も暗闇を愛しているんだ」
俺達は軽口を叩きあいながら、花火をみるために窓際を陣取る。俺が座ると、何やら柔らかい感触と甘い匂いが、俺の身体を襲う。やばい、心臓がすごいバクバクしてきた。
「紅……?」
「夜は寒いからこうしたほうが暖かいでしょう」
「ああ、そうだな……」
どうやら紅が俺によりかかってきたようだ。暖房がかかっているぞっていうほど野暮ではない。今は暗闇に感謝する。多分俺の顔は真っ赤で人に見せられたものはないだろうから……
「今回の文化祭は私の意地に付き合ってくれてありがとう、おかげで楽しかったわ。神矢はどうだったかしら。その……迷惑じゃなかった?」
「迷惑なわけないだろ、本当に嫌なら断るし、その……お前と一緒ならどこでも楽しいよ」
「そう、よかった……勝負には負けたけどこれは付き合ってくれたお礼よ」
暗闇で良く見えないが紅は微笑んでくれているのだろう。正直彼女と過ごした文化祭は人生で一番楽しかった。俺がそう言おうとするとなにやら彼女の顔が近づいてきて……
外で花火の音が響いたが、俺がそれをみることはできなかった。正直それどころじゃなかったからだ。重なっていた影が離れ、俺の身体に伝わっていた、暖かい感触も去っていってしまった。だが先ほど以上に俺の身体は熱くなっていた。
「あの……紅さん?」
「口にするのはもうちょっと時間をちょうだい……嫌なわけじゃないんだけど、その、まだ心の準備がね……」
「ああ……」
俺は不思議な感触を感じた頬を大事にさすりながら思う。今自分の頬はトマトの味がするのだろうか? などと思っていると紅が口パクで何かを言葉を紡いだ。暗闇に慣れたせいか良く見える。俺が怪訝な顔をしていると彼女は意地悪く、でも幸せそうに言った。
「今のは黄泉の魔女の呪いよ。もしも呪いの通りに行動しなかったら災厄があなたに降りかかるから気をつけなさい」
「え、俺だけ呪われるの? 理不尽じゃない?」
「私の言う通りにしていれば呪いは発動しないから安心しなさい。それにこの呪いを守ってくれる限り私はあなたの主でいてあげるわ」
慌てる俺に彼女は意地悪く笑うだけだ。どうやら口に出してはくれないらしい。そうして俺達の文化祭は終わったのだった。
学校を出て紅を帰り道におくっている時に彼女に言い忘れたことがあったので伝えることにした。魅了に契約と魔女の魔法は色々聞いているが、俺のスキルを教えていなかったからな。
「そういやさ、実は読唇術がつかえるんだ。テロリストに襲撃された時用に覚えたんだよな」
「ふーん、そうなの。すごいわね」
ちなみに沖田も使える。というか俺と読唇術で会話をしてくれるやつが同じ学校に必要だったからな。すごい嫌そうな顔をしたが覚えてもらったのだ。しばらく、黙って歩いていたが紅が何かに気づいたかのように叫びだした。
「ちょっと待ちなさい!! じゃあ、さっき言った言葉も……?」
「ああ、俺も同じ気持ちだと答えよう」
「ふぁぁぁぁ!!」
ポカポカと殴ってくる彼女をみて俺は胸が熱くなるのを感じた。魔女の呪いの言葉は『神矢大好き、ずっと一緒にいてください』彼女からその一言が聞けただけで俺は文化祭に参加した甲斐があったと思う。
春はあげぽよーーー!!
更新遅れて申し訳ありません。高校生で付き合った後ってどうなるんだろうと色々思い出したり、かぐや様よんだりして色々構想練っていたのですがようやく方向性はきまりました。一応終わり方は決めているんですけどね。それまでの過程が……
あとご報告なのですがこの作品が『ネット小説大賞トレジャーハンター』で紹介されました。受賞したわけではないのですがまじで嬉しいです。
https://www.cg-con.com/topics/10869/
上記URLなのでお暇でしたら読んでくださると嬉しいです。